表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔剣から始まる物語  作者: ほにゅうるい
第一章 異世界の剣士の一年
11/45

010

彼はこの世界の人にはまだ勝てない。


「はっはっは! こっ酷くしごかれているみたいだな!」


「あ、あはは……」


 シュッテイマンが僕のボロボロな姿を見て爆笑している。もちろん制服は綺麗だよ? 僕が丹精込めて洗っているんだもん。アンデに服を洗わせるとすぐ駄目になるからね。


 そう、僕の体がボロボロ。どこを見てもガーゼだらけ。ウェイターが傷だらけだと見た目が悪くて、店の印象も悪くなるから、傷を隠す程度の必要最低限のガーゼにしてる。けど、ボロボロに見えてしまう不思議! まったく、絆創膏が欲しい。


「にしても安心したぜ。俺はてっきりお前がむきむきの筋肉だらけのむさい男になっちまうのかと心配していたけど、そんなことなかったみたいだな」


 僕はどうやら筋肉がつきにくいらしい。そのぶんちょっとあった贅肉も引き締まって、ゆるかった筋肉も引き締まって、顎もちょっと引き締まって。


 引き締まってばっかりだ!? さては子供っぽいと言いたいのか!? ……確かに身長全然伸びないもんなぁ。155センチにギリギリ届くか届かないかくらいじゃないかなぁ。小さいぜ……。


「強くなってるのかなぁ……」


「アンデのおっさんの飯の腕が確かだからな。大丈夫だって!」


 そこが大丈夫でもなぁ……。


 飯の腕がいい=強くなれる。


 だったら喜んで料理の修行するんだけど。


「お、お待たせしました! デトラオン特製ランチです!!」


 なんて、シュッテイマンと雑談をしていると、背後で馬鹿女の声が鳴り響く。小柄な体躯に大盛りなランチがとってもミスマッチだと思います。


「にしても、どうなんだいあの子とは~?」


 いやらしいおっさんみたいなシュッテイマンが肘で僕を突っついてくる。べ、別になんとも思ってないし! ……いや本当になんとも思ってない。だって、馬鹿女ですよ……?


「なんとも、ですけど」


「またまたぁ。訓練も一緒にやってるみたいじゃないか。あの子胸大きいよなぁ。訓練中見とれてたりしてるんじゃないか?」


 ふ、誰があの馬鹿女の胸を見たりするわけないに決まっているじゃないか。


 ただ、剣を振る姿を横目にユレテルナーとか、確認してるだけで、まったく見とれているなんてことはないぞけしからん。


「顔赤いぞぉ~」


「ま、まさか……あはは」


「ポーカーフェイスは相変わらず決まってるけど、脈拍までは操れないみたいだなぁ」


 シュッテイマンがニヤニヤと僕に詰め寄る。く、屈辱!?


 ……あの日を境に訓練に馬鹿女が参加するようになった。強くなって色々な人を助けるとかなんとか。アンデも女の弟子はまんざらでもない様子で……。エロオヤジめ。馬鹿女にも家族がいるんだけど、放任主義というか、家事もしっかりやる子なので、家事をしっかりやれば訓練してもいいよとかなんとか。そこは女の子の親としては止めるべきだろうと思ったけど、この世界じゃちょっと価値観が違った。


 戦う女、男は美しいしカッコイイ。見た目も大事だけど、戦闘力もモテ要素のひとつらしい。あとは、お金、財産?


