013
彼が持つ武具。それが何なのか
「いらっしゃいませ……あら久しぶりじゃない。100日は経ったんじゃない? ユウ」
……んー。それくらいたった、か。な?
「こんにちわ、ミエルさん」
「あら、上手くしゃべれるようになったじゃない」
ギク、まだ、怪しまれているのか!? だ、だからといってここで逃げ出すのもさらに怪しまれるし。ここは、胸を張るしかない。
「……ど~も!」
「あら警戒しちゃって。かわいい子供……」
「睨みつけながらそんな台詞言われても嬉しくない」
「アハハ。まぁ、あなたが邪法使いでも告げ口する気無いから気にしないで」
いいのかそれで!?
……馬鹿女と別れて、予定通りミエルの店に来ていた。相変わらず、人はさっぱり入っていない。生活するためのお金がちゃんと手に入っているのか疑問だよ。
おっと、そんなのを観察しに来たわけじゃなかった。
「これの神素チャージお願いします」
「あら、空っぽ……ってこれ、買った当日に使い切ってない?」
え゛? そういうのわかるの?
「えー。実は、ゴブリンの群れに当たって、逃げるのに使い切りました」
「あら、不幸ね……そういえば魔窟騒ぎが目立ち始めたのもその時期よね。3000ギスでいいわ」
僕は3000ギス。銀貨三枚を渡す。そして、お店の中をぐるりと回る。
「なにか、僕でも使いやすい道具ありませんか? 剣とかあれば嬉しいんですけど」
「残念だけど刃物は売ってないわ。ウチは杖と小物系しかないわ」
えー。じゃあ、なんか、ないかなぁ……どういうものがあるかも良くわからないからなぁ。
「あなた、近接戦闘の冒険者なの?」
「え、いや、ちょっと修行中ですね」
「なら、この腕輪とかどう?」
そういわれ差し出されたのが、乳白色だけど、ところどころ灰色が入り混じっているバンクルだった。でも結構細めだな。とりあえず、腕につけてみる。ちょっと大きいけど、問題ないな。
「種類は神聖波動術で、内容肉体強化よ。防御能力があがるわ」
……? 肉体強化って、どういうこと?
「身体能力の強化って、体内に取り込んで燃やす方法でしょ?」
「あら、知らないの?」
ということで、説明してもらった。自主的に強化する方法が今僕が訓練しえいる、魔素を取り込んで使用する肉体パーツにエネルギーを注いで身体能力を強化するって奴だけど、他人から神聖術を施してもらうことでも身体強化が可能らしい。しかも、自身の身体強化と重複するから更なるパワーアップが見込めるわけです。
その技法が神聖波動術に分類されているらしい。ついでに分類についても教えてもらったけど、神聖術って言うのは大きく4つの種類に分別されるらしい。神聖波動術、神聖治癒術、神聖浄化術、閃光術だ。話がそれるけど……治癒術って、凄くない? 元の世界で言う、怪我をあっと今に治しちゃう魔法でしょ?
「ということで、このバンクルが波動術の肉体防御力強化よ」
なんと岩石のような体が手に入るとか何とか。胡散臭いね。元の世界なら。
「いくら?」
「2万でいいわ。今ならチャージもおまけするわ」
また未チャージ品かよ!? せこい!!
「じゃあください」
財布を取り出して、金貨2枚を差し出す。チャージしてもらうのに腕輪も渡す。
「あら? すぐ買うのね」
「生き残る術はいっぱいあったの方がいいじゃん」
切り札はばれたら即死亡の危ない手段だからね。
「……あなた危ない仕事でもしてるの?」
「別にそういうわけじゃないけど…・・・」
命の危険にさらされる切っ掛けを常に持ち歩いてるから用心するに越したこと無いかなと思って。
「ふふ、面白い子ね。その髪飾り、ちょっとかしてもらえるかしら?」
なんで? と思ったけど、とりあえず渡してみる。視力が下がる。急に目が悪くなってちょっと気分が悪くなる。ミエルがその髪飾りに何か細工をしてるけど……何してるんだろう。
「はい、サービスよ。ちょっとだけ強化しておいたわ」
「あ、ありがとう」
何が強化されたのか良くわからないけど、髪飾りを付け直してみる。……まぁ、いつもどおり良く見えるけど……あとは、なんか変な気配を強く感じるけど。
「何を強化したの?」
「霊的な要素を感じやすいようにしたわ」
……僕、実は霊感が高くってですね。元の世界じゃ幽霊がかすかに見えるほどに霊感が高くて。嫌な予感がして、髪飾りをはずしてみる。しかーし、変な気配の感じ方が変わらない。
まずい、霊的才能にこっちでも目覚めた。今の今まで霊的力が僕に宿っていたことすら忘れてたのに……。いやでも、見えないし、変な気配が感じるだけだな? こっちの世界には幽霊って存在は居ないのかな?
