表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

『第1話 魔女協会』

「じゃあ、私は報告書を提出してくるから、ルークは今日はもう好きにしていいわよ」


 協会本部に戻るなりそう言ってセレスティアが去った後、俺は一人暇を持て余していた。協会は常に人手が足りず俺も何か手伝いをすべきなのだろうがこの狼の姿では人間と同じようには働けず、大した手伝いも出来ない。


「昼寝でもするか……」


 俺は魔女協会の中庭にある木の木陰に寝そべる。この中庭は虹の風除けのためのドーム状のガラス屋根に囲まれていて、穏やかな日差しが差し込みつつも魔力によって空調が効いており熱が籠もることはなく快適に過ごせる作りになっている。おかげですぐに眠りに落ちてしまった。


 ***


『警報が鳴った、そろそろ虹の風が吹くぞ。早く素材を庭に運べ。……今度のは汚らしいオスの孤児か、こりゃ今回もレアものは期待できそうにないな』


『お前はどんな動物になるんだろうなぁ?前の奴はカエルになっちまったから、虹獣は無理でもせめて客が盛り上がる動物になってくれよ』


 そう言って下卑た笑い声を上げる屈強な男は俺を引きずって庭に出るとそこに固定されているまるで犬を繋いでおくような鎖の付いたポールに近付く。


『嫌だ!助けて!誰か!助けて!』


『大人しくしてろ』


 そう言って男は必死に声を上げる俺を押さえつけながら服を破り捨て全裸にすると、俺の首に、鎖に繋がった鍵の付いた首輪を嵌めて目の前にある建物に戻っていく。ガラス張りの大きな窓からこの庭がよく見える豪華な建物。ガラスの向こうには客と思わしき人間が何人もおり、俺はこれから何が起こるのかを察して恐怖に震える。


『さあ、そろそろ虹の風が吹き始めます!あの少年は一体どんな動物になるのでしょうか?ベットは虹の風が吹くまで受付中です!』


『くそ!やめろっ……頼むから、止めてくれええぇぇ!!』


 必死に叫び声を上げる俺をガラス越しに眺めて笑う客達。しばらくすると辺りにキラキラと虹色の光が漂い始めた。


『おおっと!虹の風が吹き始めてきました!ここからは余所見禁止ですよ!』


『アアアァァァァ!?』


 やがて俺の身体に異変が現れる。まず皮膚が真っ白な剛毛で覆われていき骨格も奇妙な音を立てて変形する。そして何よりも変化していく自分の身体の感覚の変化にパニックを起こし絶叫を上げる。痛みが無いのが余計に恐ろしかった。


『今回は犬……いや狼のようです!あっはっは、すごい声で鳴きますね~!』


『フゥーッ!フーッ!』


 息を荒げながら俺は必死に暴れて鎖を引きちぎろうとするがビクともしない。


『あ……ああ……うあ……』


 俺は言葉にならない呻き声を上げながら自分の変わっていく身体を見つめることしか出来なかった。

 だが次の瞬間、建物の方が急に騒がしくなった。


『うわっ何だお前ら!』


『動くな!魔女協会だ!お前達を拘束させてもらう!』


 建物の中に黒ずくめの人達がなだれ込み、客達や司会、俺を拘束した男の仲間達が逃げ惑いながら次々黒ずくめに捕らえられているのが見えた。そしてその黒ずくめの一人が庭に続く扉を開け俺の方に駆け寄ってくる。


『おい待てセレスティア!そいつはもう手遅れだ!それにそのままだとお前も……!』


 仲間の静止を無視してその人は虹の風から俺を庇うように抱き締めた。そしてそのまま虹の風を受け続ける。視界を覆われて何も見えないがその人の背中からバキバキと奇妙な音が聞こえてきた。