 つまり、力が全てなのだ! 浪曼も何も感じないな……。


「ユウさんサボってないでちょっと手伝ってください!」


「はいはい。それじゃ、シュッテイマンさん。魔窟探し頑張ってください」


 魔窟問題。まだ解決していないみたい。既にいくつかの魔窟は発見されて処分されたみたいだけど、全て処分されたわけじゃない。さらにこの事件の犯人だと思われる怪しい魔法使いの姿も2度ほど確認されているらしい。


 根気強くギルドとシャルル国が犯人を追っているとのこと。


 それにしても、こんなに問題が長引くものなのかな。


「おう、お前も頑張れよ!」


 シュッテイマンが手を抜いてるとも思えないし、それほど相手が手ごわいのかな。国が本腰入れて探し回っているのに、そんなに犯人に辿りつけないものなのかなぁ。

 





「今日は模擬戦中心に訓練を行う。動きながら魔素を取り込む訓練だ」


「はい」「うぃ」


 模擬戦は、僕と馬鹿女が木刀を使った摸擬戦をやる訓練。秋季が終わりに近づくにつれて寒くなっていくから、体が温まる前は辛い修行の1つだよ。


「始め!!」


 よし。


「ふぅ!!」


 始めの合図とともに僕は可能な限り魔素を体に集める。戦闘しながら魔素を集めるのが、アンデ曰くお世辞も言えないほど下手糞だからだ。まったく出来ないわけじゃないけど、消費量のほうが圧倒的に多い。だから、1分も全力で戦えばガス欠になる。配分が大事になってくる。


 その分馬鹿女は流石この異世界の住民というか、僕と違い5分は全力で身体強化をしても消費と補給の釣り合いが保てている。17にして一般的な大人と張り合えるほどのレベルなんて、僕にはちょっと荷が重い相手だよ。いい練習だけどね。身体強化の技のおかげでこの世界では性別での力の優劣は付きにくくなってて、基礎となる肉体で身体強化の効果も変わるけど、大体純粋な力に差がつかないからね。


 女性も男性も関係なく戦えるなんて、元の世界の女性的には嬉しい話なんだろうなぁ。元からそういう仕組みなら、痴漢も居なくなるだろうに。


「行きます!!」


 僕より数瞬早く神素を体に溜め、戦闘準備が整った馬鹿女が木刀を僕目掛けて振り下ろしてくる。


「くっ!」


 遅れて魔素を溜め終わった僕はすぐに身体強化を発動。体が熱い! 馬鹿女の振り下ろした木刀の軌道上に木刀を横に構えて防御する。


 お、重い!!


 やっぱり、身体強化の質にも差がある。男なのに女に力負けするってちょっと悔しい!! 出力を上げるか? い、いや、今回はここで我慢しないとまたすぐに力尽きてしまうことになる。きっついけど、ここは我慢!!


「やぁ!!」


 続けざまに馬鹿女の第2撃。早い!! これは無理だ!!


 魔素を必要以上に消費して、一瞬だけ身体能力を跳ね上げる!!


 防御、そのまま反撃!! でも、だめだ。防がれたっ。


「ちっ」


 舌打ち1つ残して、距離を取る。距離を取りながら魔素を集めるけど、やっぱり集中してる時より集まる量が少ない……!


「はぁ!!」


 馬鹿女が生真面目に攻めてくる。ここで僕が奇策の1つでも講じれば、多分簡単に倒せるな。けど、それじゃ修行の意味が無い。こういう場合でも対処できるように、戦う。今は可能な限り魔素を集めて、瞬間瞬間大事なところで一気に体を強化する。少ない魔素で効果的に戦えるように、メリハリを……!!


「こなくそぉ!!」


…………


………


……






「そこまで、だ。情けないな小僧」


「ぜぇ、ぜぇ……!!」


「あの、大丈夫、ですか?」


 馬鹿女が残念そうにしながらも、僕のことを心配してくれている。惨めな気分だぜ畜生。


「くそぉ。勝てない……」


 4回セリアと戦ったけど、4敗しました。これで累計45戦45敗。だんだん身体強化にメリハリをつける戦いが出来るようになってきたけど、やっぱり根本的に動きながら魔素集めが出来ないと勝てないのか……。


