第二十九話 地雷系女子りりぽんの金銭感覚が壊れてる件について
ああ、辛い。
将来のことを考えると、なんだか憂鬱になってきた。
「にゅふふ♪ そっか、わたしってかわいいよねぇ……しょうがないにゃあ。オタクくん、やっぱりわたしが結婚してあげるから、幸せになろうね♡」
「だから、結婚しても生活が厳しいんだって」
さっきからその話をしているのに、こいつは話を聞いていないのだろうか。
いや、聞いてはいるけど、もう考えてないんだろうなぁ。凛々子はマルチタスクが苦手なので、一つのことにしか集中しない。今は結婚のことしか頭にないみたいだ。
「オタクくんはどんな家がいい? わたしは一軒家がいい! あと、ペットは大きい犬を買って、子供は双子ちゃんがいいなぁ」
と、彼女がまさしく夢みたいなことを語っている時である。
いきなり、壁際の大きなモニターの映像がオンになった。
『凛々子君! おい、凛々子君は起きてるか!?』
映し出されたのは、もちろんおっさんである。
しかし今日はいつもの余裕がないと言うか、珍しく声を荒げていた。いったい何事だろうか。
「んにゃ? おじぴ、どうしたん?」
『……君に一つ、言っておかないといけないことがあってね』
「え、なに? やだ、もしかしてわたしがかわいすぎて好きになっちゃったとか? ごめんなさい、おじぴ。年の差の恋愛って漫画の中だけの話だから、夢は見ない方がいいと思う」
『違う! まったく、君という人間は……いいかい? お金は、無限じゃないんだぞ?』
勘違いしている凛々子はさておき。
おっさんは一枚の用紙をこちら側に向けて、何やら訴えていた。
えっと、これは……請求書か?
「……30万って、なんだ?」
『これは――凛々子君がこの前買った洋服の代金だ』
「はぁ!?」
桁外れの額を耳にして、俺は腰を抜かしそうになった。
この前買った服って、あれだよな? ダンボールで届いていたやつ。たしか、三着くらいだっけ? どれも似たり寄ったりで、大した違いは分からなかったのだが……30万円もするのかよ。
『明細を整理していたらたまたま見つけて、ものすごく驚いたよ』
「えー。でも、おじぴが何でも買っていいって言ったくせに」
『限度というものがあるだろう。太田君なんて、高くてもフィギュアくらいだし、しかも一万円を超える時は必ず相談してくるからね。この金銭感覚の違いはなんだい?』
ケチくさいなぁ。おっさんは金持ちなんだから、これくらい許してやれよ――なんて言えるわけなかった。
正直、俺も引いている。
た、他人の金で、30万円分の服……か。
いや、おっさんが可哀想とは微塵も思っていない。
しかしながら、やっぱり高額の買い物は気が引ける。これはおっさんの言う通り、金銭感覚の違いというほかないだろう。
『たしかに、私にとっては30万なんて大したことない額だがね』
と、いやらしい金持ちアピールも欠かさないおっさんは流石だ。
いつもなら凛々子の味方をすることだけど……や、やっぱり無理だなぁ。
『凛々子君……これは親切心からの忠告だ。このままの金銭感覚だと、将来は絶対に破滅するよ。もっと身の丈に合ったお金の使い方を学びなさい』
「は? おじぴに心配されなくても大丈夫です~。だってわたし、ぴっぴと結婚するもん♡ ぴっぴが稼ぐから、別にいいよね?」
……正直に言おう。
まぁ、凛々子と一緒にいるのは楽しいよ。
明るいし、もうずっと長いこと生活して慣れてるし、気も合う。
顔もかわいい上に、俺のこともある程度受け入れてくれているから、パートナーとしてはいいかもしれない、と思っていたのは事実だ。
でもそれは、ちょっと前までの話である。
「――ごめんなさい。凛々子、俺にはお前を背負えない」
「大丈夫! ぴっぴはわたしがかわいすぎて気が引けているかもしれないけど、全然いいよ♡ 地味な顔も見慣れたらかわいく見えてきたし、気にしないでね?」
「違う。お前の金銭感覚が背負えないって言ってるんだよ! 結婚なんて絶対にしないからな!?」
やっぱり凛々子って、ちゃんと『地雷』だ。
いくらファッションが好きとはいえ、そのために金を浪費しすぎである。
こればっかりはどうしても、受け入れることはできなかった――。
【あとがき】
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