「あら? あなたそっちの才能はあったのね」何で見ただけでわかるの!? 「髪飾りをきっかけに目覚めてるみたい。でも便利よ。聖域があるからいいけど、聖域の働いてない場所じゃ怨霊が見えてるのと見えてないのとじゃ戦いやすさが違うから」
えーと、そういう対象も攻撃してくるのだろうか……? それと、幽霊的な存在は居るみたいですね。
「術が使えない人はそういう時致命的だから良かったじゃない。……はい、チャージ終わったわよ」
良かったって言うか、元の世界じゃ急に変なおばあちゃんにしつこく話しかけられたりとか、迷惑だった思い出しかない。だから、あんまりいいとか思わないんだけどなぁ。
「ありがとう」
ていうか、霊的存在に攻撃できるのかな? ……でも神聖『浄化』術とかあるくらいだから、有るんだろうな。そういう武器とかも。お札とか、あるのかな。
「また来てね……。腕輪の発動は、腕輪を一度叩いてから、鉄壁の肉体をって言えばいいわ」
指輪を受け取り、指にはめる。腕輪も腕につける。
「了解。また来るね」
そういってミエルのお店を出ようとしたとき。ミエルの警告が飛んだ。
「危ない!!」
僕がその警告に反射的に後ろに飛びのいたけど、次に回りを確認したときには真っ白い空間だった。逃げられなかったか。でも一体何の危機が僕に迫ったんだ!?
まずは、状況把握。常に新しい術が開発されているこの世界だから、どんな攻撃が来てもまず状況を整理して落ち着いて対応することが大切。アンデの、正確にはアンデの師匠の教えだ。
「……ええっと、なにこれ」
ですが僕にはちょっとこの状況わかりかねます!! たすけて隊長!!
「結界だよ。ここなら魔剣を出しても、国の人にはばれないから大丈夫だよ」
イケメン!?
「……いけ、クリスさん」
「いけ?」
「いや、何でもありません」
イケメンって言いそうになったなんて口が裂けてもいえない。それより魔剣ってやっぱりばれてたのか。何でばれたんだ?
「魔剣ですか」
「大丈夫僕は国の人じゃないし、君を助けてあげたいんだ」
……話が見えてこない。
「魔剣のせいで眠れない夜をすごしてきた人、したくもない殺戮を犯した人、狂った人も数多く見てきた。君をそのうちの1人になって欲しくないんだ」
おいてめぇそういう存在なのかよ!?
キィン
所持者が悪いって、どういうことだよ
キィィィィン
……誘いに乗るからって、半分お前悪いじゃん。へし折るよ?
「大丈夫、安心して? 僕がすぐに壊してあげるから」
「え? マジデ?」
グットタイミングジャン!
キィン!?
ヘッヘッヘ。
キィイイン!?
恩知らずってか。うーむ。確かに助けられたことは数知れずだし、まぁ説得くらいは。
「クリスさん。壊れたくないって言ってるんで勘弁してもらえませんか?」
「幻惑だよ! 君が壊したくないと望んでいることを助長させているに過ぎない! 魔剣に負けないでくれ!」
えー?
キィン……。
「えっと、あのぉ」
「大丈夫。絶対助けるから」
このイケメンマジだ。本気と書いてマジです。とりあえず、出してみる?
キィン……?
左手に集中して剣をかたどる……。それがそのまま手から出るイメージ! 久々に魔剣だしたなぁ。ってあれ? 形変わって……いや、僕のイメージどおりだしなぁ。もしかして、お前ってイメージによって形変わったりする?
「ありがとう、ってなんでしまうんだい!?」
「あ、ちょっと待ってください」
今度は別の形の剣を、そうだな、細剣みたいな……お、出た。おお、細剣になってる。長さとかも変えられるのかな……1回しまって、もう一度……おお。伸びてる。
「な!?」
今度は出てきた魔剣を見てクリスさんが驚いてる。
「君はもしかして、魔剣を使いこなしているのかい!?」
「はぁ。別に洗脳とか、まぁ人切りたいなぁとか良く魔剣が言うのでそのたび、躾もしています」
「し、躾!? そんな魔剣をペットみたいに……!?」
驚きのあまり愕然としている。そして、そのままお腹を押さえて。
「あっはっはっは! ユウ君みたいな魔剣所持者は始めて見た! こんな人もいるんだ! あっはっはっは!」
む、なんか失礼じゃない? おいお前。お前握った奴って全員狂っちゃうの? 気の赴くままに人を切っちゃったりするの?
キィン
え、肯定……? 僕が変なの?
