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『第5話 巡り会う星々』2

 それから数日後のことだった。


「うぉおおん!ルークゥ!聞いてくれよぉ!」


「うおっ、どうしたんだよアウェス?」


 いきなり泣きながら俺に抱きついてきたアウェスに驚きながらも、尋常じゃない様子を見て今回は突き放さず話を聞くことにした。


「シルヴァと連絡が取れないんだよぅ!何度コールしても出てくれなくて……僕、嫌われちゃったのかなぁ……」


 アウェスは涙と鼻水をダラダラ流しながら俺に訴えかけてきた。正直こいつの性格を考えたら振られても仕方ないと思う。俺はそう思いながらもとりあえず慰めることにした。


「あー、まあ落ち着けって。きっと何か事情があったんだよ」


 俺がそう言って頭を撫でてやるとアウェスは落ち着いたのか少し落ち着いた様子で話し始めた。


「そうかなあ……僕いつもこうなんだよね……知らない人と仲良くなるのが楽しくてつい調子に乗っちゃってさ……だから今回も何かやっちゃったんじゃないかって不安になっちゃって……」


 しょんぼりしているアウェスを見ているとなんだか可哀想な気持ちになってきた。


「……ほら、シルヴァ町を出るって言ってたからその準備で忙しいんじゃないかな。町で一緒に過ごしてたときは楽しそうだったし、嫌われてるようには見えなかったから大丈夫だって」


 俺がそう言って励ましてやると、アウェスは少し元気になったみたいで「そうだよね!僕頑張るよ!」と言って笑顔を見せた。


(良かった……立ち直ってくれたみたいだな)


 俺は安心してホッと息をつくのだった。


 ***


 それから更に数日後、俺はいつも通りメミニと共に人探しの任務に赴き、無事に探し人を見付けて本部に帰還しメミニに報告書を書いてもらっていた。


「ただの痴話喧嘩の末の家出って……人騒がせだよなあ……」


「まあ今回は虹の風が関係なくて良かったじゃないですか」


 メミニはそう言って俺を宥めるように言う。


「まあな……」


 そんなことを話しているとリズがバタバタとロビーに来てフェリックスと何やら話し始めた。二人の表情は真剣そのもので何か急ぎの用事があるみたいだった。


「どうしたんですかね?」


 メミニは不思議そうにその様子を眺めながら呟く。


「俺ちょっと話聞いてくるよ。メミニはそのまま報告書書いててくれ」


 俺はそう言うとその場を離れ、彼らの元へと向かった。


「なあ、何かあったのか?」


 俺がそう言うと二人は驚いたようにこちらを見た後、「ああ、実はな……」と言って話し始めた。


「……下半身だけが変異した状態の女性の遺体が山の中で見つかったらしい」


 フェリックスがいつもの調子とは違う真剣な口調で俺に告げた。


「えっ……」


 俺は驚きのあまり言葉を失った。


「普通の遺体なら騎士団の管轄なんだけどぉ、変異した遺体となると我々研究部の管轄になるんだよぉ。それで検視のためにこれから現場に向かうところなんだぁ」


 リズも普段とは違う落ち着いた雰囲気で話しかけてくる。


「ああ、成程……」


「しかも、今現場にいる騎士団の話だと上半身は拘束されている状態だったから事件性がある可能性が高いって話だ。……おそらく協会の方も調査に乗り出すことになるだろう」


 上半身を拘束され下半身だけを変異させられた遺体。それを聞いて俺は自分が変異させられたときのことを思い出していた。


(その人もあんな恐ろしい目に遭わされたかもしれないのか……)


