第五話 親ガチャ失敗した結果
もちろんあのおっさんは黒幕である。
俺と凛々子をこの部屋に閉じ込めた張本人。俺たちを誘拐して軟禁しているのだ。警察に連絡したらちゃんと逮捕できる気がする。
まぁ、俺と凛々子に与えられた電子機器は電話の機能が搭載されていないので、警察に連絡することはできないのだが。
部屋に軟禁されて一年目くらいまでは、警察にどうにか連絡しようと必死だったなぁ。ネットは繋がるので、SNSを通じて誰かに通報してもらおうとしたり、時には掲示板や配信サイトを利用したこともあった。しかし、ことごとく失敗して……と、納豆をグルグルと混ぜながら過去のことを考えていると。
「ぷは~。生き返るぅ……ピンク色のキメれば眠気なんて吹き飛んじゃうねっ」
「そうか。良かったな」
「うゅ」
隣でピンク色のエナジードリンクをストローで飲んでいた凛々子に話しかけられたので、適当に相槌を打っておいた。
無視すると機嫌を損ねるので、ほどほどに相手をしておかなければならない。基本的には明るくて扱いやすいタイプなのだが、拗ねるとかなりめんどくさくなるんだよなぁ。
「オタクくんも飲む?」
「いや、いい」
「はぁ? わたしと間接キスしたくないわけ?」
「納豆を食べた口でいいならするが」
「あ、やっぱダメ。ねばねばきらい」
「なんでだよ。納豆は美味しいだろ」
「これのほうが美味しいじゃん?」
「カフェインと砂糖を凝縮した液体より納豆の方がいいに決まってるが」
「腐った豆の何が美味しいのか分かんなーい」
……と、そんな会話を交わしながら朝食を食べていると。
『仲良さそうにしないでくれないかね?』
俺たちの様子をずっと観察していたおっさんが、見かねて口を挟んできた。
朝食を食べている間もずっとモニターがついていたので見ているのは知っていたが……どうやらご不満らしい。
『二人の相性はもっと悪いと思っていたんだが……やれやれ』
「相性は悪いだろ。なぁ、凛々子?」
「うゅ。わたしも妥協しまくって好きになってるだけだし?」
「おい、妥協ってなんだ」
「理想はもっとかっこよくてバンドとかやってて女にモテまくってたまに浮気とかするけど結局わたしのところに戻ってくるようなイケメンがいいのっ」
「そういうやつって性病持ってそうだよな」
「それなー! やっぱりぴっぴでいいや。てか浮気って冷静に考えたらダメじゃね? やっぱり浮気きらーい。ぴっぴならモテないし性病も持ってないからちょうどいいね?」
「も、ももも持ってるかもしれないだろ!? 決めつけるのはやめてもらおうか」
『……相性、いいように見えるがね』
おっと。うっかり二人だけの世界になっていたようで、おっさんが呆れたようにため息をついていた。もちろん悪いとは微塵も思っていないので反省はしていない。
『はぁ。へたれ童貞オタク少年と地雷系女子を密室に閉じ込めたら、もっと面白いものが見られると思っていたのだがね……大金をはたいて君たちを買ったことを後悔しているよ』
……客観的に見て、このおっさんは俺と凛々子を誘拐して軟禁している犯罪者なのだが。
しかし、当の本人はそうじゃないと主張している。
このおっさんの説明を鵜呑みにしていいのなら、俺たちの保護者に大金を払って身柄を購入したとのことだ。
普通ならありえない。しかし、俺と凛々子の親はそういうことをするタイプのクズだったので、嘘だと断言できないのが残念だ。
まともな親なら子供がいなかったら通報して捜索されていてもおかしくないと思うが、一向に誰かが探している気配もない。そのせいで親が子を売った、という信憑性が出てくるのが嫌なところである。
やれやれ、親ガチャは二人とも大外れだ。
重いことなのでさらっと言うべき内容じゃないのは分かっている。でも、シリアスになっても仕方ない。
うーん。やっぱり親がクズなのは重いし、冷静に考えてみると酷い状況だが、こんなことで精神が不安定になるのは一年目だけだった。二年目からはもう慣れて、親のことなんて考えることも減ったなぁ。もともとクズだと思っていたので諦めるのも簡単だったのだろう。
とにかく、金持ちのおっさんの悪趣味に付き合わされている、というのが現状だ。
そして今、おっさんの予想を裏切って平穏に暮らしているわけである。
『やれやれ。君たち二人がこのままなら、私としても動かざるを得ないのだが』
「うるせー。かかってこいや」
「何が来ても、二人の愛の力があれば大丈夫だよね♡」
『愛の力があれば、すぐにでも脱出できると思うんだけどねぇ』
何かを匂わせるような発言にも、俺たちに動揺はない。
今までも何度かそういうことを言われているので、もう慣れていたのだ。
たしかにこの部屋から出ることはできていない。それは悔しいのだが、思い通りにならないことで一矢報いているので、それだけは楽しんでいた――。
【あとがき】
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