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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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婚約破棄された公爵令嬢は全てを奪われた――けれど、隣国皇太子に溺愛されながら王国ごと奪い返しますので、どうぞご覚悟を

作者: 結城斎太郎
掲載日:2026/03/26

「エリシア・フォン・グランディア公爵令嬢。貴様との婚約は、ここに破棄する」

王城の大広間に響いたその声に、場は静まり返った。

言い放ったのは、この国の王太子――レオン・アルヴェイン。

エリシアはゆっくりと顔を上げる。青い瞳に宿るのは、驚きではなく、冷静な観察だった。

「理由を、お聞かせ願えますか?」

「決まっているだろう。私は――彼女を愛している」

レオンが腕を引いた先にいたのは、白いドレスに身を包んだ少女。平民出身の聖女、リリア。

「エリシア様は……私をいじめていたんです……!」

震える声でそう言いながら、リリアは涙を零す。

ざわめきが広がる。

「……ほう」

エリシアはわずかに目を細めた。

「具体的には?」

「証拠はある!侍女たちも証言している!」

「それは不思議ですわね。わたくしの侍女は全員、昨日解雇されたはずですが」

その一言に、数人の貴族が顔を見合わせた。

だが、レオンは強引に言葉を重ねる。

「黙れ!貴様のような冷酷な女を王妃にはできぬ!」

「……なるほど」

エリシアはゆっくりと息を吐いた。

そして、にこりと微笑む。

「では、わたくしはこれにて失礼いたしますわ」

その態度に、周囲がどよめく。

「待て!まだ話は終わっていない!」

「終わっておりますわ」

彼女は振り返りもせず言い放つ。

「わたくしは今、婚約を破棄されました。ならばこの場にいる理由はございません」

「貴様……!」

レオンの怒号が背中に刺さるが、エリシアは歩みを止めない。

だが――

その夜。

彼女の運命は、さらに大きく狂う。

「エリシア。お前は家を出てもらう」

父である公爵の言葉だった。

「……理由をお聞きしても?」

「王家に逆らった罪だ。お前はもうグランディア家の娘ではない」

「そうですか」

あまりにもあっさりとした返答に、父は眉をひそめる。

「何か言うことはないのか」

「特にございませんわ」

エリシアは静かに頭を下げた。

「これまでお世話になりました」

そのまま、屋敷を後にする。

荷物は、ほとんど持たされなかった。

夜の冷たい風が頬を打つ。

(……なるほど)

ここまで徹底されているなら、偶然ではない。

完全な「排除」だ。

(ですが)

彼女の瞳に、わずかな光が灯る。

(これで、ようやく自由ですわね)

その瞬間だった。

「……面白い女だな」

低く響く声。

振り返ると、そこには一人の男が立っていた。

黒髪に鋭い金の瞳。

圧倒的な存在感。

「初対面で失礼ですが……どなたでしょう?」

「名乗る価値があるかは分からんが」

男は口元を歪める。

「カイル・ヴァルディス。隣国の皇太子だ」

「……なるほど」

エリシアは一瞬だけ目を見開いた。

(なぜ、ここに?)

だがすぐに冷静さを取り戻す。

「それで、その皇太子殿下が、わたくしに何の御用で?」

「お前を迎えに来た」

「……はい?」

あまりにも予想外の言葉に、さすがの彼女も言葉を失う。

「勘違いするな。偶然ではない」

カイルは一歩近づく。

「お前が嵌められていることも、王太子が無能なことも、全て知っている」

「……情報通でいらっしゃるのですね」

「当然だ」

彼はエリシアの顎に手をかけ、顔を上げさせる。

「そして――お前の価値もな」

その視線に、ほんの一瞬だけ息が詰まる。

「……わたくしの価値?」

「そうだ」

カイルは断言する。

「お前はただの公爵令嬢ではない。この大陸で最も価値のある存在だ」

「随分と大げさなお話ですわね」

「なら証明してやろう」

彼はエリシアの手を取った。

その瞬間――

淡い光が彼女の手から溢れる。

「……これは」

エリシア自身も驚いていた。

「やはりな」

カイルは満足げに笑う。

「“聖女”はあの偽物ではない。本物はお前だ」

空気が凍りつく。

「……まさか」

「気づいていなかったのか?」

「……ええ」

エリシアは静かに呟く。

「ですが、納得はできます」

(だから排除された)