 そう思うと怒りが込み上げてくる。


「なあ、それ俺もついて行っていいか?俺の鼻を使えば被害者の身元や、被害者をそんな目に遭わせた奴のことも何か分かるかもしれないし」


 俺がそう言うと背後から報告書を書き終えたメミニが身を乗り出してきた。


「話は聞かせてもらいました。私も行きます!虹の風を利用して悪事を働くなんて許せません!」


「大丈夫なのかい?その……遺体を……見たりするんだよ……?」


 リズが意気込む俺達を見て心配そうに言った。


「ああ、大丈夫だ。俺はガキの頃から見慣れてる」


「遺体を怖がってたら魔法使いなんて務まりませんよ!」


 俺は即答し、それを見たメミニも同じように頷き合う。


「……わかったぁ……けど無理しないでね……?」


 リズはそう言うと俺達を現場まで案内するのだった。


 ***


「山ってここの山かよ……」


 転移した俺は思わずそう呟いた。目の前にはオクルスの町並みが見える。


「そういえばこの前ここに光跡碑を運んだのってルークちゃんなんだっけ?ありがとね〜おかげで山登りせずに済んだよぉ」


「ああ……まさかこんな形でまたここに来るとは……」


 俺はあの日のことを思い出しながら静かに呟いた。


「……あの、あそこにいるのアウェスさんじゃないですか?アウェスさんもこの任務に呼ばれて先に来てたんでしょうか?」


 メミニがそう言って指差す方向を見ると確かにそこにはアウェスの姿があった。


「技術開発部のアウェちゃんがこの任務に呼ばれるのは考えにくいし先回りしてるのはもっとありえないよぉ。何か別件で来たんじゃないかなぁ?」


「ああ、確かに……」


 リズの指摘に納得しかけたが、アウェスは町の入口付近を落ち着きなく行ったり来たりしながら挙動不審な動きをしている。俺は思わずアウェスの元へ向かった。


「アウェス、こんなところで何やってんだよ」


 俺がそう声をかけるとアウェスが驚いたように振り返った。


「うわぁ!?ってなんだ……ルークか……あれ?ルーク、どうしてこんなところに?」


 そう言って胸を撫で下ろすアウェス。どうやら相当緊張しているみたいだ。


「そりゃこっちのセリフだ。まさかお前までこの任務に参加するのか?」


 俺が尋ねると彼は怪訝な顔をして俺達の顔を見た。


「あれれ?ルークだけじゃなくてリズとメミニもいるの?任務ってことはこの町で何かあったのかい?」


「ああ、実はな……」


 俺はそう言って協会本部で聞いた内容と同じものを伝えた。


「……ひええ……そんな恐ろしいことが起こってたなんて」


 アウェスは顔を青ざめさせながら呟くように言った。


「それで、アウェスさんはどうしてここに?」


 メミニが尋ねると彼は少しバツが悪そうに答えた。


「……シルヴァに会いに来たんだ。あっ、でも流石に司書って聞いたからっていきなり図書館に押し掛けたりしたらキモいって思われるかなとかそもそも嫌われて避けられてるなら僕のやってることまるっきりストーカーだよねとかもしかしたらもう既に町を出ちゃってるんじゃないかとか色々考えちゃって……それで町の入口でずっと尻込みしてて……」


「ああ、シルヴァっていうのはな……」


 俺はメミニとリズにシルヴァとアウェスの関係を説明した。


「……なるほどぉ……確かに意図的に連絡無視してる相手がいきなり尋ねてきたらちょ〜っと警戒しちゃうかなぁ」


「でも、本当に嫌いになったなら着信拒否すれば良くないですか?何度コールしても出ないっていうのは流石に変ですよ。もしかしたら通信機を無くしたとか壊したとか……あるいは、本人に何かあったとか……」


 メミニが言いにくそうにそう口にするとアウェスは更に顔を青ざめさせて呟いた。


「そうなんだよね……もしかしたら何かあったんじゃないかってシルヴァのことが心配で……でも僕にできることなんて何もないし……でもやっぱり放っておけなくてさ」


「普段から距離感ゼロで強引なお前らしくもないな、何か出来ることがあるかもしれないって思ってここまで来たんだろ?」


 俺は励ますように言う。


「そ……そうだよね!ありがとうルーク!」


 アウェスは先程までの悲壮感漂う表情から一転して明るくなり始めた。


「よし!そうと決まれば図書館にレッツゴー!あっ、でも先に君達の任務を手伝うよ。人手は多い方がいいだろう?」


「おっ、そうか?それじゃあ頼むな」


 そうして俺達は事件の現場に向かった。そこには既に数人の騎士団員が集まっていた。


「遅くなってしまってすみません」


「こちらこそ急に呼び出してすまなかったな、協力感謝する」


「いえいえ、こちらこそお役に立てるのであれば〜」


 リズは礼を告げながら目の前の遺体を調べ始める。俺はそれを見ながら怒りに震えていた。


(酷い……)


 両手を縛られた状態で地面に横たわった女性。下半身は変異して分厚い硬質な皮膚に覆われた動物の足に変化してしまっている。しかも衣服などは身に付けておらず、全裸の状態である。


