第三十二話 『金』というチートアイテム
人生、お先真っ暗だと思っていた。
この部屋を出たところで、厳しい現実に打ちのめされると思っていたのだが……おっさんの一手によって、俺たちの未来は一気に明るくなった。
どうやら、おっさんが俺と凛々子の人生を保証してくれるらしい。
この部屋を出てからの就職先も、ちゃんと面倒を見てくれるようだ。
『凛々子君の金銭感覚は不安だったが、やっぱり君は素直でいい子だね。この様子なら、太田君がそばにいてあげれば問題ないだろう』
「……え? おじぴがぴっぴのお仕事を決めてくれるってこと?」
遅れて凛々子も、おっさんが何を言いたいのか理解したらしい。
先ほどまで暗い顔をしていたが、表情が急に明るくなった。
『そうだ。つまり、凛々子君……安心したまえ。太田君の甲斐性の問題は解決しているよ。後は二人の気持ち次第だ』
あ!
そうか。そうなるのか……甲斐性を理由に凛々子の話を流そうとしていたが、おっさんの力でそれも一気に解決したんだ。
『君たちが望むなら、これからも二人で仲良く過ごせるよ。良かったね』
「えー!? お、おじぴ……優しい。お礼にパンツ見る?」
『おじさんにもったいないから、太田君にでも見せてあげてくれ』
「わかった! えへへ、おじぴっていいパパになりそうだね~」
『……それは父親という意味かい? なんだか違う意味の『パパ』という気がしてならないのだが』
凛々子の気分も、おっさんのおかげで一気に明るくなった。
説教された時はシュンとしていたのに、今はもう笑顔である。切り替えの早さも彼女のいいところだ。
『もちろん、就職先を紹介すると言っても、何の努力もせずに大富豪になれるわけではないよ。だから、凛々子君の金銭感覚は不安だったが……太田君がしっかり面倒を見ていれば、不幸なことは起こらないだろう』
「うゅ。ぴっぴにちゃんと面倒を見てもらおーっと」
「うんうん。これでめでたし……って、いや。ちょっと待て。結婚するかどうかはまだ決まってないからな!?」
あまりにも自然に結婚することが決定されていて、うっかり流しそうになってしまった。
待ってほしい。付き合ってもいないのに結婚とか、手順を飛ばしすぎだろ!
「でも、お金の問題はだいじょーぶだよ?」
『私に任せたまえ。ある程度の給与は保証するから、好きな業種を選んでくれ。政財界でも、サブカル業界でも、芸能界だって構わないよ。もちろん裏方の仕事だが』
まずい。お金を理由に断ることは難しい状況になっていた。
というか、おっさんの存在がチートすぎるだろ。この人の気まぐれで、俺たちの人生が大きく左右されていた。
『金の力があればなんでもできる。なぜなら私は大富豪……君たち庶民とは格が違うのさ』
下品な金持ちだが、俺たちにとって都合がいい存在であることは確か。
金というチートアイテムのおかげで、人生の問題は全て解決されている。
あとは、俺たちの意思次第なのだ。
『君たちは余計なことを気にせず、この部屋から出ることだけを考えたまえ』
ある意味では、〇〇しないと出られない部屋のオーナーとしてはこれ以上ない存在ともいえるのか。
この部屋で生じるあらゆる問題は、チートじみた資産能力を持つおっさんがなんとかしてくれるのである。
「ぴっぴ、どうする? 結婚しとく?」
そして凛々子は相変わらず軽い。
人生の伴侶をこんなに簡単に決めるなよ。彼女の言い方は「目玉焼きにソースかける?」と同じテンションだった。
「……それとも、嫌?」
あ、まずい。
やっぱり凛々子は本調子じゃない。先程、怒られたことを引きずっているのか、落ち込みそうな気配を感じた。
正直、焦った。
俺は気の利くモテ男じゃないのだ。落ち込んだ女の子を慰める手段なんてないので、凛々子には明るくいてもらいたい。
だから、慌てて首を横に振った。
「――ち、違う。凛々子は俺にはもったいなさすぎて、まだ覚悟が決まらないだけというか……へ、ヘタレるに決まってるだろ!?」
ここで『分かった! 結婚しよう!』なんて言える男気がある人間なら、もっと前の段階で凛々子の愛を受け入れることはできたはずだ。
しかしへたれ童貞の俺には、やっぱり無理だった――。
【あとがき】
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