「はぁ~」


「あの時……身体強化せずにゴブリンを倒した人が私に負けるなんて……もしかして女だから手加減してます? そういうのは、やめて欲しいです」


「僕の、この姿見て、手加減とか、ないでしょ、はぁ、はぁ。あぁ~。もぅ」


 まぁ、使うもの使ってないって言うのが手加減なら、手加減だけど、割と本気です。悲しいぜ……。アンデの元でしばらく剣の修行を積んだ馬鹿女は既に僕より強くなっている。くっそぉ~……。


「まったく。小僧、お前は焦りすぎなんだ。どんなときも考えろ。泣いて戦うな、焦って戦うな、感情で戦うな、理論を投げ捨てるな。知能ある人間が考えずに戦ってどうする」


 出た、アンデ節。修行が始まってからもうこの台詞を何度聞いたかわからない。耳にたこができそうなほど聞いたぜ……。でも要ってること正しいのがわかるから、下手に反論もできない。


「は~い」


 これだから、僕が強くなっているかどうかわからないんだよ……。旅が出来るようになるのはいつのことなのやら……。


「だが、かなりよくなっているな。短い時間しか全力戦闘できない小僧が、身体教科を良く工夫して戦える時間を引き延ばしたな」


 おっ。褒められた! いっつもすぐ力尽きて馬鹿女に倒されてたからなぁ~。工夫した甲斐があった! く~。なんか嬉しい~!


「だが、まだ無駄が多いし、基礎も出来上がってない。基礎をさっさと完成させろ」


 ……あげて、落とすとは……。辛いことを言いますなアンデは。魔素扱い歴100日に満たない僕にはかなりレベルの高い注文だよ……。


「よし、いったん休憩を挟もう」





「……ん?」


 汗を濡れたタオルで拭いて、服を着替えて村の中を散歩しているとなにやらおろおろしている男の人がいた。確か、食堂にも来てくれたことある人だな……。困っているのか? ここで恩を売って、食堂にまた来させれば売り上げが伸びるかもしれない。


 ここは恩の売り時だな。もう休憩は終わりだけど、模擬戦はもう、やらないだろうし、いいや。


「どうしました?」


「ん、君はユウ君じゃないか」


 名前知らないのに名前覚えられてる。なにそれ怖い。


「なんで、僕の名前を……」


「気難しいアンデの食堂で働く変人で有名だからね」


 ぐさっ!! 村の中では僕は変人扱いなのか!?


「いや、そんな場合じゃない。私の息子が風邪を引いてしまって。だが、今村の医者はシャルルへ行っていて、どうしたらいいか……。明日には帰ってくるらしいが、どうすれば……」


 ふむ?


「ちょっと、診せてもらえますか?」


 もしかしたら僕も手伝えることがあるかもしれないという軽い気持ちで聞いてみたら、物凄く驚かれた。何で?


「君は神聖術が使えるのかい?」


 えっと、医者=神聖術使いなの? 神聖術は風邪にも効くのか?


「いえ、違いますが……」


「なら診せてどうするって言うんだい?」


「は、はぁ……?」


 もしかして、この世界では看病って言うものがないのか? 神聖術を使えば病気とか風邪とか何でも治ってしまうものなのか? うーむ。まだまだこの世界の常識がわからない。


「えっと、神聖術が使えないなら使えないなりに、病気への対策って言うのがあります。それに心得がありまして」


 とにかく、神聖術に頼りっぱなしな人のことだ。病人をどう扱っているか気になってきた。


「そうなのかい? 家はあそこだ。私は、そうだな。この村に神聖術薬があるか探してくるよ」


 そういい残すと男はさっさと走り出して行ってしまった。……とりあえず、家に行ってみよう。


「って何じゃこりゃ!?」


 汗だくの5歳児くらいの男の子が母親っぽい人に抱かれていた。服装も薄着で、毛布にも包まっていない。熱そうにしているから薄着にしたっぽいけど、そんなの間違い! 子供は震えていかにも寒そう。そしてうなされているのに母親はよしよしとあやすだけ。しかも揺らしてるから、高熱のときにそれやられたら気持ち悪いぞ……。


「ちょっちょっちょ! そんなことしたら気持ち悪いだけだって!!」


「え? あ、あなたはユウ君?」


 母親にも名前を覚えられててびっくり。デトラオンに来たことあるのかな? でも、そこばっかり気にしてもいられない。


「そうです。ちょっと、いいですか?」


 あまりの病人の扱いに驚いた僕の動きは早いぞ!