『お姉さん……お姉さんの背中が……!』


『大丈夫、大丈夫よ。私は平気だから』


 そう言って俺を抱き寄せる腕の力強さと温もりに泣きそうになる。やがて風が止み、黒ずくめの人達が駆け寄ってくる。


『おい!しっかりしろ!』


『私は大丈夫。この子を……』


 そう言って微笑むその人の顔はまるで聖母のように美しかったが、その背中からは不似合いな悪魔のような黒い大きな翼が生えている。


『すぐに本部に連れて行け!リズに連絡を入れろ!』


 黒ずくめ達が俺の拘束を外して抱き抱えようとする中、俺はその人に向かって叫んだ。


『お姉さんっ!ごめんなさい!俺のせいでお姉さんの背中が!』


 俺が泣き叫ぶ中、黒ずくめ達が俺を抱き上げる。そしてセレスティアという女性は俺を安心させるように優しく微笑みながら言った。


『大丈夫よ。私の方こそ、助けてあげられなくてごめんなさい。もっと早くこの組織の悪事を暴いていれば……』


 セレスティアは悔しそうに唇を噛むと黒ずくめ達と共に協会へと帰還する。

 俺の身体は人間ではなくなってしまったがそれでもこの人が俺を助けようとしてくれたのは事実なのだ。

 身を挺して虹の風に侵された俺を救ってくれたこの女性のことを、今度は必ず俺が守ると心に誓ったんだ。


 ***


「……おーいルーク!」


「……?」


 肩を揺すられる感覚と、俺を呼ぶやけにくぐもった声で目を覚ますとそこは協会本部の中庭だった。またあの時の夢を見ていたのか……まだぼんやりしたままの頭を上げると目の前には金属製の雪だるまの着ぐるみのようなものを着た人物がしゃがみ込んでいる。頭部に付いている覗き窓から見える顔、顔だけはやたら良いその男の顔を見て俺はやっとそいつがよく見知った人物だと気が付いた。


「おっ、ようやく起きたかい!」


「……アウェス?何の用だ」


 こいつがおかしな格好や行動をしているのはいつものことなので俺は特にツッコまずに用件を聞いた。


「いや、セレスティアに用があってさ。君がここにいるってことは彼女も戻ってるんだろう?でも執務室にも彼女の自室ににもいなかったから、どこに居るか知らないかい?」


「すまん、俺も昼寝で忙しかった」


「そうか……仕方ない。じゃあ自分で探すとするか……ああ、ところで僕が作ってあげた防風帽子の具合はどうだい?ちゃんと使ってくれているかい?」


 そう言ってアウェスは俺が被っている防風帽子の具合を聞いてきた。アウェスの開発した防風素材でできているらしく、アウェス曰く『完全に虹の風を防ぐことはできないけど普通の布よりはずっと防風性能は高いから協会の野外調査部はみんなこれでできたスーツやマントを着用しているのさ☆ただその分通気性が犠牲になってるから皆にはすこぶる評判が悪くてそこが今後の課題だね』だそうだ。既に全身が変異している俺は頭部だけ守ればいいため帽子だけで済んでいるのはある意味救いだったかもしれない。


「ああ、おかげでこの通り快適に過ごせている」


 俺がそう答えるとアウェスは満足げに頷く。


「それはよかった。その帽子は僕の自信作だからね!今の君は狼だから人間用の帽子なんて使いにくいだろう?だから君に合うように改良したんだよ」


「そうか、それはありがたいな……」


 俺は素直に礼を言うことにしたが、アウェスのドヤ顔を見ると少しイラッとした。


「む、どうしたんだい?急に黙り込んで」


「……いや、何でもない」


「そう?……っていうかこれあっつい!!それに息苦しい!!」


 アウェスはそう言うと頭部の金属をガチャガチャと弄ってヘルメットを外す。


「ふう……この対虹の風完全防護スーツ『アヒルちゃん3号(仮)』もまだ改良の余地がありそうだね……単純に内部に風の魔石を仕込んだだけだとスーツ内の空気の対流が上手く行かないか……そうなるとスーツの形状自体を見直さないと……それに結局熱がこもってスーツ内の空気もぬるくなるから氷の魔石も一緒に仕込んで……」


 ブツブツと何かを呟きながら考え込むアウェスを横目に二度寝をしようと再び目を閉じた瞬間、今度は背後から聞き慣れない声が響いてきた。


「あ、あの……!すみません、ちょっといいですか……?」


 振り返るとそこには見慣れない少女が立っていた。亜麻色の髪を肩まで伸ばし、ピンク色の瞳をしている。どこか儚げな印象を受けるその少女はおずおずと言った様子で話しかけてきた。