キィイイン
あ、なるほど、いなかったんですね。僕が特殊なのか。
キィインキィン
僕のような人は要るけど、そんな人が握ることがあまりなかったって? そりゃ、ドンマイだな。
「わかった。君は魔剣を制御してるみたいだ。本当に暴走の兆しさえ見られない。魔剣の反応が凄く落ち着いてる。会話がちゃんと出来てるんだね?」
「普通は出来ないんですか?」
「出来るって事実を今日始めて知ったよ」
……。僕、お前嫌い。
キィンキィン
喜んでんじゃねぇーよ!!
「なんて魔剣なんだい?」
「えっと、多分ライフドレインです。確証はないですけど」
と答えると、イケメンは首をかしげて、顔をしかめた。
「ライフドレイン? おかしいな、それは既に僕が本物を破壊しているんだけど。レプリカもほぼ壊したはずだし」
「え?」
「え?」
白い結界から解放後、ミエルがものすごい僕を心配してくれたけど、人に聞かれたくない大事な話を緊急だったからと、色々と苦しい言い訳をして、その場を脱した。
そして、イケメン美女のセットにもう1度対面することになった。
「凄い、魔剣を制御下に置くなんて、私でももしかしたら乗っ取られてしまうかもしれないのに」
おいお前、なんで僕大丈夫なんだよ。
キィン
知らんて。……まぁ僕も制御下に置いてるって言うか、ただ持ってるだけって気がするけど。
「たびたび重なる微弱な反応はどうやら、剣とちゃんと会話が出来ているみたいからだったんだ。僕と同じだね」
「そうなの。魔剣と会話って出来たのね」
イケメンと同じ?
「……クリスさんも剣を?」
「僕の場合、神剣だけどね」
なにそれイケメンに超戦闘能力+凄い武器って非の打ち所がないじゃないですか。それより、この僕の魔剣。本当にライフドレインじゃ無さそうだ。イケメンに話を聞いてみたところ、ライフドレインはこの世に1本しかないし、それはもうこのイケメンがへし折ったみたい。それの模造品って言うのもあるらしいけど、模造品には体にしまう能力が無いはずだから、違う。それに加えて、ライフドレインは所持者の生命力も奪うらしいから、効果が違うって点でもうこれはライフドレインじゃない。
お前なんなんだ?
キィン
……自分でもわからないってか。まぁ、そんなものか。
「とにかく、大丈夫ならいいんだ。でも魔剣には変わりない。絶対に他の人には触らせないでね」
「はい、ってクリスさんはさっき触っていましたけど」
どんな剣なのか、イケメンに識別してもらうためにイケメンに渡した。それでもイケメンには剣がなんなのかわからなかったらしい。
「僕は、神素を使った裏技があるから大丈夫なんだ。だから絶対他の人には持たせないでね」
どんな方法、とは聞かなかった。そりゃ、あれだけものすごい神素だけの波動を放つことが出来る超人が裏技の1つくらい使えても不思議じゃないし、それだけの神素の放出が出来ないと出来ないような裏技が僕に仕えるとも思えないからね。
「じゃあ、僕らはこれで本当に失礼するよ。くれぐれも、魔剣には気をつけてね。今は大丈夫でも今後は……わからないからね」
「わかりました」
「困ったことになったら、僕を探してくれ。ユウ君の話を聞いたら、すぐに飛んでその剣を壊しに来るから」
頼りになるナイスガイだよ。隆介もこれだけ性格よければ、顔がいいから彼女の1人くらい出来るだろうに。
「じゃあ、ユウ君。君とはまた会いそうな気がするよ。それじゃ」
美女がそういい残して、イケメンとともに去っていった。
……そういえばあの二人は旅してるって言ってたけど、何の旅をしてるんだろう。魔剣壊しの旅とかしてるのかな?
想像できないなぁ。可能性がありすぎて……魔王を倒す勇者とか? ……ないか~。
異世界生活271日
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向井 夕 (むかい ゆう) 現状
武器 魔剣ライフドレイン?
愛用の木刀(結構硬い)
無名の聖剣 下級(貸し出してもらっている)
防具 異世界での服
重要道具 髪留め(エンチャント:ウォント・シーイング)視力向上
(エンチャント:ビジョン・ゴースト)霊的感知能力向上
ミエルお手製神聖術付与指輪( 神聖波動術『魔退破』 ・ 閃光術『光り輝き導く者』 )エネルギー*100%
ミエルお手製神聖術付与腕輪( 神聖波動術『鉄壁の肉体』)エネルギー*100% 1%あたり持続5秒
所持金 4万5028ギス(冬季のバイト代込み) と 500円
技術 剣道2段
アンデ流剣術 中級者
魔素による身体強化 半人前
異世界の言葉
中学2年生レベルの数学
暗算(結構速い!)
霊感(幽霊が見える
職業 デトラオン(悪魔の)食堂癒し系店員 (バイト)