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第十四話 それってぴっぴの妄想ですよね?

 いや、待て。

 凛々子はバカだから、俺の言葉を理解できていない可能性も大いになる。


 だから、ちゃんと説明した。


 ストックホルム症候群とは、監禁された人質が犯人に好意的な感情を抱く現象のことである。

 自由が制限された状況においては、飲食や排せつ、食事などの行動に犯人の許可が必要となるだろう。許可をもらうことを『親切にされた』と脳が誤解して、その小さな親切心の積み重ねが相手の印象を歪め、好意を抱いてしまう。


 それは自己防衛本能の一種でもある。

 犯人を好きになってしまえば監禁生活の苦しみが減るという、ある種の逃避に近いのかもしれない。


 俺と凛々子の場合は犯人と人質ではないので、厳密にいうとそこには当てはまらないかもしれない。しかし、凛々子がこの生活に大きなストレスを抱えていて、この苦しみを軽減するために俺を好きになっている。


 嫌いな男子より、好きな男子と共同生活していた方が良いに決まっている。この閉鎖された異常な状況を受け入れるために、凛々子は認知を捻じ曲げた。


 ――と、俺は考察していたのだと、丁寧に説明したのだが。


「うわ、きも。くっさ」


 やっぱり凛々子は嫌そうな顔をしていた。

 理解……はしてるよな? 話はちゃんと聞いてくれたので、分かっているような気はしている。その上で、彼女は鼻で笑っていたのだ。


「ぴっぴには悪いけどさぁ。わたし、むりな人間は本当にむりなんだよね~。自分の話ばっかりする人とか、すぐボディタッチしてくる人もきついなぁ」


 凛々子は呆れた様子で、俺の言葉を否定した。

 意地になっているわけでもない。図星を突かれて動揺しているようにも見えない。


『こいつ何言ってんの?』


 そんな呆れた様子で、俺を見ていた。


「いくら閉じ込められてても、むりな人を好きになるわけないじゃんw 頭だいじょぶそ? オタクくんさぁ、パンチラするアニメばっかり見すぎじゃないの?」


「言いすぎだろ……アニメは悪くないっ」


 あと、パンチラするアニメしか見てない訳でもない。好きなのは否定しないけどっ。


「す、すと……すとまっくだっけ?」


「ストックホルム症候群」


「それじゃないから安心したら? わたし、あれだもん。別に殴られることとか怖くないし」


「え」


 きゅ、急に怖いこと言いだすなよ。

 これ以上はまずい。そう思って話を遮ろうとしたのだが、もう遅かった。


「ほら。わたしのママって男癖悪いって前に話したじゃん? 変な男にも引っかかってて、よくDVされてるの見かけてて、そういう男がいるときは友達の家に避難してたなぁ。ぼーりょくって意外と身近にあるよね~」


「……お、重い。心が、重たい」


 明るく話す内容じゃないだろ。

 凛々子の家庭環境の闇が深すぎる。


「それに、オタクくんになら勝てるでしょw そんなもやしみたいな体で襲われても、よゆーでボコボコにできると思うにゃあ」


 あと、あれだ。

 こいつ、俺のことを舐め腐っていた。たぶん生物として見下しているのだろう……そのことを踏まえて考えると、たしかにストックホルム症候群ではなさそうだった。


 凛々子は俺という存在をまったく恐れていないのだから。


「ぼーえーほんのーだっけ? ごめんね、ぴっぴが相手ならだいじょーぶだと思う」


 防衛なんて簡単。だから自己防衛機能が異常に働くこともない、ということか。


「なんだかんだ言ってたけど、今までのって全部ぴっぴの妄想ですよね?」


「……ふんっ。完璧な理論武装……俺の負けだ」


 論破された、か。

 俺は敗北を噛みしめて、深くうなだれるのだった――。

【あとがき】

お読みくださりありがとうございます!

もし続きが気になった方は、ぜひ『ブックマーク』や下の評価(☆☆☆☆☆)で応援していただけると、更新のモチベーションになります!

これからも執筆がんばります。どうぞよろしくお願いしますm(__)m

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