「う〜ん、この下半身はサイかなぁ……境目の状態は……なるほどぉ……あのねぇ、うっかり肌の一部だけ露出した状態で虹の風を浴びて身体の一部分だけが変化した場合、もっと変異した部位とそうじゃない部位の境目が不明瞭になるんだよねぇ。でもこの遺体は境目がとてもはっきりしてるし、上半身は一切変異していないのに下半身は完全に変異しきってるから、多分拘束したうえで上半身に布か大きな袋を重ねて被せて固定した後、意図的に虹の風に晒して下半身を変異させられてその後殺されたんじゃないかなぁ……酷いことするなぁ」


 リズはそう言って遺体を調べ続けている。


「上半身の状態は既に我々が調査しましたが、首を絞めて殺されたような痕がありました。それ以外に外傷は無し。殺された後この山に埋められたのを野犬が掘り起こし、それを野草を摘みに山奥に入ったオクルスの住人が発見したそうです。それと、被害者の身元も既に判明しています。先月行方不明になったウェントゥスという村のエミリアという女性で、虹の風とは関係ないタイミングで行方不明になったので協会ではなく騎士団の方で調査をしていました」


 側に立っていた騎士団の男性が俺達にそう説明してくれた。


「……変異させるのが目的だったならどうして変異させた後殺したのかな……」


 アウェスが小声でポツリと漏らした。


「俺が捕まってた組織は、身寄りのない奴を攫ってきて客の前で虹の風を浴びせて何の動物に変異するかを賭け事のネタにしてたんだ……だから今回もそういう悪趣味な奴が下半身だけ変異させてその様子を楽しんでたんじゃないかって俺は考えてたんだけど……」


「えっ!?ルークさん、そんな酷い目に遭ってたんですか?」


 隣にいたメミニは驚いた顔で俺を見る。


「ああ……まあな。でも過ぎたことだし、今はこうして元気にやってるから大丈夫だ!」


 俺がそう言うとメミニは安心したように微笑んだ。


「とにかく、犯人探しは俺に任せてくれよ。この人の匂いを辿ればきっと犯人に辿り着くはずだ!」


 俺がそう言うと騎士団の一人が少し考える仕草をしてから口を開いた。


「そうか、ならば我々は一旦この遺体を本部に運ぶため帰還する。何か分かったら騎士団本部に連絡してくれ……協力感謝する」


「じゃあ私も騎士団の人達について行くねぇ。変異者の遺体を扱うなら私がいた方が都合がいいと思うし〜」


 そう言って俺達を労うと、彼らは遺体を運んで行ったのだった……


「さてと……それじゃあ俺達は犯人探しだな」


 俺は改めてメミニとアウェスの方を見て言った。


「はい!絶対に捕まえましょう!」


 メミニは力強く頷く。


「僕もできる限り協力するよ、早く終わらせてシルヴァに会いに行きたいからね☆」


 アウェスもすっかりいつものノリに戻ったようだ。落ち込んだままの方が静かになって良かったのでは……という思いがほんのちょっとだけ頭をよぎったが、やっぱり元気な方がアウェスらしいと思い直した。


 ***


「被害者の遺体からは被害者自身のものとは別の匂いがしていた……これがきっと犯人の匂いに違いない……」


 俺はそう言いながら匂いを辿り山を降りて行く。


「本当に犯人の匂いがするのかい?僕には全然分からないけど……」


 アウェスが不思議そうに言う。


「ああ、今の俺にはメミニが鞄の中に隠し持ってるいちごジャムクッキーの匂いもはっきり分かるぜ」


「ふぇっ!?か、隠し持ってるんじゃなくて後で皆さんに配ろうと鞄に入れただけです!」


 メミニは顔を真っ赤にして恥ずかしそうに言い訳をする。


「まあ冗談はこれくらいにして……恐らく犯人はこの山の中に潜伏してる。匂いがまだ新しいし、おそらく近いはずだ」


 そう言って俺は更に山を下る。途中から整備された山道を外れて、けもの道のようなところを進んでいく。


「…………なあアウェス、やっぱりお前は戻った方がいいんじゃないか?ほら、お前山歩きなんて慣れてないんだしこんな険しい道進むのしんどいだろ?」


「えっ、何で急に僕だけ帰らせようとするの!?全然平気だよ!?それにこんな山の中で迷子になったりしたら大変だし!置いてかないでよぉ!」


 アウェスは慌てた様子で俺の尻尾を掴む。普段ならやめろと叫んで振り解いてるところだったが、俺は正直それどころではなかった。俺はできればこの先にアウェスを行かせたくなくて、必死にその歩みを止める方法を考えていた。

