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魔剣から始まる物語  作者: ほにゅうるい
第一章 異世界の剣士の一年
10/45

009

彼は感じる。世界の理を。


「いいか、ユウ。1対1で戦う状況なんてな、なかなか無い。そう、稀なんだ」


 最初、アンデは僕をどのように訓練するのかを決めた。


 この世界には、魔物という存在がいるために、領地拡大を狙えないし、人と争う余裕もない。毎日の生活が危うい国すらある。それほど、魔物というのは人の安全を脅かす。らしい。元の世界で言う、突然山に熊が現れた、っていうのが頻繁に起こる感じだろうか。ゲームの世界だと、孤立した村とかがよく登場するけど、この世界じゃそんなもの殆どないらしい。衣食住と魔物を追い払えるレベルの戦力を保持するということは、それだけでも国を創立できる能力を持った場所となるからだ。未開の場所で村を作るということは、国を作るのと同レベルなんだそうだ。


 この辺は国の管理下だから村が乱立してるみたいだけどね。


 この世界は、ムー大陸とレムリア大陸って言う2つの大きな大陸と海で構成されているらしく、僕が今いるこのムー大陸は比較的魔素より神素が強い。逆にレムリア大陸は神素より魔素が強く、ムー大陸以上に強い魔物がたくさんいるそうな。


 とにかく、魔物は大抵、まとまった数で出てくる。そういったやつらに対抗するべく、さまざまな道具や技術がある。そのほぼ全てが1対多を想定してのものだ。


 だから、武術も1対多を想定したものになる。僕の習っていた剣道の技をアンデに見せてみたけど。


「筋は悪くない。構えも隙がないが、それは人と戦うために技術だろう? しかも、魔法や神聖術に対しては隙だらけだ」


 まったくもってその通りです。アンデが言うには、人との戦いもまるで無いわけではないが、神聖術や魔法といった技術がある以上、術使いと対峙すると相手は広範囲攻撃が基本になる。近接戦闘同士でも、多方向からの攻撃が当たり前。ってそれどういう攻撃だよ……。


「例えば、術と剣を同時に使ってくる相手だと……。そうだな、炎が左右から近づいてきて、正面から剣が迫ってくる。後方に逃げたら、爆発する炎が設置してあったりだとか」


 ……魔法って怖い。とにかく、そういうのに対応するにも、1対多の戦い方が必須。


「まずは、片手で戦うスタイルを身に付けようか」


「片手? 両手で剣を持ったらダメなの?」


「ダメじゃないが、守りも攻撃も、1種類になるのは好ましくないな」


 剣道の両手で剣を握るところはこの世界じゃ好ましくないらしい。エネルギーを放つ、防ぐという物理攻撃以外の行動を起こすのに片手を開けたり、盾を持つのが基本。剣と、杖を持つなんてスタイルもあるらしい。


「魔法を放ちながら近づいてきた敵を一閃。盾で防御しながら攻撃。両手に剣があればどちらも攻撃に使えるし、どちらも防御に使える。まぁものはやりようだけどな」


「僕は構えや、戦い方を根本的に直す必要がある。ということですか?」


 要するに、目の前に集中する戦い方じゃなくて、常に自分の周りを意識する戦い方を覚えなきゃいけないそうだ。


「それもある」


 はぁ?


「が、それ以上に小僧は魔素と神素を使った動きがまるで出来ていない」


 ……といっても、魔法や神聖術の扱いはまるで才能がないって言われましてね……ふふふ。悲しくなんてないやい!


 そのことを泣く泣くアンデに告げてみると。「なるほどな。放出レベルは最低なんだろう」と、意味深な返答があった。


「放出レベル?」


 それは、そのまま吐き出すって感覚だろうか?