全てが繋がる。

「どうする?」

カイルは問いかける。

「このまま野垂れ死ぬか、それとも――」

彼は彼女の手を引き寄せる。

「俺と来て、全てを奪い返すか」

エリシアは、ほんのわずかに考えた。

そして――

「面白そうですわね」

微笑んだ。

「そのお話、乗らせていただきます」

その瞬間、運命の歯車は大きく回り始めた。



ーーーー



それから三ヶ月後。

王国は混乱していた。

「聖女リリアの力が……弱まっている?」

神殿の司祭が青ざめた顔で告げる。

「はい……浄化の儀式が、ほとんど成功しません」

「そんな馬鹿な!」

王太子レオンは机を叩いた。

「彼女こそが聖女のはずだ!」

だが現実は非情だった。

疫病は広がり、魔物の被害も増大。

国は確実に傾いていた。

「殿下……これは……」

「黙れ!何かの間違いだ!」

その時――

「いいえ、間違いではありませんわ」

凛とした声が響いた。

扉が開く。

そこに立っていたのは――

「なっ……エリシア!?」

かつて追放したはずの令嬢。

だが今の彼女は違う。

漆黒のドレスに身を包み、圧倒的な気配を纏っていた。

その隣には――

「隣国皇太子、カイル・ヴァルディスだ」

ざわめきが広がる。

「なぜ貴様らがここに!」

レオンが叫ぶ。

エリシアは静かに微笑んだ。

「簡単ですわ」

一歩、前に出る。

「返していただきに来たのです」

「何をだ!」

「わたくしのすべてを」

その瞬間――

彼女の体から光が溢れた。

圧倒的な浄化の力。

空気が一変する。

「これが……本物の……」

誰かが呟く。

リリアはその場に崩れ落ちた。

「そんな……私が……偽物……?」

「ええ」

エリシアは冷たく言い放つ。

「あなたはただの駒。利用されただけですわ」

「違う……私は……!」

だがその声は誰にも届かない。

「レオン殿下」

エリシアは視線を向ける。

「あなたは、わたくしを捨てました」

「そ、それは……!」

「では今度は――」

一歩近づく。

「あなたが捨てられる番ですわ」

その言葉と同時に、カイルが動く。

「この国は既に限界だ。保護という名目で、我が国が管理する」

「なっ……!」

「拒否権はない」

冷酷な宣言。

王は崩れ落ちた。

「そんな……我が国が……」

「自業自得ですわ」

エリシアは静かに言う。

「正しいものを見抜けなかった代償です」

そして、彼女は最後にレオンを見た。

「安心なさって」

優しく微笑む。

だがその瞳は冷たい。

「命までは取りません」

「ほ、本当か……!」

「ええ」

ゆっくりと頷く。

「ですが――」

その言葉に、全員が息を呑む。

「一生、後悔していただきますわ」

全てを失った現実を抱えて。

栄光も、地位も、愛した女も。

その後。

エリシアは隣国にて、正式に皇太子妃となった。

「満足か?」

カイルが問いかける。

「ええ」

彼女は微笑む。

「とても」

そして、彼に寄り添う。

「ですが……」

「なんだ?」

「これからは、復讐ではなく――」

彼を見上げる。

「幸せを、たくさんくださいませ」

一瞬の沈黙。

そして――

「当然だ」

カイルは彼女を抱き寄せる。

「お前は俺のものだからな」

その言葉に、エリシアはくすりと笑った。

こうして、全てを奪われたプリンセスは――

誰よりも幸せな未来を手に入れたのだった。

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