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『夢』に憧れて

作者: 糸津田隆輝

とある田舎にある中学校、そこは全校生徒わずか50人という小規模の学校があった。

そんな中でも様々な部活やクラブが存在し、生徒は皆それぞれの『夢』に向かって日々励んでいる。

その中でもひと際目立つピアノクラブがあった。


そこには、天才美少女と噂されるピアニストがいて、()()()()()()と共に研鑽を積んでいた。


「誰が有名になっても、恨みっこなしだよ!」


「「「うんっ!」」」


元気な掛け声が音楽教室内に響き渡る。彼ら彼女らは、そうしてお互いを鼓舞しながら、キラキラとした眼で日々夢を語らっていた。


「お互い、夢を手にするため頑張ろうっ!!」


「そうだね、夢を叶えて有名になったら必ずまた皆で集まって語り合おうっ!」


「そうだな、そのためにもまずは受験頑張んないとな!」


そんな中でもひと際偉才を放つ一人の美少女。

天才と謳われ、既に多方面から注目を浴びていた。


「基本なんていらない。私がこの世に生きてきた証は作品だけだから」


聞く人が聞けば完全に舐めてると捉えられてもおかしくない発言。

だが、彼女はそれを自身の信念として掲げていた。


その言葉通り、作曲する作品はどれもが人々の心を掴み、一世を風靡(ふうび)していた。

こうした人というのは、往々にしてお高く留まったお嬢様を思わせ嫌煙されがちだが、仲間たちはそんな彼女の才能に(ひが)むこともなく、むしろ尊敬と敬愛をしており、皆彼女のことが大好きだった。


そんな彼女が、高校に上がる直前の春、忽然と姿を消した。

大好きだった、憧れだった彼女は、自分たちに何も告げることなく、だれにも何も言わず、どこかへ行ってしまったのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


時が経ち数十年後。

都内に数多ある広告代理店のひとつ。

そこでは新規企画を立ち上げようと画策しているチームがあった。


「せんぱ~い!次の企画ってどうします?『早くきめろー』って上長がまた不機嫌になってますよ~」


「・・浅野、声が大きい…また聞かれたらどやされるわよ。」


新規企画を打ち出すため抜擢されたチームに所属する二人。

チームといっても、実際に音頭をとって実働しているのはこの二人だ。


入社2年目で、明るく人懐っこいが、どこかマイペースでふわふわしたところがある浅野美織。

今回のチームリーダーであり、浅野の五歳年上の近藤結花こんどうゆか


既に一度、チームを組んだことがあるとはいえ、前回は人数もそれなりにいた。しかし今回、メインは二人で進めるということもあって、近藤は少し不安な気持ちを抱いている。

それでも、ここで実績を残してアピールできる企画を打ち出したいと考えていた。


「あまり凝ったことをやろうとしても中途半端になってしまいそうよね。」


「あ、だったら次世代のアーティストの発掘ってのはどうですか~?『夢』があっていいかな~って!」


( 次世代のアーティスト・・なるほど、悪くないかもしれない )


「面白そうなアイディアね!といっても、そんな簡単に見つかるかしら?アーティストを目指す人なんてごまんと居るし、そこから有望そうな人を見つけてってなると、なかなか難しそうじゃない?」


