第二十三話 『かわいい』ことが大切。だってわたしは――
ずっと勘違いしていた……凛々子が見た目を気にしている理由は、イケメンにモテたいからじゃなかったらしい。
「しょうがないにゃぁ……オタクくんには女心とか分からないと思うから説明してあげるね」
「な、なんかごめん」
「だいじょーぶ! オタクくんにそーゆーこと期待してないから」
一緒に生活して三年目。凛々子もだいぶ俺のことを理解してくれているようだ。
女性に対する知識がまったくないことに前はよく機嫌を悪くしていたが、もう許してくれるらしい……まぁ、諦められただけかもしれないが。
だって仕方ないじゃないか。
女の子と付き合ったことはおろか、友達になったこともない。あまりにも見向きもされなくて二次元に逃避したオタクを舐めないでほしい。
「好きぴにはかわいいところをいっぱい見てほしいの。分かる?」
「……そこはなんとなく分かる。アニメの美少女も寝起きとか見られると怒るもんな」
「絵と一緒にしないでね♡」
「絵って言うな」
キャラクターって言え。まったく……凛々子はアニメ趣味に偏見はないのだが、理解する気もない。だからたまに、アニメ好きからすると逆鱗に触れるようなことを言う。
ここはビシッと叱っておくか。
「は? 絵じゃん」
「ご、ごぽぉ……絵ですごめんなさい」
ダメだ。凛々子の真顔の圧にあっさり負けた。変な息も漏れちゃったし、こいつってなんでこんなに怖いの? もっと優しくして。
「オタクくんはもっと現実の女の子ともっと触れ合った方がいいと思うなぁ」
「努力します……」
それができたら苦労しねぇよ。
触れられないから空想に逃げてるんだけどね。
閑話休題。
俺が非モテオタクで女性に対する知識もデリカシーもないのはさておき。
「とにかく、わたしはぴっぴにも『かわいい』って思ってもらえるように努力してるの。だからメイクも落とさないし、お洋服も部屋着にしては気合を入れてるってこと。分かった?」
「……まぁ、なんとなく感じてはいたよ」
丸二年一緒に過ごしているので、正直なところそのあたりはなんとなく察していた。
俺の目を意識していることは気付いていた。ただ、ここまで『かわいい』と思われたがっていることは知らなかったので、その気持ちの強さには驚いている。
「凛々子にとっては『かわいい』ことが大事なんだな」
「うゅ」
こくりと頷いてから、凛々子は購入したシャツをギュッと握りしめる。
それから、ほんの少しだけ表情に影を落として、彼女は小さな声でぼそっと呟いた。
「……だって、わたしのすっぴんってブスだし」
あれ?
凛々子のことは、かなりの自信家で自分が大好きなタイプだと思っていたが……実は違うのか?
普段、彼女は自分のことを『かわいいでしょ?』とよく言っているのに。
(いや……そうか。素がかわいくないと思い込んでいるから、逆にメイクやファッションをしている時は自信満々になるのか?)
あれだ。強気な魔法少女が、実は変身する前は引っ込み思案な女の子――みたいなパターンだ!
そういえば彼女は、自尊心をくすぐられると途端にチョロくなる。凛々子は俺が褒めたらめちゃくちゃ喜ぶのだ。
自分に自信があるタイプなら褒めても『当たりまえでしょ』という反応になる。喜ぶということは、少なからず不安があるということにもなるだろう。
だとしたら、少し恥ずかしいけど……これはちゃんと言っておいた方がいいかな。
「いや、すっぴんもかわいいぞ」
「は? ぴっぴの前ではずっとメイクしてるんだから、すっぴんなんて見せてないけど?」
おっと。言ったら喜ぶかと思ったのに、逆に凛々子は警戒していた。
軽口だと思われたのかもしれない。
「あのさぁ。適当に褒めたら喜ぶような安い女と思わないでくれる?」
「いや。えっと、言いにくいんだけどさ。お前、俺が寝てるときにメイクしてるだろ?」
「え」
「……この際だから言うか。俺、たまに起きてるから、見たことあるんだよ。お前のすっぴん」
同じ部屋で過ごして三年目だぞ?
さすがに、メイクしていない素顔だって、見たことあるに決まっているだろ――。
【あとがき】
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