 母親に塩分と糖分が適度に混ざった水の用意を指示して、子供の汗だくの服を取り替えて厚着にする。素早く布団と毛布を用意して、子供を寝かせて、額に、冷たい水で絞ったお絞りを載せる。


「ちょっと! そんなことしたら熱くて家の子が……!」


「熱を発しているのは中にいる、ウィルス、えーと、風邪の元と体が戦うためです。冷やさず、むしろ熱くしてください。でも、頭は熱にやられるといけないので、冷たい水を絞ったタオルを額に乗せて冷やしてあげてください。食べ物は、出来ればのめる程度にやわらかいおかゆみたいなのがいいです。汗が出るので多少塩が多めで。あとその水は喉が渇いたと子供が言ったら飲ませてください。汗の量でわかるように大量の水分が減っています。その水は素早く体に水を行き渡らせるための水です」


 スポーツドリンクっぽい水って説明しても伝わらなさそうだしな……。


「え? え?」


 いきなりの僕の言葉ラッシュに押される母親。本当にこの世界じゃ病気に対する対処法を知っている人がいないのかよ!?


「えっと、あと、風邪は人から人にうつるので、手洗いうがいはきちんと行ってください。子供の食べ残しを食べたりとかしないでくださいね」


「う、うがい?」


 うがいを知らない、だと!?


「えっと、少量の水を含み、こう」


 実演して見せた。ガラガラガラガラガラガラ……ペッ。


「して、のどに付いた風邪の元を洗い流す行為です」


「は、はぁ……?」


 ……し、心配だ!


 非常に心配だ! この子がかわいそうだ……。神聖術でどうにでもなるって言っても、それまでの間があまりにも辛そうだ。


「あなたは、風邪を引いたらどうするんですか?」


 参考までに聞いてみよう。


「え? ……えっと、熱を逃がすために、薄着になり、体を冷やします。熱くて敵いませんからね。食べ物はなるべく口にしないようにします。食べ物にも多少毒素がありますし、悪化させたらいけませんので」


 なんだそれー!?


 元の世界の人に聞かせたら飛び上がって、空中で3回転して、頭から落ちてから、嘘、だろ? って呟くレベルだぞ!?


「……僕が、看病しますので、手伝ってもらえますか? あと、また同じことにならないように、少し風邪を引いた子への対処法を教えます」


「……お願いします」


 14歳の子供に風邪について教わる母親なんて、元の世界じゃ絶対に有り得ないな……。





「小僧てめぇ! どこにいやがった? 修行サボりやがって。やる気がないのかってどこへ行く!? 塩と砂糖なんか持って、もうすぐ夜の仕事も始まるんだぞ!?」


「すまん、アンデ。今日サボる!!」


「あぁ!? ちょっとまて!!」


「あ、あれ? ユウさん!?」


「ば、セリア。仕事僕の分もよろしく!」


「は、はい?」


 僕は一度デトラオンに戻って、砂糖と塩、あとは体に良さそうなものをかっぱらってきた。りんごっぽい赤い果実とか。……これりんごだよな? ……うーん。






「あ、ユウ君。結構子供が落ち着いてきています」


「そうですか。いまりんご? を持ってきたので、これを摩り下ろしてもらえますか? 果実は栄養価が高くて、とにかくいいんですよ。風邪を引いたら食べやすいようにして、食べさせてください」