「いいか? 魔素や神素というのはほとんど似たエネルギーで、なおかつ大気に多く含まれるこの世界の生命力だ」


 はぁ。ゲームとかだと、そういうのは人に予め蓄えられる力だったけど。


「魔素は自然に近い力だ。魔素を体に取り込み、自然界に起こる現象として発動する技術を魔法」


 アンデの右手から炎が生み出された。熱い熱いっ。


「神素は魔物のような存在と相反している力だ。奇跡とも言われる。神素を体に取り込んで、奇跡や、魔を退ける技を発動する技術を神聖術。人にも衝撃を与えたり等の攻撃できるから、魔物だけに作用するとも言いがたいが」


 なるほど。大体頭でわかっていたつもりだけど、こう纏めていってもらうと助かる。


「魔素も神素もまだ謎が多いが、基本的に魔素も神素も術を使うのに一度体に取り込んで、吐き出しやすい形に変換してやる必要があるんだが、体内で燃焼させる分には別に吐き出さなくてもいい」


「えーと、つまり、大気中のエネルギーを取り込んで、体を強化することができるの?」


「そうだ。近接戦闘を行う者の必須技術だ。エネルギーを取り込むだけなら出来ない人間などまずいない。小僧も出来るだろう」


「なるほど、なるほど。それで、結局僕に魔法や神素は使えるの? 使えないの?」


「だから、放出レベルが最低ってことは、体でエネルギー変換がへたくそって事だ。体の中じゃ使えるが、こうやって外に放つことは……」


 アンデの表情に少し陰り、言葉のキレが悪くなってゆく。なんとなく、言いたくないのはわかるけど、それでも僕は追求する。


「神聖術も魔法も使えないってこと……?」


「訓練しだいで多少は使えるだろうが、まぁ諦めろ」


 ……もうすでに諦めてたけど、諦めてたけど……。 くそぉー! ちょっと夢だったのに!! 派手な攻撃魔法でどどどっと敵を倒す。とかね。


「……くくっ」いまアンデ笑ったよ!? 畜生! 「とりあえずだな、身体強化のために魔素や神素を体内で燃焼させるだけなら誰にでも出来る。これは練習しだいでいくらでも伸びる」


 それは助かるね……。


「戦いを知っているのなら、まずその技術習得と、基礎体力の強化を優先させる。技は主にそれが出来ないと学べないものが多い。わかったか?」


「わかりました。んで、質問が1つ」


「なんだ」


「なんでそんな流暢に説明できるんです?」


 そう、さっきから地味に気になっていたんだが。アンデは説明が本当に下手。僕に言葉を教えるのも最初ものすごく苦労していた上に、言葉を覚えてからもなにかと新しいことを僕に教えるごとに苦労していた。(僕も理解するのに苦労した)


「……俺の師匠の言葉だよ」


「なるほど、アンデの言葉じゃないわけだ!」


 覚えていることをそのまま言うだけなら、アンデにも出来そう痛い! 殴られた!


「な、何で!?」


「あ?」


 ものすごい剣幕で睨まれてしまった。間違いなく。心を読まれている。


「……あ、あはは」


「……まぁいい。さっさと魔素と神素どっちでもいいから取り込め」


 よし……いや、ドウシロト?






 修行初日


「いいか、俺が今から純粋な魔素をぶつける。感じろ」


 意味不明だ。


 特訓開始時に、アンデに僕が魔素も神素も取り込めないと言うと。そりゃもうたいそう驚かれました。お前この世界の人間か、なんて聞かれたときには心臓が口から出るほどびっくりした。


 ははっ、この世界の人間じゃないよ! ……なんて、頭のおかしいことはいえない。


 アンデは怪しみながらも、何も聞かなかった。ありがたい。


 魔素と神素を感じるなんて一般常識どころか、2歳児ですらできると言われてるほどに世界中で普遍なことらしい。それを出来ない僕っていったらそりゃもうイレギュラー中のイレギュラー。


 本当にわからないって言ってもアンデは疑いの眼差しを僕に向けるだけで、僕の言葉に耳を傾けてくれないほど。


「はい!」


 ……。


 ……。


 ……。


 ……。


「まだ、ですか?」


「もうぶつけている!」


 ……?