「あの……西棟の第三会議室に行きたいのですが、案内してもらえませんか……?迷っちゃって……」


 そう言って照れ笑いを浮かべる少女に俺は答える。


「ああ、別に構わないぞ」


 アウェスもようやく我に返ったらしく少女に話しかける。


「やあこんにちは!かわいいお嬢さん!僕の名前はアウェス!ここで技術開発部のリーダーやってます☆君の名前は?どこから来たんだい?」


「私はメミニって言います。この子はアルマ。パクスって町から来ました!」


 少女は連れていた猫を抱き上げながら答える。アウェスは「わあ〜かわいい猫ちゃんだねえ!」と顔を緩ませながらメミニと名乗った少女に話しかけ続ける。


「パクスって大陸の東の方にある薬草の産地として有名なところだよね?とてもきれいな花畑があって観光地としても栄えてるって聞くよ。僕は行ったことはないけど、医療部の人達がそこから薬草の一部を仕入れていてね。お土産をよく貰うんだ。パクス産のハーブティーは眠気覚ましによく効くからとってもお世話になってるよ!」


「そ、そうなんですか……?」


 アウェスの勢いに押されつつもメミニは小さな声で返事をする。それを見て俺は内心でため息をついた。こいつの喋りたがり屋な性格は本当にどうにかならないものかと考えながら二人の間に割って入ることにした。


「……悪いな、こいつはこういう性格なんだ。俺はルーク。虹の風のせいでこんな姿になってるが一応人間だ。メミニだったか、ちょうど俺達も暇だし案内してやるよ」


 俺がそう言うとメミニはぱあっと顔を明るくさせた。アウェスの方はというと特に俺の言葉を気にした様子もなくニコニコしている。


「ありがとうございます!助かります!」


 そう言って笑うメミニの笑顔はとても可愛らしく、思わずドキッとしたが慌てて平静を装った。


「それで?君はそのパクスからどうしてここに?」


「……えっと……私、お姉ちゃんを元に戻したくて……」


 メミニはそう言うと俯いて抱っこしていた猫に視線を向ける。


「もしかしてアルマちゃんは君のお姉さんなのかい?」


 アウェスがメミニに訊ねると彼女は小さく頷いた。


「はい……虹の風が吹いたとき外で薬草摘みをしていたせいで逃げ遅れて……私は建物の中にいたから大丈夫だったんですけど……」


 メミニの目には涙が浮かんでいる。余程心配なのだろう。俺はその姿を見て居ても立っても居られなくなり口を開いた。


「……そうなのか……その、すまんな」


「いえ!いいんです……」


 そう答えるメミニを慰めるように猫が一声鳴き、彼女に頬をすり寄せると彼女もまた優しく猫を撫で返した。


「それで……お姉ちゃんを元に戻したいのもそうなんですが、同じように虹の風に困っている人達の助けになりたくて、この協会本部で働きたいって手紙を送ったら面接をするからって連絡がきて……それでここに来たんですけど道に迷っちゃって……」


「なるほど、そういうことだったのか。若いのに立派な志を持っているんだね!」


 アウェスは感心したように言うとメミニに微笑みかける。メミニは少し恥ずかしそうにしながら頬を掻いた。


「いえそんな……私はただ、困っている人を放っておけないだけです」


 照れたような笑みを浮かべるメミニはとても可愛らしくて思わず見惚れてしまいそうになるが今はそんな場合ではないと思い直し彼女の言葉に対して首を横に振る。


「いや、それも立派なことだと思うぞ」


 俺の言葉に同意するようにアウェスもうんうんと頷いている。そして彼はポンッと手を打つと言った。


「よし、そういうことなら僕が案内してあげようじゃないか!ここの建物、増改築を繰り返して迷路みたいになってるから初めて来た人にはまるでダンジョンみたいだもんねえ」


「特に東棟の方は重要施設が入り組んでるうえに立ち入り禁止エリアも多いから俺も未だに慣れてなくてあんま行きたくないんだよな……この前も間違えて変なとこ入って怒られたし……」


「僕は東棟がホームグラウンドだけどまあ慣れだよ慣れ。慣れれば大体どこに何があるか分かるようになるからさ」


 俺達がそう話していると、メミニはおずおずと言った様子で俺に話しかけてくる。


「あ、あの……そろそろ面接時間なので……」


「ああ悪い、西棟の第三会議室だったよな?俺らのせいで遅刻しましたなんてことになったら大変だし急ごうぜ」


 そう言って俺は歩き始め、後ろからメミニとアウェスが付いてきた。


 ***


「それでこの前なんかせっかく僕が作った防風スーツをデザインが気に入らないって理由で突き返されてさ~ひどくない?」


「は、はぁ……大変ですね」


 会議室への移動中もずっと喋り続けていたアウェスにメミニは気まずそうな表情をしている。正直かわいそうだが俺はこいつの相手をせずに済んで内心ホッとしていた。


「おい、着いたぞ」


「あっ、ありがとうございます!助かりました!」


 メミニはそう言ってお辞儀をすると会議室の扉をノックする。中から「どうぞ」と言う声が聞こえてきてメミニが「失礼します」と言いながら入室していく。そしてそれに当然のように付いていこうとするアウェス。