「この果実ですね。わかりました」


 僕は塩やら砂糖やらを水に混ぜて、飲みやすい味に調整したものを1リットルくらい作って、子供の看病を続ける。熱は、さっきより下がってるな。あんまり強い風邪でもなかったみたい。


「多分、あんまり心配することももう無いでしょう」


「ありがとう。にしても、物知りなのねぇ。風邪ってそういうものなのね。風邪を引いたとしてもその日のうちに治せちゃうから、知らなかったわ」


 元の世界じゃわりと一般的な知識なんだけどね。日本じゃ義務教育なんてものがあるから僕くらいの年なら数値計算できて当たり前なんだけど、この国じゃお金に余裕のある家の人しか学ぶことが出来ないみたいだし、結構差があるな……。


 技術の違いも結構影響あるんだろうけど。


「ただいま。神聖術の道具の備蓄は今無いそうだ。ちょうど尽きたから医者が買いに……ってユウ君何をしているんだ!? そんなことしたら暑さで」


「逆です。暑くないといけないんですよ」


「は、はぁ!?」


 僕はさっき母親にした説明を父親にしないといけないというちょっぴり面倒な状況に陥った! 具体的には、風邪ってどうして体が熱くなるの? 体を温める理由は? 果実を食べさせた理由は? おとなしく寝かせる理由は? 頭を冷やす理由は? などなど。


 僕の知る限りで答えてみたけど、胡散臭いと言われてしまった。


「でもあなた。そのおかげで今リトが落ち着いているわ」


 リトがこの男の子の名前。


「……確かに……」


「とりあえず、容態が急変することは無いと思いますので、僕はこの辺で。水はそこに作っておきましたので、それを飲ませてください。では」


「ありがとう。ユウ君」


 母親と父親にお礼を言われて、僕はその家を後にした。




「……小僧。勝手にバイトをサボるとはいい度胸だな」


 待っていたのは垂直3連拳骨だった。


「ちょっと、弁明させてくれてもいいじゃん……」


 ぼそっと呟いてみたけど、アンデに聞こえていたみたいで睨みつけられた。


「たく、何をしていた」


「……風邪引いた子供の看病していた」


「はぁ? 看病? んなもん服脱がせて、医者に神聖術当ててもらえば終わりだろう」


「普通そうですよ。看病することってそれくらいじゃないんですか?」


 馬鹿女とアンデが口をそろえて看病を馬鹿にした!! うわーお。聞く人が聞けば殺すきかよ!! って突っ込まれそうな発言だよ。


「医者がシャルルに薬の調達に行っていて、明日じゃないと帰ってこないんだって。それと、服脱がせたら普通に辛すぎて子供死ぬよ」


「んな馬鹿な……」


 風邪について同じ説明を。3度目となるとちょっと苦痛だった。


「……お前、なんでそんなことを……いや、余計な詮索はしない。なるほど。そういう理屈なのか」


「……知らなかったです。じゃあ私が経験した苦しさって無意味だったんですか?」


「そうだね」


「が~んっ」


 でも……神聖術が発展しすぎて、神聖術が無いときの対処法がまったく確立されていないのもどうなんだろう。そんな昔から神聖術っていうのはあったのかな?






 次の日、神聖術を使わずに風邪が治ったという話が村で持ち切りに。無論。それに関わった僕と、僕の知識が話しにあがるわけで、僕の知名度が急上昇した。そのおかげで今日のデトラオンには物凄い人が来た。いつもは冒険者のほうが数が多い店内も、今日ばかりは冒険者の数より村人のほうが多かった。


「お前が変人で妙に知識人なユウか」


「……変な名前付けないでください……」


 そう、僕目当てに来るお客がね、迷惑すぎる。僕が変に有名になったのがお店的にはいいことだけど、僕自身的には良くない!!


「ユウってのはお前か! 他にどんな知識があるんだ!?」


 バイトの合間合間で風邪について以外の知識を求められるようにもなった。他にどんな知識があるって聞かれても……なにを教えればいいんだ!?