 ……。

 ……。

 ……。

 ……。

 ……。

 ……………………。

 ……………………。


「……わかるわけねぇ……」


 率直な感想だよ! 魔素って何だよ魔素って!!


「お前人間か?」


 とうとう人間扱いすら危うい!?




 修行10日目


「……あ、なんか背中がむずがゆいかも」


「本当か? ただ痒いだけなら殴るぞ」


 と言われても、なにが魔素なんだよまったくさっぱりだよ。


「魔素をどうしてるのさ」


「お前を殺すつもりで魔素を背中にぶつけ続けている」


 殺すつもりってどういうこと!?


「大丈夫だ、エネルギー変換をしていない魔素なんて空気と一緒だ」


「そうじゃない。心意気がおかしいと言いたいんですよ僕は」しれっと答えるアンデに多少腹が立ったけど、大人な僕はそんなことを言わない。




 修行20日目


「右手?」


「そうだ」


「……みぎ、足? 膝っぽいけど」


「やっと、魔素感知が出来るように……」


 濃度の高い魔素を僕の体の一部に当てて、どこに当てているかを当てるゲームみたいなことをしていた。なんだか、ようやく魔素って奴を感知できるようになった。感覚的に言うと、人の吐いた息みたいな、ほんの少し熱を持ったような、言葉にしがたい、手に触れない物体が世界に満ちている。みたいな……。なにこれ気持ち悪い。




 修行25日目


「むぅ……!!」


「ようやく、魔素と神素を集められるように……感動のあまり泣きそうだ」


「気持ち悪いから泣かないで」


「……」


「い、痛い! 痛いって!!」


 垂直3連拳骨が僕の頭に閃いた。垂直に振り下ろした拳がなぜか3回連続であたるって言う意味不明なアンデの技。魔法か!?


 ……とにかく僕は、ようやく魔素やら神素やらって言うのがわかるようになった。今右手に魔素と少しの神素を同時に集めている。これを魔素と神素を別々にそれぞれ単独で集めれるようになったら、身体強化の訓練がやっと出来る。らしい。今は魔素だけを右手に集める訓練。なんだけど、神素が混ざってなかなか魔素だけ集めるって言うのができない。


「……まだ神素が少し混ざっているな。集めなおし」


「く、はぁ……!」


 この作業が予想以上に心身ともに疲労する。エネルギーの統一って言うのがこんなにも疲れるとは思わなかった……!


 僕も理屈がわかって魔素やら神素を集めれているわけじゃないんだけど、なんとなくでやっている。操作もなんとなくやり方がわかってきた。


 あとは、このなんとなくを直感的に行えれば……なぁ……。




 修行30日目


「……どう? 結構魔素取り込んでるつもりなんだけど」


「結構だと? 子供でも取り込めるような、情けない量しか小僧の体に取り込めてないわ」


 ようやく昨日で魔素と神素を別々に集めれるようになったから、今度は集めた魔素や神素を体に取り込み、体内でその魔素や神素をエネルギーとして燃やし、身体能力を上げるという訓練をし始めたんだけど、なにこれ難しい。燃やすって言うのは、なんとなくわかる。体の細部で取り込んだものを使用するって感覚。


 ただ、取り込むのがものすごく難しい。食べる感覚でいいのかと思いきや、体に浸透させる感覚って言われるんだから、意味がわからない。浸透って何だよ!?


「……あれ? 痛い」


 なんだろう、さっき身体強化した部分が。いたい、痛いイタイイタイ!?