 ……彼女は町を出ると言っていたのだから山道で彼女の匂いがしてもおかしくはない、彼女はあの日言ったとおり山を下りて旅に出たのだろう。

 必死に自分自身にそう言い聞かせながら犯人の匂いを追ってきたのに、けもの道に入ってからも彼女の匂いは犯人の匂いと共にこの先から漂ってきている。それがどういう意味を持っているにしても、アウェスにとってはきっと良い結果ではないはずだ。

 それを上手く伝える方法が思い浮かばなくて、結局俺は未だに俺の尻尾を掴んでいるアウェスをそのままにして進み続ける。

 そして、ついに山奥にポツンと建っている山小屋に辿り着いた。周囲の状況や外観を見るに避難小屋として建てられたもののようだ。


「あ、あの小屋に犯人がいるんですか……?」


 メミニが小声で言う。


「ああ、そうだ。あそこから犯人の匂いがプンプンしてるぜ」


「どうするの?このまま突入するかい?」


 アウェスにそう聞かれて俺は少し考え込む。匂いから犯人の人数は二人。騎士団を待たずにこのまま突入しても問題は無さそうだが、相手が万が一一般人だった場合はトラブルになってしまうかもしれない。ここは慎重に行動しなくては……そう思って中の様子を覗こうとした瞬間だった。


「おっ、お早いお着きで。……おい、早く人魚を袋から出せ!」


「げっもう来たのかよ……待ってくれ、まだ準備が……」


 外の様子を伺おうとしたと思われる男が突然窓から顔を出し、俺達に気付くと焦ったように仲間の男に指示をする。


「へへっすみませんごたついてて……それで、今回用意できたのは何と人魚でして……報酬の方もちょ〜っと色をつけてもらえませんかねえ?」


「何を言ってる……?お前ら俺達を誰かと勘違いをしていないか?」


 俺がそう言うと男は焦りだし騒ぎ始める。


「あ?お前ら教団の人間じゃないのか……?まさかここを嗅ぎつけられたのか!嘘だろおい!やっと人魚を用意できたのに!」


「人魚……?」


 アウェスが怪訝な顔をして呟いた。

 俺は何だか嫌な予感がして駆け出すと、扉に体当たりして小屋の中に突入する。

 小屋の中には先程から怒鳴り散らしている男ともう一人、男の仲間がしゃがみ込んで足元に転がっている大きな袋の紐を解いている最中だった。その袋から、大きな魚の尾がはみ出ている。

 その袋の中身が誰なのかなんてすぐに分かった。


「アウェス!入ってくるな!!」


 俺は思わず叫んだが遅かった。アウェスは小屋の中に入ってきてしまった。


「大丈夫だよ!僕だって一般人の悪者相手なら戦えるからねっ☆」


 俺が入ってくるなと言った意味を勘違いしているアウェスは懐から武器のようなものを取り出し男に向かって発射する。それは男に当たるとバチバチと電撃を放ち男は「ギャアッ」と短く悲鳴を上げて倒れた。


