プロローグ
灯りもなにも付いていない、真っ暗な家の中。
辺りは何者かによって荒らされたような痕跡が残っている。
そんな中でうるさいほどに響く声。
しばらくしても止まないうえに、辺りから物音が聞こえないことから、この家にはその声の主以外には誰もいないことが伺える。
舌打ちをして歩みを進める。
なんだってこんな面倒なことになってしまったのか。
それもこれもあいつらのせいだと、心の中で悪態をつきながら、声が一際大きく聞こえる部屋の前に辿り着く。
最悪の光景を想像してついため息が出る。
腰に下げていた剣を鞘から抜き、反対の手でドアノブを握る。
そして一気にドアを開け、剣と共に部屋の中に立ち入る。
壁を背にして辺りの気配に集中してみるが、特段危険な気配は無い。
危険な気配どころか、生きている人間の気配も、声の主以外にない。
もう生命活動を停止しているか、彼もしくは彼女が置き去りにされてしまったか。
そんなことを考えながら、部屋の隅に移動する。
木造の簡易なベビーベッド。
市場で流通しているスタンダードで安価な型。
そこにはずっと鳴き声をあげている赤子が一人。
最悪な光景ではなかったものの、それでも良くは無い光景に、思わず眩暈を覚える。
とりあえずなんとかする他ないので、罠の有無を確認してから赤子を抱き上げて揺らしてやる。
すると、鳴き声が徐々に止んでいく。
たまに見かける赤子連れがやっていたことを見よう見まねでやってみたのだが、上手くいくものだとホッとする。
「これからどうしたもんか」
そう独りごちて赤子を見ると、大きな瞳でこちらをジッと見ていた。
どうしていいか分からず、こちらもジッと見ていると、赤子はふにゃりと目を細めた。
なんとなく力が抜ける。
「……帰るか」
本来であれば周囲の捜査をするのだが、赤子がいる状況では危険だと判断し、街へ帰ることにした。
――これが、不思議な赤子と一人の元魔王軍討伐隊隊長との出会いだった。