「なにこれ凄く痛い!!」


「あ、言い忘れてた。燃焼させたら、始めの頃は痛いぞ」


「先に言え!!」











 そんな毎日を過ごして、今や冬。雪が降るみたいだから、冬だ。寒い。そんな日は五郎の家に行って五郎と一緒に寝るのが僕の最近の習慣です。


 雪はどうやら、うっすら、って感じで少ししか降らない。この辺りだと降るほうが珍しいそうな。そういえば、僕の誕生日は冬なんだけど、もう僕15歳、ってことでいいのかなぁ。正確な日がわからないから、もう15歳でいいや。


 訓練初日からずっと休むことなく毎日訓練している。始めのほうは本当に酷かった。


 大気中に存在するエネルギーなんて、元からこの世界の住民じゃない僕がわかるわけないし。そのエネルギーを感知する訓練がものすごくきつかった。30日はかかったと思う。


 だって、わけわからないでしょ!? 空気中の酸素を感じろって言われても人間には無理だよ! そういうことをやれって言われても、わけがわからないでしょ!?


 進歩しているのかしていないのかがわからないのが一番辛かった。成長がこの30日間ずっと感じられなかったから、心が折れそうになるし……。


 アンデが魔素を集めて魔法を発生させる過程を観察したり。精神統一してみたり、魔素とか神素とかを始めて取り込んでみたときは体中が焼けるように痛かったり、散々だった。


 そんな訓練も実ってか、ようやく人並みに魔素を取り込めるようになった。神素とは相性が悪いみたいで魔素より取り込むことが出来なかったから、主に魔素による身体強化で戦闘能力を鍛えていこうという話になった。


 ……神素と相性が悪いのはなんとなく、魔剣が左手にあるから、な気もする……。


 とにかく、魔素を取り込めるようになってからは、ずっとアンデの指導の下、魔素で身体を強めながら戦う剣術を習っているけど、やっぱり対魔物用の剣術は剣道とまったく違う。常に複数と戦うこと、格上と戦うこと、広範囲な攻撃でも身を守る方法、自分との体のサイズが圧倒的に違うものと戦うことを想定して、さまざまな剣術を取得した。この世界だから出来る独特の歩行法とかね。一気に距離を取ったり、広範囲攻撃から逃れる方法など、色々教えてもらった。


 あと、魔素による身体強化は本当に凄い。普段の2倍は早く動けるし、2倍も腕力が強まるし、2倍は周りを敏感に察知できる。でもまだまだ。ようやく人並みレベルらしい。木刀同士でアンデと模擬戦をしてみたけど、一瞬で接近、振り下ろし、気絶させる。というのをやられて、終わった。それに、まだ魔素を取り込みながら戦うことも出来ないから、30秒しか身体強化が続かない。それに、身体強化終了後、まだ痛い。


 一般的な大人は5分間は身体強化を持続できて、何かをやりながら蓄えるってことも出来るらしい。20歳くらいの冒険者や騎士にもなると、常に蓄えながら生活し、いざって時には使用できる。なおかつ行動しながら蓄えて、身体強化の持続は30分以上。


 ……ハードルたけぇよ。


 もういくらゴブリンがやってきても魔剣とこの技術があれば負けることはないけど、改善点はまだまだ多そう。魔剣だって人目に付くところじゃ危なくて使えないし。


 あと、神素と魔素についてももう少し詳しく教えてもらった。


 人は精神力でエネルギーを体に取り込み、炎とか、波動とか、氷とか、浄化とか様々なことを行うらしい。ただ、神素も魔素も体に元々ないものだから、体で燃焼させればさせた分だけ悪影響を及ぼすらしい。主に人の精神を蝕むみたい。蝕まれてなお術を行使しようとすると死んじゃうらしい。恐ろしい。でも、基本的には休めばなおる。


 この毒って言うのは、蓄えるだけじゃ発生しないみたいで、身体強化したり、神聖術や魔法を発動させると発生する。つまり、魔法や神聖術の発動限界って言うのは毒の抵抗値ってことで良さそう。使って使って使いまくって毒への抵抗値を高める。繰り返すことが大事なんだね。


 ちなみに、そういう毒要素は魔素のほうが強いらしい。本当は身体強化は神素で行うのが危険が薄くていいけど、一番毒になるのはエネルギーを放出する過程で変換するときらしいから、あんまり気にする必要もないらしい。


