第六話 〇〇を探して
ごはんを食べて、顔を洗って、歯を磨いて……朝の身支度をしていると、さすがにおっさんも飽きたのだろう。
『二人が実はこの生活にストレスをためていて、どこかで爆発して〇〇をする――その展開に期待しているよ。それでは、今日も良い一日を』
負け惜しみのようにそう言って、おっさんはモニターから消えた。
ふぅ、やっといなくなったか。
畳一枚ほど大きい上に解像度も高いので、おっさんの映像はちょっとあれだ。毛穴まで見せないでほしい。日に日に髪の毛が薄くなっていくのもちゃんと分かる性能のモニターなのだ。
おっさんが映っている間はちょっと不快なのだが、しかしアニメを見るにはすごく都合がいい。
いつもなら、録画した深夜アニメを見る時間だ……しかし今日は少しやりたいことがあった。
「凛々子。モニター使っていいぞ」
「いいの? オタクくん、パンチラして胸がぷるぷるしてるあのきもーたアニメの録画見ないの?」
「きもーたって言うな……たしかに最新話が深夜に放送されてたけどっ」
パンチラと胸揺れは深夜アニメの文化だ。まぁ、地雷系女子にそんなこと説明しても理解できないと思うので、何も言わないでおこう。
「昨日、お前の好きなアーティストのライブ円盤届いてたよな? それ、見たいかなって」
「え。優しい。好き、胸とか揉む? それとも付き合う?」
「揉まない。あと、俺は凛々子のこと普通としか思ってないから、ごめんな」
「いやん。照れててかわいい~♡ オタクくんって仕方ないにゃぁ」
なんで地雷系女子ってポジティブなのに頑固なんだろう。思い込みが激しいというか、俺の意見を無視すると言うか……いや、地雷系女子がという話ではなくて、凛々子がそういうタイプなだけか。
「まぁ、好きに使ってくれ。ちょっと考えたいことがあるんだ」
「り!」
了解、な。
変な略語は嫌いだ。日本語への冒涜だと思っている。ただ、三年で慣れたので今は何も言うつもりはない。凛々子はそういうタイプなのだと受け入れていた。
さて、と。
(少し、考えるか)
食事用に使っているテーブルを離れて、勉強机に移動。凛々子はすでにベッドに寝転がって女性アーティストのライブ映像を鑑賞しているので、あと二時間は一人ですごせそうだ。
「やっべ。足なげぇ……みみたそたまらん。ぐへへ」
あれはどういう目線なのだろうか。三次元にあまり興味がないので、凛々子の感覚はよく分からん。
まぁ、夢中なのはいいことだ。そっとしておこう。
なんだかんだ、彼女は寂しがり屋なのか暇な時はずっと話しかけてくるので、静かに過ごすことができない。だから毎日、凛々子に何かをしてもらっているうちに、こうやって考え事をしている。
(この部屋から出ることを、俺はまだ諦めてないからな)
おっさんの前でこそ、興味がないふりをしているが。
しかし、まだ完全に諦めたわけじゃない。この部屋に閉じ込められた一年目の熱量こそないが、今でも『〇〇』に当てはまることは探している。
それについて考察するのが日課の一つだ。
(とはいえ、試せることは一通り試したが)
三年という月日は長い。
思いつく限り、当てはまりそうなことは片っ端からやっていった。記録を付けて、一つ一つしらみつぶしに探している。
そのノートを見返して、やっていない行動を探しているのだが……三年目となると、思いつくことすら難しい状況になっていた。
(……あと少しで、三冊目のノートも埋まるな)
ふと気づいたら、あと数ページでこのノートも使いきってしまいそうだ。
さて、〇〇とはいったい何だろうか。
(やっぱり、あれなのかなぁ)
一番最初に思いついてはいたが、まだ実行していない行動がある。
でも、出会った頃は凛々子のことが苦手で、そういうことをすることが嫌だった。
とはいえ、三年という月日は色々なことに変化を与える。
今はもうすっかり、凛々子のことを苦手ではなくなってしまっている。
むしろ、好意的に思っている。
だから、そろそろ……と、考えてしまう自分がいた――。
【あとがき】
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