「実は最近、SNSでバズり始めているピアニストが居るんですよ~」


そういって浅野はスマホでSNSを開き、とあるアーティストのアカウントを近藤に見せた。


「『オネイロス』?なんだか変わった名前ね」


「そうなんです!ギリシャ語で『夢』って意味みたいですよ~」


「この人、顔写真がないのね?それに、プロフィール欄に何も書かれてないみたいだけど、本当にバズってるの?」


「せんぱ~い!バズってるんじゃなくて、バズり始めてるんです!!そこは間違えないでくださいねっ!」


「はいはい、わかったわよ。それで、本当なの?」


「そうなんですよ!この人、年齢も性別も経歴もすべて不詳。わかっていることはピアニストであるということだけ!」


「それだけでなんで注目されてるのよ?」


「それがですね~、この人オリジナル作品の演奏を投稿してるんですよ!それも、とんでもない作曲スピードで!」


「とんでもない作曲スピード?」


「はい!ほぼ毎日!サビだけみたいなショートじゃなくて、普通に4分以上はある曲をですよ!しかも、毎回曲調が違うんです!すごくないですか?!」


「それは確かに凄いわね、むしろ異常じゃない。。」


音楽は作曲家の個性が出ると言われている。初めて聴く曲でも、この人の曲かな?と、専門的な人やコアなファンであれば結構わかるくらいには。

しかし、件のアーティストがSNSに上げてくる曲はそれが分かりづらい。()()()()()()()()()()()()()()()とも感じて一貫性がないのだ。


普通であれば、それくらいで注目させるというのはなかなか考えづらい。

しかし、『オネイロス』という人物は、ある意味ではそれが個性で先鋭的だとして、特に若い層でじわじわと人気が出てきているというのだ。


「この人を超大物アーティストにしましょう!私、いつか自分の手で発掘したアーティストをバズらせるのが『夢』だったんです!」


「そ、そうなのね。確かに話題性もありそうだし、試しに打診してみるのもありかもしれないわね」


明るい子ではあるが、比較的温厚でマイペースな彼女にしては珍しくグイグイと推してくる浅野に、ちょっとびっくりする近藤。

不可解な点があると感じつつも、浅野のその熱意に圧され、面白い企画になりそうと思い、試しに上長に提案してみることにした。

以外にも受けが良かったようで、すぐに企画が決定し、浅野はそれはもう満面の笑みで喜んでいた。


「それじゃ早速、『オネイロス』って人のことを調べてみましょうか」


企画を形にしていくため、この人物について調べていくのだが、既に周知されているとおり、本当に情報が何も出てこない。

あらゆるSNSや、音楽関係者にあたってみても、その片鱗すらつかめずにいた。

痺れを切らして、『オネイロス』が投稿しているSNSのアカウントにDMを送ってみても、既読されることはなく当然返信も来なかった。


1週間、2週間と過ぎていき、焦りを感じ始めたころ、浅野が興奮した様子で現れた。


「せんぱい!やりました!!『オネイロス』さんとコンタクトがとれましたよっ!」


唖然としてしまうくらい、ハキハキとした姿勢で浅野が現れたことで反応が遅れてしまった。

なぜ彼女はこんなにも一生懸命になっているんだろう。とてもいいことのはずなのに、この時の近藤は不思議な気持ちになっていた。


「どうやって連絡がとれたの?」


「実は、わりと最近でた新しいSNSがあって、そこで見つけて試しにメッセージ送ってみたんですよ!そしたらなんと、返信が来たんです!ほらっ!」


そういって彼女はスマホの画面を近藤に見せた。

確かに、見たこともないSNSのようで、様式は学生たちが好きそうなデザインになている。

相変わらず、プロフィール写真も何もないが、確かにアカウント名は『オネイロス』となっている。


「よくやったわ。じゃ、その人との連絡はあなたに任せるわね。いくつか聞いてほしいことがあるから、それを順次聞いていってくれる?」


「任せてくださいっ!」


そうして順当に話が進んでいった。

それでも、プロフィールは明かさないとして未だに謎が多い人物だが、『オネイロス』という人物が女性ということだけはわかった。


やり取りがメッセージだけなので、多少は時間がかかることを覚悟していたが、不思議なほど早いスピードで事がどんどんと決まっていき、「神隠しのコンサート」という企画でコンサートを開催することが決定した。


「それにしても、『神隠し』ってちょっと不吉なタイトルじゃない?それに当日正体を公表するってことだけど、いいのかしら?」


「いいみたいですよ~。むしろ、彼女からの提案だったんですから!タイトルもこれにすることがコンサートに出る条件って言ってますし。これくらい神秘的な方がむしろ注目が集まっていいかもですよ~!私としても、彼女の曲が世の中に広まるって考えると、『夢』がまた一つ叶うから今からすごく楽しみです!」