 そして、放出方面に関しては、本当に才能がないらしく、魔法も神聖術も発動に必要な魔素や神素を集めても不発で終わる。僕でも出来そうな魔法はないのかとアンデに聞いてみたけど、免許もない、学生でもない僕に魔法を教えるのは、やっぱり駄目ってことで教えてもらえなかった。


 ちょっと、残念。


「……筋肉痛が痛い」


 本当に痛い。筋肉疲労だけじゃなくて、魔素による毒ダメージもあいまっての痛みだってアンデがいってた。あと半年も訓練すればなくなるって言ってたけど、長いよ長すぎるよ。筋肉痛が本当に痛い。……分かって思ってるからな。って、誰に言ってるんだろう……はぁ。


「がぅ」


「いやぁ、五郎は冬でもあったかい。ボディーヒートだよ~」


 あの服凄いよね。本当に暖かいし。


「がぅ……」


「……ちょっと、元の世界が懐かしいかも」


 思い出す動機がちょっと酷いけどね。春や隆介。生きてるかな? 上手く火事から脱出できてればいいけど。おばさんも元気でやってるかなぁ。親不孝者でごめんね。ちょっと異世界にきて楽しくやってますけど。


「がぅ!」


「……そだな、ねますか」


 などと思慮していると、外に馬鹿女の気配。


「がぅがーう」


 最近、アンデとの訓練を続けるうちに、魔素やら神素の動きというのを少しだけだけど感知できるようになった。ただ、そんなお粗末な能力でもほぼ毎日やってこられたら、どういう気配の動き方か覚えてしまうものだ。


 つまり、外で馬鹿女がいるのが、確定。


 ……アンデもそれに気づいているようで、僕と何かあったと感づいているけど声をかけてきたりはしない。


 僕もこの90日間程ずっと無視しているが、そろそろアクション起こして欲しいところだ。


「がーぅ」


「……どうしようかなぁ」


 仕方ない。冬とかも毎日これで風邪になって僕のせいにされるのも癪だし。



 僕は外へ顔を出すことに。一応冬服だけど、上着はないので寒い。


「……!?」


「何か用?」


「あ、ああぅ、あのぉ」


 ……いらいらするなぁ。言いたいことあるならはっきり言ってくれればいいのに。馬鹿女がうじうじしてるこの時間がわずらわしい。アンデの訓練後で疲れて正直さっさと眠っちゃいたいんだよ僕は。


「……用がないならもう帰ってください。毎日来る必要もありません」


「き、気づいて」


「毎日来ていたなら僕が訓練してるの知ってますよね?」


 そういうと、確かにそれなら、と小さく呟いてうつむいた。うつむくのはいいから早く要件を言って欲しい。


「……あの」


「何?」


「……あの時はごめんなさい。本当にごめんなさいっ!!」


 ……え? 何で泣くの?


「私が、私のせいでユウさんがっ! ユウさんに酷いことを!」


 え、ちょ、いや、まっ、てなんで泣くの!?


「は、はい、わかりましたので、もうわかりましたから」


 もしかして僕が怒っていると思ってその恐怖で泣いてるのかな。だとしたらそれは見当違いだ。確かにあの時は(邪魔で)腹がたっていたけど。今はなんとも思っていない。ちょっとイライラしていたのは認めるけど、それは僕のポーカーフェイスで隠せていたはずだし。


 やばい、馬鹿女でも泣かれるのは良くない。隆介が女を泣かす奴はゴミクズ以下って言うくらい、社会的にも良くないし、後味が悪い。どうにかせねば……!!