「いやお前何やってんだよ」


「えっせっかくだから僕らも面接に参加しようよ。だってメミニちゃんとっても良い子だから、僕らのお墨付きです☆ってアピールしたいじゃないか」


「んなのダメに決まってるだろ。っていうかお前セレスティアに用があったんじゃねえのかよ。さっさと探しに行け」


 俺らが入口で言い争っていると部屋の奥から聞き慣れた声が聞こえてきた。


「あんた達何やってんのよ。というか何でその子と一緒にいるの?」


「あれ〜?面接官ってセレスティアだったの?じゃあ問題ないね!」


 アウェスはそう言うと遠慮なく部屋の中へ入っていく。俺は慌ててその後を追いかけた。


「だからなんで入ってくるのよ」


「だってなんか面白そうな予感がしたんだもん。まあ気にしない気にしない」


 そう言いながらアウェスは空いている席に腰かける。仕方なく俺もその隣に座ることにした。


「あ、あの。アウェスさんとルークさんは道に迷った私を案内してくれたんです!」


「ああ、それなら声をかける相手を間違えたわね。彼すごくうるさかったでしょう?悪かったわね」


 セレスティアがアウェスの代わりに謝るとメミニはほっとした様子を見せた。


「いえ!お二人のおかげでここまで来られましたし、感謝しています!」


「どういたしまして。まあ僕に感謝したいならいつでも会いに来ていいよ?大抵は東棟の技術開発部の作業室にいるから☆」


「こいつのことは無視していいから話を進めましょう。改めまして、私はこの魔女協会の理事長代理を務めているセレスティアよ。よろしくね」


 アウェスの軽口にメミニは困ったような笑みを浮かべた後、改めてセレスティアに向き直り口を開いた。


「あの……私、パクスから来たメミニっていいます。それで、その……」


「……ああ、あなたの事情は手紙に書かれてるのを読んだから把握してるわ。本当は面接っていうのも形だけで、ここは常に人手が不足しているからもう採用はほぼ決まっているようなものなのよね。だからそんなに緊張しなくて大丈夫よ」


「あ、そうなんですか……?よかったぁ……」


 セレスティアの言葉を聞いて安心したのか、メミニはホッと胸を撫で下ろすような仕草を見せた。


「ただ確認したいことはいくつかあるから質問させてもらうわね。……あなた、魔法が使えるのよね。外で直接虹の風に関する調査に当たってもらう可能性が高くなるけど大丈夫?希望を出せば他の部署への配属も検討できるから言ってちょうだい」


「僕のとこ来る?技術開発部はいつでも君を歓迎するよ!あっちょっと痛い!やめて!セレスティア!無言でファイルの角で殴り続けるのやめて!それ思ったより痛いから!」


「あんたがふざけるからでしょ」


「ふざけてないよ!大真面目だよ!技術開発部だって人手不足なの知ってるでしょ!?」


 セレスティアはため息をついてアウェスを殴る手を止めると今度はメミニに向かって話しかけた。


「それで?どうかしら?」


「はい、大丈夫です!魔法は基礎的なものを一通り、補助魔法や大規模魔法もいくつか使えます!……虹の風に関係することなら、私は何でもやりたいです。だから大丈夫です!」


「まあ現地調査って言っても虹の風が吹いてる真っ只中出歩けとかそんな無茶振りされたりはしねえから安心してくれ。万が一の時は同行者がすぐ助けてやれる距離にいると思うしな」