これまで一切のプロフィールを非公開にして、何の情報も得られなかった人物がなぜこのタイミングで、当日公表すると申し出てきたのか、近藤はそれが不可解でならなかった。

少しでも情報を得ようと、コンサート前に少しずつ公表していくのは?と提案してみたが、それは却下され未だに女性ということ以外、何も明かされていない。


だが、民衆はむしろそれがいいのか、PRを始めると『オネイロス』という名と『神隠しのコンサート』がトレンド入りし、ネット上ではどんどん噂が広まっていった。


『彼女は何者なんだ?』

『かなりの美女とみた!』

『実は女装した20歳くらいの超イケメンかも?』

『どっかの有名企業の社長が売名でやってんじゃね?』


など、尾ひれがついた噂がどんどん広まっていた。

広告業としては、まさに思惑通りの宣伝効果を得ているので、会社からはかなり高評価を得ていた。しかし、直に携わる近藤としては、ずっと複雑な気持ちを抱えている。


(なんだか、話がスムーズに行き過ぎてるきがするのよね)


そんなとき、メールで高校の部活の同窓会の連絡が届いた。

比較的直近の日程というところを見ると、急遽やるようにしたのだろう。近藤は参加するか迷ったが、今はちょうど準備も落ち着いていたし、予定日の夜は空いていたので参加することにした。


当日、会場となるお店につくと、既にほかの参加者は集まっていた。


「お待たせ。みんな早いわね」


今日集まったのは10人ほどなので、全員とはいかなかったようだが、それでも直前で決まったにしては集まった方なのだろう。近藤は卒業以来、久しぶりに顔を合わせるのでかなり楽しみにしていた。


「近藤さん、久しぶりね!元気そうじゃない!」


そう話しかけてきた彼女は、当時共にバイオリンをやっていた子だった。最初は懐かしくて思い出話に花を咲かせていたが、今の話になって言葉を失ってしまう。


「私ね、一昨年やっとプロとしてデビューすることができたの!今東京の有名なオーケストラにエキストラで入って、来月から全国を回るのよ!」


そういった彼女は、別に嫌味ではなく、純粋にそれが嬉しくて話してくれているのだろう。だが、近藤はそれをそのまま受け止めることができなかった。


なぜなら、彼女は既に夢を諦めてしまっていたから。

当時はお互い、プロを目指そうと話をしていた。しかし、自身は今は広告代理店に勤め、かたや彼女はそれを実現したのだ。


本来であれば喜ばしく、嬉しい気持ちになるはずなのに、胸がぎゅっと締め付けられるほど、ショックが大きかった。

諦めたときは自分に向いていないと思い、きっちりと見切りをつけたと思っていた。けれども近藤は彼女の現状を聞き、心がざわつき、やるせない気持ちになってしまったのだ。

振り返ってみれば、当時本気で練習をしていなかった。もっと言えば、これまで何かに命を捧げるほど頑張ったことがなかったのだ。


しかし、彼女は当時から休むことなく朝から晩まで練習をしていたし、レッスンにも通っていた。そして音大に入って今がある。


かたや自身は、そこそこの練習をしてた程度で、大学は一般大学に進学していた。

そんな自分に引け目を感じ、ショックを受けてしまったのだ。


その気持ちを抑えようとするも、身勝手な嫉妬心にあらがえず、自分もすごいことをやっているんだとアピールしたくなって、近藤は今携わっている『オネイロス』のことを話して聞かせた。


「『オネイロス』って今話題だよね!しかもこれまで一切情報が不明だったのに、最近、美女であるということと、地元と出身校が特定されたって噂だよね!あれ、本当なの?」


「・・えっ?」


近藤はまたしても混乱した。

そんな情報は聞いたことがなかった。企画のPRもひと段落し、SNSでの動きや『オネイロス』とのコンタクトは浅野さんが「任せてください!」というので、彼女に任せ自身はコンサートに際して必要な様々な手続きの依頼をしていた。

そして、何か新しい情報があればすぐ教えてとも言っていた。


(浅野さんもまだ知らないのかしら?)


浅野もまだ知らない可能性を考え、より詳しい情報を得るために近藤は彼女に尋ねることにした。

だが、ここで驚きの情報が出てくることになる。


特定されたという地元と出身校が浅野と同じだったのだ。


彼女とチームを組むと決まった際、さらに親睦を深めようと飲みに行っている。そこでお互いの出身のことを話ていたのを近藤は記憶していた。その時聞いた場所と同じだったのだ。


その場ですぐに浅野に連絡をしようかと思ったが思いとどまり、明日直接本人に確認することにした。



翌日、出社して早々に浅野を問いつめる。


「『オネイロス』ってあなたと同じ出身って聞いたんだけど本当なの?」


「・・はい、本当です・・」


「なぜ、言わなかったの?知らなかったなんてことはないんでしょ?」


そういわれ、最初は口をつぐんでいた浅野は、意を決した表情で涙ながらに語り始めた。『オネイロス』の真実について。


「・・彼女は既に亡くなっています。私たちは彼女が大好きだったし、彼女が作る曲も大好きだった。でも、彼女はもういないんです。だから、彼女を蘇らせたかった!


