プロローグ 〇〇しないと出らない部屋に地雷系女子と閉じ込められた
――目が覚めると、知らない天井だった。
おんぼろアパートの黄ばんだ天井ではない。シャンデリアの光を反射する、眩しい真っ白な天井である。
「……!? ど、どういうことだ!」
慌てて飛び起きて、周囲を見渡した。
広すぎる部屋には豪華な家具が設置されていて、しかもトイレや浴室……キッチンもあるのか。まるでワンルームの家みたいだ。
壁には畳一枚分ほどの巨大なモニターが埋め込まれている。いったい何をする部屋なんだ?
ホテル、と呼ぶには設備が整いすぎている気がした。
まぁ、この部屋のことよりも、意味不明なものがまだあるのだが。
「……お前は誰なんだ」
キングサイズのベッドに、俺の隣で女の子が寝ていた。
フリルがたくさんある洋服とスカートは、どちらもピンク色である。ツインテールを結んでいるリボンまでピンク色だった。
これは、地雷系ってやつか?
「んにゃ……」
彼女はすやすやと気持ちよさそうに寝息を立てている。
なんだこの状況は……昨日は家で普通に寝たはずなのに、なんでこんなことになってるんだ!?
混乱して、思わず頭を抱えてしまったその時。
モニターがチカッと光った。
『――おはよう。お目覚めかね?』
映し出されたのは、スーツ姿の男性である。長机に肘を置いて座っている……それだけなら普通なのだが、仮面をかぶっているおかげで怪しい雰囲気が強く出ていた。
白髪交じりの髪の毛と声の抑揚を考えると、年齢は初老くらい。口元が露出するタイプの仮面なので表情は分かるが、目元が隠れていて不気味だ。
『おや? 少女の方はまだ眠っているようだね』
このおっさん、こっちが見えているのか?
ハッとしてモニターを注視すると、小型のカメラのようなものを見つけた。
どうやら、監視されているらしい。
「……あんたが、俺たちをこの部屋に連れてきたのか?」
『ああ。そうだよ』
「いったいなぜ?」
『その理由は――おっと、タイミングがいいね』
おっさんが俺の隣を見て何やら頷いている。つられるようにそちらを見ると……起きていた。
「ふわぁ……んにゃ? だれ???」
彼女は俺を見て不思議そうに首をかしげている。
モニターの怪しいおっさんにはまだ気付いていないらしい。俺を見つめてきょとんとしていた。
「え? ウソ、やだっ。わたし、お持ち帰りされてる!? こんな地味顔男子に……!」
「してない! 勘違いするなよ、俺は何もしてないからな」
状況的に疑う気持ちも分かるが、今はそれどころじゃない。
彼女はちゃんと理解しているのだろうか。
今、俺たちが『誘拐』されているという事実に。
「え? こんなにかわいい子に何もしないわけなくない?」
……分かってないんだろうなぁ。
シリアスな俺と比べて、彼女はコミカルだった。手を出してないのに怒られる意味が分からない。
「こう見えて結構大きいし」
「何の話だ!」
「ねぇ、ウソつくのやめたら? わたし、別に怒らないけど」
くそ。この状況について説明したいのに……この子の性格が思ったよりもあれだ。軽かった。
シリアスになるのは難しそうである。
どう言えば分かってもらえるのか。悩んでいると、まさかの方向から助け舟が出た。
『安心したまえ。彼は君に手を出していないよ』
モニター越しに、仮面のおっさんが話に割って入ってくる。
そこでようやく、彼女もおっさんの存在に気付いたらしい。
「うわっ。どゆこと!? ねぇねぇ、あのおじさんってだれ?」
「……俺も分からん」
「てか、ここってどこ?」
「それも知らん」
「あのさ……なんでこの部屋、外に行く扉がないの?」
「――え!?」
言われて、気付いた。
確かにない。トイレや浴室に繋がる扉はあるが、そのどちらもなぜかガラス張りである。
外に行けそうな扉は、どこにも存在しなかった。
「どういうことだよ、おっさん! そろそろ説明してくれっ」
『……いいだろう。彼女も起きたことだし、そろそろ説明してあげようか』
おっさんがニヤリと笑った。
そして、放たれた一言に俺は自分の耳を疑った。
『君たち二人は――〇〇しないと出られない部屋に閉じ込められている』
……はぁ?
な、なにを言ってるんだこのおっさんは。
〇〇ってなんだ?
ちなみに、これは伏字じゃない。このおっさんは『まるまる』とハッキリ発音している。
「〇〇って、何のことだよ」
「……何だと思う?」
更にニヤリと、気持ち悪い笑みを浮かべるおっさん。
まるで、実験動物の反応を見ているようなリアクションで、すごく不快だった。
俺たちはいったい、これからどうなってしまうんだ――。
【あとがき】
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