「『トニトルス!』」


 メミニも小屋に入るなりすぐに魔法を唱えもう一人の男を攻撃し、倒れた男達を手際よくロープで縛り上げていく。


「君、大丈夫かい?今助けるからね!」


 アウェスはそう言って床に転がされたままの彼女に駆け寄り被せられた袋を外そうとする。


「アウェス……!その人は……!」


 俺が叫ぶが、もう遅かった。


「えっ……?」


 アウェスは袋を外してしまった……中から現れたのは、やはり彼女だった……


「……シルヴァ?どうして……」


 アウェスは震える声で呟いた。その声に反応して彼女がゆっくり目を開ける。


「アウェス……?」


 そして彼女は視線を下ろしていき、自身の変わり果てた下半身を見た。

 一瞬、彼女が息を呑む音が聞こえ、そして彼女の絶叫が小屋の中に響き渡る。


「……!大丈夫……!大丈夫だよ!僕が必ず、君を元通り生活できるようにするから!」


 アウェスは半狂乱で泣き叫ぶ彼女を抱きしめて必死に慰めるようにそう言った。

 メミニと俺は何も言えず立ち尽くしてその光景を見ていたが、背後から足音が聞こえてきたかと思うと扉を蹴破り誰かが入ってきた。


「おいおい、これはどういう状況だぁ〜?説明してくれや」


 そう言った男の容姿は異様なものだった。騎士団の男達よりも巨大で屈強な身体に角の生えた牛の頭、その筋骨隆々な手には大鎚が握られている。変異者なのは明らかだったが明らかに普通の変異者とは様子が違う。


「虹獣なのか……?」


「おう、俺は確かに虹獣だが、それがどうかしたか?」


 そう言って男はゲラゲラと下品に笑う。確かに虹獣の特性を考えれば完全に変異した後も言葉を発し、会話が可能な人がいてもおかしくはない。だが、こいつは別の意味で話が通じなさそうな雰囲気だ。


「それでぇ?状況を説明してくれよ」


 いきなり現れたこいつは何者だ?素直に答えるか?そう考えているとメミニが杖を構えながら先に口を開いた。


「あなたは何者なんですか?どうしてこの小屋に?」


「あ?俺か?俺はただの通りすがりの虹獣だよ。それで、質問には答えてやったんだから俺の質問にも答えろや」


 そう言って男はニヤリと笑う。どうやら正直に答える気は無いらしい……睨み合っていると男の後ろから別の男の声が聞こえてきた。


「でかい図体で入口を塞いだまま突っ立って何をごちゃごちゃとやってるんですか?早く中に入りなさい」


「いや、だってこいつらがよ……はぁ……分かったよ、だから後ろから蹴ってくるな」


 牛男がわざとらしくため息を吐いて中に入ってくる。それに続いて後ろからもう一人の男が入ってきたがそちらも異様な風貌をしていた。長身痩躯でローブを纏ったその男の顔は骸骨そのものだった。その空っぽの眼窩の奥には怪しげな光が灯っている。

 その骸骨男はシルヴァの姿を見てニヤリと笑った。


「おやおや可愛らしい人魚さんですねぇ。そちらの縛られてる二人はこれから変異させるのですか?まあ、今回はその娘だけでも十分……いえいえそれどころか人型の虹獣なんていうレア中のレアモノを用意してくれたのですから、報酬も弾ませていただきますよ。さあ、早くその娘をこちらに寄越しなさい」


 そう言って俺達に近付いてくる。


「おい、お前!それ以上近付くんじゃねえ!」


 俺は咄嗟に叫んだ。こいつも虹獣のようだが明らかに様子がおかしい……捕まえた男は『教団』とか言ってたな……何らかの組織の人間なのか?


「何を言っているのですか?あなた達が虹獣を捕まえたから引き取りに来てくれと連絡してきたのでしょう?だから我々が直々に来てあげたのです」


「虹獣だって?違う。その子は俺の友達だ。こいつらに捕まって下半身だけを変異させられたんだ」


 そう言って俺は縛られて転がされている男達を顎で指した。


「あ?そうなのか?つまり俺らは偽物の人魚を掴まされるとこだったって訳か」


 牛男はそう言って男二人を見て、骸骨男はシルヴァの方に視線を向ける。そして大きくため息を吐いた。


「……だから私は申し上げたのですよ、あの女の案を採用して虹獣を連れてきたものに褒美を出すなどと言えばこのような金目当ての輩が群がって問題が起こると。そして案の定このような状況になっている。そして、尻拭いをするのはいつも私……ああ……なんて可哀想な私……」


 骸骨男は芝居がかった口調でそう言って再び大きくため息を吐いた。


「なあ、お前らは一体何者なんだ……?どうしてこんなことを……」


 俺は二人の会話に割り込み再び質問をする。すると骸骨男は呆れたように俺を見た。


「人に名を尋ねる時は自分から名乗るのが礼儀というものではありませんか?まあいいでしょう、私はウンブラ。そしてこの隣にいる薄汚い見た目の男がクルオルと言います」


「おい、名乗っていいのかよ。俺達は水面下で活動してるんだから正体隠せ、って普段から口うるさく言ってたのはあんただろ?あと薄汚いとか言うんじゃねえよ普通に傷付くわ」