彼女はまだ生きているんだって。


学生時代に彼女が言ってたんです。

『私がこの世に生きた証は作品だけだから』って。

その言葉になぞらえて、当時の部員みんなで話し合い、志半ばで居なくなってしまった彼女を模倣して、彼女を存続させ続けようってなったんです・・」  


思いもよらない事実が判明し、近藤は困惑した。このままではまずい。ほぼ確実に、この事実を隠し通してコンサートを実施することは不可能だろうと。かといって、今更中止にすることもできないところまで既に来ている。


悩みに悩んだ近藤は、上長に相談することにした。


結果、「ここまでの経緯を包み隠さず公開しよう。むしろ、さらに興味の引く企画になるかもしれない」という話でまとまることとなった。


最新情報を公開後、やはり賛否両論の意見がでて、かなりの盛り上がりを見せた。

「ふざけるな!」という意見もあれば、「なんて悲しいんだ」という哀れみもあった。それでも、思ったよりは好意的な反応が多く、『オネイロス』を祀る会などという信仰的な者たちまで出てくるにまでなっていた。


コンサートの内容は、平たく言えば演者変更という部分以外は当初通りなので、大きなトラブルもなく準備は進んでいった。

演奏する楽曲の譜面は浅野たちから提供してもらい、演者は最近デビューした新進気鋭のピアニストを起用するということになった。

注目度もかなり高いこともあり、早々にチケットは完売。急遽2公演行うことになり、広告業としてはまさに大成功と言っていい結果だ。


それはすなわち近藤の目標であった、会社にアピールできる結果を得られたということになる。

それでも、近藤は心から喜ぶことはできなかった。


そうして無事迎えたコンサート当日。近藤は会場に来ていた。

運営自体は、それぞれ専門の人たちがおり、自身がやることといえば、各関係者の代表とあいさつをするくらいなので、あとは演奏を聴くくらいだった。


「いろいろあったけど、生演奏を聴くのは結構楽しみね」


当然最大の功労者でもある浅野も一緒にと誘ったていが、結果断られてしまっていた。上長からも浅野には別の仕事を任せると言われていた。


恐らく、どこか引け目を感じているのだろうと感じた近藤は、今はそっとしてあげることが彼女のためになると思い、気持ちを切り替えて会場にきていた。


しかし、ここでのやることをほぼ終え、あと演奏を聴くだけという段階になって、ふと違和感を覚える。


「これで本当に終わりなの?」


思い返すと、ここまでの流れの話があまりにも出来すぎているように感じたのだ。何かが引っかかると。

そう感じ、浅野のこれまでの発言を思い出し始めた。


『だったら次世代のアーティストの発掘ってのはどうですか~?『夢』があっていいかな~って!』

『「オネイロス」ってギリシャ語で『夢』って意味みたいですよ~』

『この人を超大物アーティストにしましょう!私、いつか自分の手で発掘したアーティストをバズらせるのが『夢』だったんです!』

『彼女の曲が世の中に広まるって考えると、『夢』がまた一つ叶うから今からすごく楽しみです!』


思い起こせば、浅野は『夢』ということを強調していたように思う。

それは、発音としてではなく、言霊のようなものとして。

そこに他人では理解しえない深い思いがあるような、そうした感情がのっていたのではと近藤は感じ始めた。

それと同時に、言いしれない胸騒ぎが襲い、急ぎ会社に戻ることにする。


オフィスに到着し浅野の席を確認すると、既にそこはもぬけの殻となっていて、何もなかった。

上長に確認すると「彼女は昨日付で退職した」という。

コンサート前日に退職することは一月前には決まっていたが、なぜか近藤にはその情報が伝えられていなかったのだ。


上長に詳しい話を教えてほしいと懇願すると、さらなる真実が明らかとなった。


『オネイロス』という亡くなった天才美少女というのは、浅野たちが作り上げた『架空の人物』だったのだ。

彼女が語った、大好きで憧れの存在という『オネイロス』は、浅野たち元ピアノクラブのメンバーの理想の人物だった。


『いろいろなところから声がかかり、神童と呼ばれる』

『日本中に轟かせる音色』