 俺の言葉を聞いてメミニは安心したように「はい!」と返事した。それを確認したセレスティアは再びメミニに話しかける。


「……分かったわ。これからよろしくね、メミニ。それから……住むところはもう決まってるの?まだなら寮があるから空いてる部屋を紹介するけど……」


「あっ、あの……!もし良ければなんですけど……お願いしたいです!」


 メミニがそう言うとセレスティアは微笑んだ。


「ええ、もちろんよ。あなたは優秀な人材だし歓迎するわ」


 そう言って微笑む彼女を見て、俺はやっと緊張から解放された気がした。するとアウェスが俺の肩を叩いて小声で話しかけてきた。


「ねえねえルーク!あの子可愛いし良い子そうだし僕直々に面倒見てあげてもいいよね!?」


「いやダメだろ」


 即答するとアウェスは不満げに頬を膨らませた。それを視界の端に捉えながら俺は思った。メミニが仲間になって良かったと。


 ***


「なあ、魔法って俺も使えるのか?」


 面接を終え、アウェスやメミニと別れてから俺はセレスティアに声をかけた。彼女は一瞬驚いたような顔をした後、すぐに冷静な表情に戻った。


「魔法使いたいの?」


「いや……まあ興味本位だけどさ」


「そう……でも魔法を使えるかどうかって正直素質によるところが大きいのよ」


「素質……?」


 俺が首を傾げていると、彼女は続けた。


「そう。そもそも魔法っていうのは自然界に存在する魔力と呼ばれるエネルギーを抽出、凝縮して操ることを言うんだけど、魔力を体内に溜め込める量を指すのが『魔導力』、その魔導力の強さが扱える魔法や魔法の強さに直結していて、その上限はほぼ生まれたときに決まってるから」


「え、じゃあ生まれつき魔導力が低い奴は魔法が使えないってことか?」


 俺がそう聞くとセレスティアは首を横に振った。


「運動能力や知力と同じで鍛えればある程度は伸びるわ。ただ限度があるってだけよ」


「そこで開発されたのが魔法を充填することで魔導力が低い人間でも魔法を自由自在に扱えるようにした魔石ってわけさ!そのうえ魔石が発明されてから、魔石を組み込むことで魔力を使って動く機器が色々作られて、人々の暮らしはとても便利になったんだよ」


「うわお前戻ってきたのかよ」


「失礼な!メミニちゃんを寮へ送り届けてきた紳士だよ僕は!それにセレスティアに用があるって言っただろう、僕もすっかり忘れてたけど!」


 アウェスはわざとらしく頬を膨らませながら懐から一枚の封筒を取り出した。


「はいこれ。新しい設備投資の計画書♡」


「はあ!?またなの……前回は財務部にこってり絞られたじゃない、今度は何に使うつもりよ」


 セレスティアが呆れたように言うとアウェスはにっこり笑って答えた。


「それはまだ言えないなぁ~お楽しみってことで☆それでさ、また財務部に怒られるのが怖いから今回はセレスティアから上手いこと口添えしてほしいんだよねえ」


「あんた本当にいい加減にしなさいよ……」


 セレスティアがこめかみを押さえてため息をつくとアウェスは悪怯れる様子も無く笑った。


「まあまあ、そんな固いこと言わずにさあ!ね?頼むよ~僕を助けると思ってさ!」


「はあ……分かったわ。ただし今回限りよ」


「やった~!ありがとうセレスティア大好きだよ!」


 そう言ってアウェスは彼女に抱きつく。それを鬱陶しそうに振り払いながらも彼女は満更でもない様子だった。俺はそんな二人のやり取りを黙って見ていたが、何だかモヤモヤしてきたので話題を変えようと口を開く。


「なあ、セレスティアやメミニみたいに自在に魔法を扱えるくらい魔導力が高い人間って実はかなり貴重な人材だったのか?」


「まあそうね。だからこそ逆に貴重な魔法使いを危険な外勤任務に出すなって意見もあるんだけど……」


 セレスティアがそう言ってため息をつくと、アウェスもしょんぼりした様子で口を開く。


「魔石は充填できる魔力の量や種類に限りがあるから魔法使いと同じように自由に魔法を使うには大量に持ち運ばなきゃいけないし、やっぱり魔法使いの方が融通が利くんだよねえ……僕も大分無理させてるなあって申し訳無く思ってはいるんだけど……」


「お前に他人に対して申し訳無いと思う気持ちなんてあったのか」


 俺がそう聞くとアウェスは心外だとでも言わんばかりに叫んだ。


「あるよ!僕を何だと思ってるのさ!……僕だって本当は魔法使いになりたかったけど素質が無かったからなあ……物作りは昔から好きだったから技術開発部で皆の役に立てるのも十分楽しいけど!それに、魔力を最初に発見して魔法を生み出したのと魔石の発明者って実は同じ人なんだよ。だから僕も彼女みたいにいずれは世界を変える発明をしてみたいって思うんだ。そうすれば魔法使い達の負担ももっと減らせるだろうし、虹の風を止めることだって夢じゃないかもしれない」