「えぇ、いいんですよ。ここにいる全員これから死ぬのですから」


 ウンブラと名乗った骸骨男はそう言って杖を構える。


「みんな、早く逃げて!!」


 アウェスが叫ぶ。


「あぁ?逃がすわけねぇだろうが」


 牛男……クルオルはそう言うと俺達に向かって突進してきた。


「『トニトルス!』」


 メミニが呪文を放ち動きを止めようとするがクルオルは「嬢ちゃんよぉ、そんな静電気みたいな攻撃が効くわけねぇだろうが!」と言ってそのまま突進してくる。そしてクルオルの持っていた巨大な鎚が俺に向かって振り下ろされた。


「っ……!」


 俺は咄嗟に横に跳んで避けるが、その衝撃で床が大きく凹み亀裂が入った。なんて力だ……あんなものを喰らえばひとたまりもないだろう。


「ルークさん!」


 メミニが俺を心配して駆け寄ってくる。アウェスはシルヴァの側にいて守るように抱きしめている。


「アウェス……シルヴァと、あとそこの転がってる二人を頼む!」


 俺がそう言うと、アウェスは真剣な顔でこくりと頷いた。

 犯人を助けるのは不本意だが、こいつらは教団に関する情報を握っている。ここで消されるわけにはいかない。

 俺はナイフを取り出すとそのままクルオルに斬りかかる。


「うおおぉぉ!!」


 奴は図体はでかいし力も強いが素早さならこっちの方が上だ。俺は奴を斬りつけてはすぐに離れるヒットアンドアウェイの要領で応戦していく。


「おっと、なかなかやるじゃねえか犬っころ。それにそのナイフもなかなかの業物だな」


「お褒めに預かり光栄だよ!!」


 俺はそう言いながらクルオルの懐に入り込みナイフを突き立てる。しかし、それは奴の腕で受け止められてしまった。奴は腕にナイフが突き刺さっているのに、平然と笑いながらもう片方の腕で俺を掴もうとしてくる。まずい……!そう思った瞬間、横からメミニが魔法を放った。


「『スティーリア!』」


 氷柱がクルオルの腕に突き刺さりそのままクルオルの腕を凍らせる。クルオルは舌打ちをして手を引っ込めた。その隙に俺は距離を取る。


「さっきは捕獲のために魔法の威力を落としていましたが、今度は全力で行きますよ。覚悟してください」


 メミニは杖を構え再び魔法を放とうとする。


「おやおや、まさか威力を上げてその程度なのですか?魔法というのはねぇ、こういうのを言うんですよ。『イグニス・ヴォルテックス!』」


 ウンブラがそう言うと小屋の中に炎の嵐が巻き起こり小屋をバキバキと破壊しながら燃え上がっていく。


「『スクトゥム!』」


 とっさにメミニが防護魔法を唱え全員の身体の周りに魔力でできたシールドが張られるが、その威力は凄まじく、俺達全員吹き飛ばされた。


「ぐっ……!」


 俺は何とか受け身を取るとすぐに立ち上がり辺りを見回す。アウェスもシルヴァを抱え上げ、庇いながら立ち上がっていた。


「ほう、半人前かと思いましたがなかなかやりますね。ですが、その程度ではまだまだです」


「馬鹿野郎てめぇ!俺まで焼き殺す気か!」


「あぁ、すみません。ついムキになってしまいました。でもあなたならこの魔法くらい耐えられるでしょう?あなたを信頼しての事ですよ。それに、そのおかげで凍った腕も解けて良かったじゃないですか」


「チッ、相変わらず滅茶苦茶言いやがる。おかげで火傷しちまったじゃねえか、普通に痛ぇんだぞこれ」


 わざとらしく肩をすくめ謝るウンブラに悪態をつくクルオル。奴はそう言いつつもウンブラの魔法によって発生した炎の嵐を物ともせず涼しい顔をしている。


「くっ……!」


 燃え上がり半壊した小屋の天井から瓦礫が落ちてくる。メミニの防護魔法がそれを受け止めるが、それも長くはもちそうにない。


「アウェス!お前はシルヴァを連れて逃げろ!」


 俺がそう叫ぶとアウェスがハッとしたようにシルヴァを抱きかかえて出口に向かって駆け出す。しかしクルオルはそれを阻止するかのようにそちらに駆け出した。


「おっと、我々のことを知られたからにはあなた達も逃がすわけには行きませんねぇ」


 そしてウンブラが再び魔法を放つ準備をしている。まずい……!俺は急いで彼らの方に駆けつけようとするが、ウンブラの魔法に気をとられていた隙にクルオルの大鎚が俺の目の前に迫っていた。