「え、あ、いやぁ、はは、バイト中なので、教える用事があればその都度……」

「お~い、こっちに注文。ユウよぉ~こっちに来てくれ~。風邪って何なんだ? 神聖術なしでも直るのか?」

「え? あ、そうです、注文は?」

「なるほどなぁ。果実が風邪にいいってどうしてなんだ?」

「えっと、栄養価方高くて……それで注文は……」

「お~い、こっちにも来てくれ~」


 もう、嫌だ……。


 商売繁盛は願ったりだけど、こういう忙しさは嫌だ。


 人並みさって落ち着いたデトラオンにシュッテイマン御一行がやってきた。もう、お客の中のオアシスにさえ感じる。


「なんだか、村で有名になったなぁ」


「ちょっとした、出来心だったんです……」


 あれ? これじゃ僕が悪いみたいだ。


「風邪の対処法なんてムー大陸じゃ必要ないからなぁ。レムリア大陸の人なのかお前?」


 え。


「何でムー大陸じゃ必要なくて、レムリア大陸だと必要なんですか?」


「そりゃ、神聖術の使い手の数だよ。ムー大陸で魔法使いが珍しいのに対して、レムリア大陸じゃ神聖術使いは珍しいんだ。単純にその大陸での神素と魔素の濃度差と使いやすさで差が出るからな」


「なるほど。ということは、シュッテイマンは風邪の対処法は」


「ああ、知ってるぜ。シャルルでも知ってる人はいるだろうが、間違った風邪の対処法方が一般的なんだろうな」


「そうなんだ……」


 どうも、この世界の人達皆が皆風邪と言うものに対しての対処法を知らないわけじゃ無さそうだ。


「まぁ。それでも果実を食べさせたほうがいいって言うのは俺でも知らなかったな。エイヨウ、だっけ? 飯食えば体に入る奴。果実のほうが多いんだってな? それに、飯に毒は無いんだって?」


 訂正、まったく知らないわけじゃ無さそうだ。やっぱり、元の世界のほうがそういったことに詳しいんだなぁ。こりゃ、変な病気になったときは一大事だな。


「……あ」


「ユウ君。こんにちわ。昨日はお世話になったよ」


「ユウおにいちゃん!」


 リト一家が来た。リトが僕の足元に近づいてきて、満面の笑顔で「昨日、ありがとう!!」と言って来た。一日で直るもんだなぁ。


「おう、どういたしまして。つか病み上がりなんだから、おとなしくしてないと駄目だぞ」


「え? 治ったらもう動いていいんじゃないの?」


 リトが不思議そう聞いてきた。


「神聖術を使って治した場合は知らないけど、普通は体力が減ってるから治ってからもう一日くらいは休んだほうがいいんだけど」


「あ、そうなんですか? 大丈夫です。医者に見せて、神聖術を使ってもらいました」


「そうなんだ」


 たしかに病み上がりの元気っぶりじゃ無いな。とにかくこれで一件落着かな?


「小僧!! 運べ!!」


「あ、はぃ!!」


「忙しいところ悪かったわね。今度改めて御礼しに行くわね」


「あ、ありがとう~!」




 その日はいつも以上に仕事が忙しかった。





異世界生活 191~ 日

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 向井 夕 (むかい ゆう) 現状


武器 魔剣ライフドレイン


防具   異世界での服(冬服


重要道具 髪留め(エンチャント:ウォント・シーイング)

 ミエルお手製神聖術付与指輪( 神聖波動術『魔退破』 ・ 閃光術『光り輝き導く者』 )エネルギー*5%


所持金 3万8028ギス(秋季のバイト代) と 500円


技術   剣道2段


 アンデ流剣術 初心者


 魔素による身体強化 初心者


     異世界の言葉


     中学2年生レベルの数学


 暗算


職業   デトラオン(悪魔の)食堂癒し系店員 (バイト)





2012/7/15 いろいろ修正

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