「……まあお前の腕は確かだからな。俺もそこは認めてる」


 アウェスは普段はふざけた態度を取っていることが多いが、魔法の知識や機械工学に関しては天才的な才能を持っている。そんな彼の作る物には何度も助けられてきたし、彼の発明によって救われた人も多いだろう。だからこそセレスティアも彼を信頼している節があるのだろうと思う。


「ありがとうルーク!やっぱり君はいい子だよね!もっと普段から褒めたり優しくしてくれてもいいんだよ?例えばちょっとおちゃめな冗談を言ったときとか」


「はいはい分かったよ。お前は天才だよ天才」


「うーん棒読みだなあ……まあいっか!それじゃあ僕はこれからまたスーツ改良のための会議があるからこれで失礼するよ!」


 アウェスはそう言うと上機嫌で去っていった。


「それで、あなたの魔導力の素質を調べてみる?簡易的なものなら今ここで私にもできるけど」


「いいのか?……じゃあやってみたい」


 普段からセレスティアが魔法を使っている姿を見るたびかっこいいと思っていたのもあって、俺ももしかしたらあんな風に……と密かに憧れを抱いていたのだ。


「そう、じゃあ手を出して」


「ん……」


 俺が言われた通りに手を差し出すとセレスティアは優しく握ってくれた。柔らかい手の感触にドキドキしていると不意にふわりと甘い匂いが漂ってきた気がした。


(なんかいい匂いすんな……)


 そんなことをぼんやりと考えているうちにいつの間にか手は離れていた。


「これであなたの今の魔導力値が分かったわ」


「……え、もう終わり?」


「そうよ」


 あまりにもあっさりと終わってしまったのもあり俺は少し拍子抜けした気分になった。しかしセレスティアは気にする様子もなく話を続けた。


「まあ大体平均値より少し高めってところね。鍛えれば火起こししたりそよ風を起こすくらいならできるようになるかもしれないわ」


「そっかぁ……」


 かっこよく魔法を放つ自分を想像していただけに少しがっかりしてしまったが、それでも自分にも魔法が使える可能性があるというのは嬉しかった。


「ふふっ」


 セレスティアが小さく笑う声が聞こえたのに気付いて俺が顔を上げると、彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべていた。


「え?何笑ってんだよ?」


「あんたも年相応に子供らしいところがあるんだなと思って」


「なっ……どういう意味だよそれ!」


 セレスティアの言葉の意味が分からず俺が聞き返すと、彼女はまた小さく笑った。


「そのままの意味よ。あんたはまだ子供だもの。魔法に憧れる気持ちだってあるでしょう?」


「うぐ……」


 図星を突かれて何も言えずにいると、セレスティアは今度は優しく微笑んだ。その笑みに思わず見惚れていると彼女は口を開いた。


「あんた、ここに来てからもずっと遠慮してる部分があったから心配してたのよ。私の手伝いをしたいって言ってくれたのは嬉しかったけど、無理してないかとか色々考えちゃって。もっとやりたいことや欲しいもの素直に言っていいのよ?」


 確かに俺は自分の感情を抑えていた。それはセレスティアに対しての罪悪感や、遠慮が先に立ってしまっていた部分もあるけれど、多分一番の理由は……俺はこの人に子供扱いされたくなかったんだ。


「いや、俺は別に大丈夫だって」


 素直にも大人にもなれない自分が情けなくて俯くとセレスティアは少し呆れたようにため息をついた後俺の頬を両手で包んで顔を上げさせた。そして真っ直ぐに俺の目を見て言った。


「あのねルーク、そうやって素直になれないところもあなたの魅力よ。でもね、無理に大人ぶらなくてもいいの。あなたはあなたらしく、ありのままでいてほしい」


「セレスティア……」


「それに、無理して大人ぶるより素直な気持ちを伝えられる勇気を持った人の方がよっぽどかっこいいわ」


 そう言って彼女は優しく微笑む。その笑顔を見ると胸の奥がきゅっとなるような感覚に襲われた。そして同時に、この人には敵わないと改めて思うのだった。


「ありがとう……俺、もっと素直になれるよう頑張るよ」


 俺がそう言うとセレスティアは満足げに頷いた後、少し悪戯っぽく笑った。


「でも無理して大人ぶってるのも可愛いけどね」


「……っ!もういいだろそれは!」


 俺は恥ずかしくなって顔を背けたが、それでもなお彼女は楽しそうに笑っていた。そんな様子を見て俺も思わず笑ってしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