第二話 三年で地味顔男子から『好きぴ』に昇格した。なぜだ
『〇〇しないと出られない部屋に入って731日目』
彼女が指をさしているモニターの画面に書かれた文字は、時の流れの無情さを教えていた。
三日でこの部屋を出るつもりだったのに……いつの間にか、三年目になっていた。
おかしいなぁ。なんでこうなったんだ。
「今まで、ぴっぴと一緒に過ごせて楽しかったよ」
「そうか。俺は普通だったが」
「えへへ。ぴっぴも同じ気持ちで嬉しい♡」
「俺の話聞いてる? あと、ぴっぴって呼ばないでくれ……」
出会ったばかりの頃は『地味顔男子なんてむり!』という評価だった。
しかし今は『ぴっぴ』に昇格している。その呼び方、むずむずするからやめてほしいなぁ。
(どうしてこうなったんだ)
時間というものは、あらゆるものを変化させる。
ピカピカの金属だって錆びるし、最新モデルのスマホだって古くなる。人間の細胞だって入れ替わる。
そして、地雷系女子とオタクの険悪な関係さえも、大きく変えるのだ。
もちろん最初の一年は喧嘩ばかりしていた。雰囲気も悪かった上に、お互いずっとイライラしていたように思う。でも、そんな状態が長く続くわけもなく……いつしか俺たちは疲れ果てた。あと、一緒にいる時間が長すぎてお互いに慣れてきたのか、嫌悪感もなくなっていたのである。
結果、俺は『ぴっぴ』になった。
好きな彼ぴ→好きぴ→ぴっぴ、という変化らしい。地雷系女子が使う三段活用が難解すぎる件について。
とにかく、そういうわけで……今ではすっかり、俺たちの関係は穏やかである。
「三年目の記念日だし、何かプレゼントしたいねっ」
「いや、別に要らないけど」
「あ、そうだ……記念日のプレゼントは――わ・た・し♡」
「じゃあ、俺からはもらったお前をプレゼントでお返しするよ」
「あーんっ。自分を大切にしろってこと!? まじ優しい……わたしの好きぴ、たまらん。しゅき♡」
関係性が落ち着いた、とはいえ。
さすがにこれは変わりすぎているだろ。
三年目になって、彼女の気持ちは真逆になっている気がした。
てかお前、愛なんて存在しないって言ってたくせに。
「ぴっぴを見てると胸がドキドキする……これが愛なんだねっ。えへへ~」
何があってこの三年で愛が芽生えているんだ。お前の闇はどこにいった。
(なんでこうなっちゃんだろうなぁ)
〇〇しないと出られない部屋に閉じ込められて三年目。
俺たちは今、平穏な日々を送っている。
『おいおい。いいかげんに部屋から出てくれないかな?』
そんな俺たちを見かねたのか、モニター越しにおっさんが登場してきた。
出会った当初は嫌っていた。怒ってもいた。
でも今は、何も思っていなかった。
「あ、おじぴだ。今日も髪の毛ふさふさ!」
「おい、分かりやすいお世辞は逆効果だ。ちょっと生えてきてるって言っとけば機嫌良くなるぞ」
「なるほど! おじぴ、ちょっと生えてきてるー! そういうことだから、新しいお洋服あるんだけど買ってもいい?」
「あ、俺も新しいゲームが出たから、買いたいんだけど」
『やれやれ……君たち、この生活を楽しんでないかい?』
おっさんは最早呆れていた。
最初は金持ちのいやらしいおっさんキャラだったのに……今となっては、なんでも買ってくれる親戚のおじさんでしかなかった。
まぁ、こうなるのも無理はない。
雨だれ石を穿つ。同じように、三年という時間は色々なものを変化させるのだから――。
【あとがき】
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