「ずみまぜん! 許して、下、さい! 私は、痛感しまじた。力がない人が、他人を助けちゃいけないって。この世界じゃやさしいだけじゃ本当に人にやざぐ、くなれないって!!」


 鼻水が汚い。喚き叫んで必死に僕に許しと自分間違いを露呈している。ただ、僕は別にそういうのは求めていない。しかも、べつに助けることはいけないワケじゃない。


「いや、いけない訳じゃないよ」


 それは馬鹿のすることだって説き伏せたいだけで。それで、その馬鹿が良くないわけでもないし。それにやるならやるで、自分の出来ることと出来ないことの区別はちゃんとして欲しいってことを言いたかっただけで……。


「わたじがまぢがってました! そのせいでユウさんが危険な目にあっで、ユウさんがいればどうにがなると、安易にかんがえでいたせいでぇ。じゅみばせん、じません!!」


 もう最後なに言ってるかわからない。……!?


 ふと、横に気配を感じ振り向くと、家の中から五郎。その影からアンデが


『あーあ、なにやっちゃってるのかなぁ。女の子泣かして酷いやつだ』


 見たいな目線で僕を見ている!?


 ……ど、どうしろと。ボクニドウシロト!!


「え、えっと、別に他人を助けるのが悪いとは思いませんよ」


 自然と口調が丁寧なものになってしまう。それだけ緊張しているのか僕はっ。


「……え?」


「でも、ほら、やっぱり自分の手の届く範囲じゃないといけないんです。僕らはちっぽけで、死んでも、正直なところ代わりなんていくらでもいるんです。家族にとって僕らが大切であっても、世界に影響を及ぼすほど大きな存在ではないんです」


 大層なことを言っているが、正直経験に基づくセリフじゃない。隆介が今の僕のセリフを聞けば大爆笑だろう。は、恥ずかしい! どっかのファンタジー物のセリフをまるまんま引用したようなセリフだ!! 誰か僕を埋めてくれ!!


 心中ボロボロだけど、バカ女がみてる手前暴れるわけにもいかないから、恥ずかしいのを我慢して立っているわけだけど……。


「……」


 涙ぐんだまま僕の次の言葉を待っている。まだ僕喋らないとダメ!? ま、まぁ、次あったときは論破してやるって、馬鹿女に言ったし。畜生。


「え~っと。助けることは悪くありませんが、危険に飛び込むのはやっぱり馬鹿のすることです。自分が大切なのが普通です。ば……、セリアはもっと自分を大切にして、それから、他人のことを考えるようにしてください」


 危ない、馬鹿女って言いそうになった。あと、さんづけ忘れた。もういいや面倒だから。アンデも見てないで早く助けて。


「……そうすれば、もうユウさんに迷惑をかけなくてすみますか?」


 なんだか一緒に行動することが前提のような台詞だけど、これ以上泣かれても困るので、突っ込まない。


「そ、そうですね。今回は終わりが良かったので、良しとしましょう。僕はもう全然怒ってませんよ!」


 怒ってないことを強調した。これで問題ないはず。


「う……!!」


 え!? なんでまた泣くの!?


「ユウざん……!!」


 えちょ、汚い! この馬鹿女僕に鼻水と涙と涎とそのたもろもろ擦り付けてきた!? 僕が何したって言うのさ!!


 アンデを見ると、微笑んでいる。ざまぁーって思ってるんじゃないでしょうね!?


 キィン……。


 え? なに、不憫ってどういうこと? あ、いや、わかってる、僕の服がかぴかぴになってしまったことに対してか。


 キィン……。


 鈍感って、何が!?
















異世界生活190日

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 向井 夕 (むかい ゆう) 現状


武器 魔剣ライフドレイン


防具   異世界での服(冬服


重要道具 髪留め(エンチャント:ウォント・シーイング)

 ミエルお手製神聖術付与指輪( 神聖波動術『魔退破』 ・ 閃光術『光り輝き導く者』 )エネルギー*5%


所持金 3万8028ギス(秋季のバイト代) と 500円


技術   剣道2段


 アンデ流剣術 初心者


 魔素による身体強化 初心者


     異世界の言葉


     中学2年生レベルの数学


 暗算


職業   デトラオン(悪魔の)食堂癒し系店員 (バイト)



2012/7/15 いろいろ修正

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