『なのに、その正体は謎』

『そして忽然と姿を消す』

『それがとてもカッコいい!!』


そうした夢の希望に満ち溢れた中学生たちの理想が詰まった人物、それが『オネイロス』だったのだ。


その思いは近藤にも理解ができた。なぜなら実際自身も学生の頃はバイオリニストを目指していたからだ。

だが、それでも腑に落ちない点がある。


浅野たちはなぜ今になってこんなことをしようと思ったのだろうか?

同じことをおもった上長が、そのことも聞いていた。


ある日、ほかの先輩から口コミによる事件というのを聞かされたことがあったという。

昔、『豊川信用金庫事件」という、ある女子高生の何気ない会話から根も葉もないデマが広まり、大きな騒ぎに発展してしまった事件があった。それくらい、口コミというのは時に人々に大きな影響を与えることもあると教えられたそうだ。


それを聞いた浅野は

「存在しない人物をバズらせることができるのでは?」

ということに気づき、たまたまそのタイミングで同窓会があって再会したクラブメンバーと話をしていくうちに、徐々にそれを実現しようという話になっていった。


「今なら当時の自分たちの『夢』が実現できるかもしれない!」


そう思って、企画として提案したということだったのだ。


既にコンサートは始まってる以上、これ以上混乱を招く情報を出すわけにはいかない。それは、会社として沽券にかかわることだからだ。最悪、その信用は地に落ちないとも限らない。

このことは、上長と今知らされた近藤しか知らない真実であり、口外厳禁となる。

それは発案当人である浅野も含まれる。


とはいえ、結果として企画は大きな反響をよんだのだからお咎めなしと伝えたが、嘘をついて巻き込んだという自責で浅野は退職することにしたそう。


近藤は複雑な思いにさらされていた。あまり良いこととは言えないことではあったが、それでも浅野のことを非難することはできなかったからだ。


なぜなら、自身は捨ててしまった夢を、彼女は違う形で、ある意味では人生をかけて実現したからだ。それは、近藤からすれば尊敬に値することだったから。


それから近藤は、浅野がやり遂げたように、夢あふれる者たちを応援できる企画を打ち出していくことになる。


『誰でも諦めることなく挑戦し続ければ、何かの形で叶う夢も必ずある』


そのことを少しでも伝えていきたいという、新たな『夢』に今度は全力で取り組むこととなっていった。



▷ アナザーストーリー ◁

「ねえねえ、いつかさ、いろいろなところから声がかって、神童と呼ばれる!なんてなったいいね!」

「『日本中に轟かせる音色』を奏でられるってのもよくない?!」

「なのに、その正体は謎、とか?」

「そして、忽然と姿を消す、ってなったらめちゃくちゃカッコよくない?!」

「そうだな、そんな風になれたらいいよな!」


とある田舎の中学校、そこには()()()()()が所属するピアノクラブがあった。


『夢』を語り合い、希望に満ち溢れているその姿は、だれが見てもキラキラと輝いていた。


「だったらださ、そういう人物を作っちゃえばいいんじゃない?」

「それでSNSにあげて、バズったら面白いよね!」

「じゃ、理想のストーリー考えないとだね」

「天才美少女ピアニスト、現る!とか?」

「属性多すぎじゃね?w」

「いいじゃん!それでその美少女に憧れる俺たち部員が、夢を語り合って・・」

「将来、だれが有名になっても恨みっこなしだよ!的な」

「なんだそれ?!じゃ、将来は有名になって、皆でまた集まって語り合おう!みたいな約束をした、とかもいいんじゃね?」

「きも~い!でもいいね!」

「『基本なんていらない。私がこの世に生きてきた証は作品だけだから』なんて決め台詞はどうよ?」

「うわっ、だっせー!w」

「いいじゃん!いいじゃん!そしたら早速アカウント作ろうよ!それでどうする、アカウント名?」

「『オネイロス』とかどう?」

「それ、中二すぎるだどう!w」

アハハ


Fin.

お読みいただきありがとうございます!

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