「っ……!」


 咄嗟に身を翻して避けるが、僅かに右肩をかすめてしまう。衝撃で吹き飛ばされた俺は壁に打ち付けられた後床に落下する。


「……ぐっ……はっ……」


 壁に激突した背中や肩に激痛が走る。メミニの防護魔法でダメージを軽減してなおこの威力……まともに喰らったら一溜まりもなかっただろう。メミニに感謝しないと……

 痛みをこらえ、なんとか立ち上がろうとするが力が入らない。


「ルークさんっ!!」


 メミニも全員に防護魔法を発動させ続けているため身動きが取れない……まずい、このままだと全員やられる……!そう思った瞬間だった。


「『イムベル!』」


 凛とした声が聞こえたかと思うと、滝のような雨が降り注ぎ吹き荒れていた炎の嵐はあっという間に鎮火される。今の声は……!声がした方を見ると崩れ落ちた壁の向こう、そこには騎士団と魔法使い達を引き連れた一人の女性が立っていた。


「セレスティア!」


 こんな状況だけど、雨に濡れた彼女の姿はいつもよりより一層美しく見えた。


「ルーク!大丈夫?」


 セレスティアが心配そうな顔をして俺に声をかけてくる。


「ああ、大丈夫だ。メミニとアウェス、シルヴァも無事か?」


「はい!大丈夫です」


「僕もシルヴァも無事さ!」


 アウェスはシルヴァを抱きかかえて言う。


「あれ?でもどうして俺達がここで戦ってるって分かったんだ……?」


「僕が通信機で呼びました☆君達が戦って敵の注意を引き付けてくれてる間にね!」


 アウェスがそう言ってドヤ顔をする。


「なるほど……助かったぜ」


 俺は素直に礼を言う。


「いえいえ、どういたしまして☆それより今は……」


 クルオルとウンブラの方に目を向けるとクルオルは気怠そうに頭を掻いてため息を吐いていた。


「勝利の魔女様のお出ましか……っていうかセレスティアと顔見知りってことはお前ら魔女協会の人間だったのかよ……はぁ〜、面倒くせぇことになっちまったぜ」


「……」


 一方ウンブラの方はセレスティアの姿を見据えながらわなわなと震え、突然叫び出した。


「セレスティア!我が永遠のライバル!忌々しい魔女よ!ここで会ったが百年目!その綺麗な顔を今日こそズタズタに引き裂いて……うわぁっ!」


 喚き散らすウンブラを突然クルオルが抱え上げ肩に担いだ。


「ここは引くぞ。さっさと転移魔法を使え」


「降ろしなさい!怨敵を目の前にして引き下がるなど……!」


「あの人数じゃ流石にこっちが不利だ。それに魔女協会に俺らの存在が知られたとなっちゃ教団の動き方を根本から変えなきゃならなくなる。一旦戻って教主に報告するぞ」


 そう言うとウンブラは大人しくなりぶつくさと文句を言いながら魔法を唱えようとする。


「『ボライド!』」


 セレスティアはクルオルに向かって火球を放ち攻撃するが、クルオルはそれを軽々と避け「またな」と言って姿を消した。


「……逃げられてしまったわね」


 セレスティアは悔しそうに呟く。


「でも、とりあえずみんな無事で良かったよ!」


 アウェスがそう言って笑顔を見せると、メミニも安心したように微笑んだ。


「はい!本当に助かりました!」


「でも……俺は何もできなかった……シルヴァも助けられなかったし、あの牛男にも全然歯が立たなかった……」


 俺がそう言うとシルヴァが首を大きく横に振って口を開いた。


「そんなことない。ルークのおかげで私はあいつらに売られずに済んだんだから、だからそんな悲しいこと言わないで」


 そう言って手を伸ばし、俺の頭を撫でてくれる。その温かさに思わず涙が出そうになったがなんとか堪えた。


「ありがとうな、シルヴァ」


 俺が礼を言うと彼女は優しく微笑んだ。

 そして俺達は協会本部へと帰還したのだった……


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