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エピローグ 〇〇しないと出られない部屋、とは――

「何をやっているんだ、彼らは……」


 モニターに移る二人を見ながら、男性は苦笑した。

 椅子に深く腰を掛けて、机に置かれているコーヒーカップを手に取る。しかしもう中は空っぽだった。


 コーヒーを飲み干すほどの時間、彼は二人の様子を見ていた。

 そのことに気付いて、男性は小さく息をついた。


「君たちはいつまでここにいるつもりなのか……やれやれ」


 コーヒーカップを置いて、その隣にある仮面にそっと触れる。

 もう片方の手では、無意識に頭をかこうとしていたので、慌てて手を下ろした。最近薄くなり始めているので、これ以上頭皮を傷つけたくなかったのである。


「まったく……黒幕というのも、大変だ」


 そう。この人物は、田中凛々子と太田久信……りりぽんとオタクくんを閉じ込めている張本人だ。

 りりぽんからは『おじぴ』と呼ばれ、オタクくんからは『おっさん』と呼ばれている初老の男性である。


「君たち二人のことが気になって、髪の毛も薄くなってきたのかねぇ」


 と、ぼやきはしているが。

 しかし彼は、少しだけ楽しそうに声を弾ませていた。


「やはり、私の目がない方が状況が動く。二人とも、かなりいい関係になり始めた」


 満足そうな呟きは、もちろん誰かに向けられた言葉ではない。書斎には彼しかいないのだが、独り言は最早習慣となっている。年を重ねると、人間は一人で勝手にしゃべりだすものなのだ。


「たまには嘘をついて、二人きりにすると良さそうだ」


 先ほど、オタクくんには出かけると声をかけていたが。

 実はずっと画面越しに二人の様子を見ていたのだ。だから、おままごとをしていたことも、りりぽんがメシマズだったことも、喧嘩して離婚したことも、仲直りして再婚したことも、全部見ていたのである。


 そして、彼は喜んでいた。

 何せ、今回の件は一番正解に近づいていたからである。


「この調子で、仲良くなって……いつか『恋人』になりなさい。それが、君たちがこの部屋から出る条件だよ」


 ――これが、答え。

 〇〇しないと出られない部屋とは、『恋人にならないと出られない部屋』だったのである。


 もちろん、これは金持ちの享楽などではない。

 悪趣味な人間観察、ではなく……実は、色々と理由や目的があっての『軟禁』だったりする。


「……娘が迷惑をかけてすまないね、凛々子君。私は親として、娘をしっかりと育てられなかった。だから、君だけは――責任を取るよ」


 おじぴ。またの名をおっさん。そして、本名は――田中倫人。

 りりぽんの、祖父にあたる人物。それが、彼の正体だ。


「そして、太田君……受験の時はすまなかった。私の使用人の不注意で、君の人生に傷をつけてしまった」


 オタクくんは高校受験を失敗している。

 表向きは、点数が足りなかったからだが……実は当日に交通事故に遭って、受験日がズレている。そのことで彼は責任を感じていた。


 オタクくんの人生を歪ませてしまった。せめて、少しでも償いを……そう思って彼の身の上を調べさせた。最初は慰謝料を払うだけのつもりだったが、家庭環境の酷さや受験に失敗したことを知り、放っておけなくなった。


(……凛々子君の保護は最初から決めていたが、太田君の場合は緊急だった。あの父親が彼をおいて夜逃げしようとしてたなんて、言えるわけがない)


 だから、太田久信も保護することにした。

 二人の保護者には金を払って黙らさせた。りりぽんとオタクくんの保護者は多額の金であっさりと子供を引き渡してくれた。そして彼は、二人を幸せにすることを決意したのだ。


「……私は人を見る目には自信がある。二人はきっと、良いパートナーになれるよ」


 おっさんこと、田中倫人は資産家である。人を使うことに長けており、他者の力や性格を見抜く目には自信を持っている。そんな彼の目で、二人の相性は良いと判断したので、部屋に閉じ込めて強引にでも関係を進展させることに決めた。


 ただし、誤算もあった。


「半年では出てくれると思っていたが……まさか三年目になるとはねぇ」


 相性がいい二人は、半年もあれば恋人になるはず。

 その考察は、あながち間違えてはなかった。実際、二人は仲良く過ごしている。


 しかし……二人はあまりにも、相性が良すぎた。結果、お互いにのんびり過ごすだけで居心地の良さを感じてしまい、結果的に部屋から出ないと言う選択肢をとっている。


 そのせいで、部屋から出ることなく三年目になっている――というわけだ。


「いい加減に、外に出てくれ。そろそろ、自由にすごしてもいいんだよ……たしかに君たち二人にとって、部屋の外は苦しいものだったかもしれない。だが、大丈夫だ。私がいる」


 重い家庭環境と、荒んだ生活と、人間として不出来な親。

 そのせいで二人は、外へ出ることを怖がっているようにも見える。


 しかし、その恐怖を乗り越えて二人が恋人になり、外に出た時は……今度は黒幕のこの田中倫人が、しっかりと二人を幸せに導くと、そう約束する。


「だから――恋人になって実際に会う日を、楽しみにしているよ」


 そう小さく呟いて、彼は優しく微笑んだ。

 その目は、孫を見ている優しいおじいさんのようで……彼の優しさが、にじみ出ていた――。




『恋人にならないと出られない部屋』


 りりぽんとオタクくんが過ごして、もう三年目にもなるのだが。

 しかし、最近の関係の進展を見ている限り……何かきっかけがあれば、二人が恋人になる可能性は高い。


 その時まで、二人はもう少しだけ……密室の日常ラブコメを、続けるのだった――。




【完結】




【あとがき】

お読みくださりありがとうございました!

少し唐突ですが、本作はこれで終わりとなります。地雷系女子が書けて楽しかったです!


また、この度新作の投稿も開始しました。

『異世界に行くより、私とラブコメしよ? ~幼馴染が可愛すぎて転生できない~』

という作品です。異世界転生を阻止して、ひたすらラブコメするお話です。

ぜひぜひ、こちらの作品もよろしくお願いしますm(__)m

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― 新着の感想 ―
出られない部屋から出ないという、逆転の発想とっても面白かったです。 完結お疲れ様です!
完結お疲れ様でした。 まあおじぴがそこまで悪い人でないというのは想像できましたけど。 いつか皆で笑い会える関係になれるといいですね。
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