第十六話 地雷系女子は情緒不安定がち
『〇〇しないと出られない部屋に入って752日目』
……マジかよ。もう752日目かよ。
朝起きて、モニターの画面を見てため息をついた。時間の流れが早すぎる。
不思議なことに、日々を怠惰に過ごしていると時間というものはあっという間に過ぎていく。三年前に通っていた学校の授業では時間が進むのが遅かったのに、この部屋ではふと気付いたら一日が終わっているのだ。
いや、でも……この部屋に閉じ込められた直後は、もっと時間が進むのが遅かったか。今よりも俺と凛々子の関係が険悪で、一刻も早く出たいと思っていたからかもしれない。
この部屋の生活が苦痛で仕方なかったから、だろうか。
そう考えてみると、今の生活は楽だった。そのおかげで時間の経過も早いのかもしれない。
俺と凛々子の仲も、かなり良好になっている。
今までは、好きになりすぎないように少し距離をおいていた。ストックホルム症候群とか気にしていた。しかし、色々と難しく考えすぎていたみたいで、凛々子は意外にも普通に俺のことが好きみたいだ。
だったら、俺も――彼女に歩み寄るべきだろう。
心と心の距離を近づけていけば、いずれ『本当の気持ち』に気付くかもしれない。
そのための一歩として、俺も積極的にいこう!
「おはよう、凛々子! 今日もかわいいな!」
「……は? きも、話しかけてこないで」
え。昨日まで『起きてよ、好きぴ♡』とか言ってじゃれついてきたのに!?
こっちが歩み寄った瞬間、凛々子は不機嫌そうに俺に足を押し付けてきた。あ、これ蹴られてる? 足の裏がぐりぐりと俺の腹部にダメージを入れていた。
おかしい。毎日一緒に寝ているので、これくらいの距離感もいつもの通りだ。しかし凛々子は、近すぎると言わんばかりに俺を押しのけようとしている。
ど、どういうこと?
たった一晩で豹変しすぎだろ……と、動揺していると。
「はぁ。やむ」
「……あー。そういうことか」
凛々子の重苦しそうな呟きを聞いて、察した。
はいはい。『病む』ってことは……あれだ。こいつ、今日はメンタルが終わっている日だ。
「もうむり。つらたん。生まれ変わったら推しの子になりたい。コネと遺伝子の力で努力せずにアイドルになってイケメンのアーティストと付き合って炎上したい」
「炎上したらダメだろ」
やれやれ。いつもは異常なくらいに明るくてテンションが高いのに、たまにこうやって極端にネガティブになる日があるんだよなぁ。
いわゆる『情緒不安定』というやつだ。
一緒に過ごして三年目なので分かる。これは地雷系女子特有の性質だ。
「夜型の生活をしてるからこうなるんだぞ」
彼女は基本的に自律神経が壊れている。生活リズムも崩れている上に、偏食も酷く、運動もしない。そんな状態なので、精神が病むのは仕方ない。
「うぜぇ。説教すんなちーぎゅー」
「チーズ牛丼に失礼だからそんなこと言うな」
ちぎゅああああああああああああ!!
と、叫んでも良かったのだが、凛々子に遠慮して心の中に留めておいた。
というか、チーズ牛丼への風評被害はやめてほしい。美味いだろ、チーズ牛丼!
ああ、そういえばもう久しく食べてないなぁ。ここの飯は上手いんだけど、たまに外食したくなるのが悩みどころである。ジャンクフードもしばらく食べてないので、なんだかすごく懐かしかった。
「ちーずぎゅーどん食べたいよぉ……うぅ」
「お前もチーズ牛丼好きじゃん」
「だって美味しいもん。あれとエナドリの組み合わせしか勝たん」
「それはもう牛丼への冒涜だな」
食べ合わせとして最悪な気がする。
というか、お前の情緒が不安定になっている原因はそれにもあるだろ。
「カフェインの取りすぎで寝られてないんだから、エナドリは控えた方がいいんじゃないか?」
「は? 死ねってこと?」
「発想が飛躍しすぎだろ」
ダメだ。会話がまともに成立していない。
メンタルが完璧にブレイクしている日みたいだ。
昨日まであんなに元気だったのに……まぁ、三年目なので今までもこういう日は結構あった。
休ませていたらすぐに機嫌は直る。だから何を言われても大して気にならない。
まぁいいや。とりあえずこいつは放っておいて、ご飯でも食べるか――。
【あとがき】
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