ホラ吹きみぃちゃん
大阪・日本橋にはいろんな人が集まる。
お客さんにも変な人が多いが、メイドさんにも変な子は多い。
その一人にみぃちゃんがいた。
まず驚かされたのが、彼女が漢検一級持ちだということだった。
「それは凄いなー」と驚いてみせる。嘘か本当かわからない。が、わざわざテストする必要もない。愛想よく接してくれればこちらも機嫌良く飲んで家に帰れるというものだ。
京都大学と早稲田か慶応とに同時合格して、京大に行こうとしたが学費がなくてやめてしまったとも話していた。今はフリーターなのだと言う。
「それはもったいないことをしたなぁ」と驚いてみせる。地元の議員にでも泣きつけば入学金くらいは出してくれたんじゃないかと思ったが、過ぎたことなので野暮なことは言わない。
とまあ、いつもみぃちゃんの話に驚いていると、みぃちゃんがシフトに入っていないある日、別のメイドさんがこっそり教えてくれた。
「みいちゃんってとんでもない嘘つきなんですよ。同時に有名大学に合格したって吹聴しているけど、日程的にありえないんです」
いろいろと説明してくれたが、詳細は覚えていない。とにかく、日程が合わないのだそうだ。
一番面白かったのは、ボールペン一本で熊を倒したという話だった。みぃちゃんは忍者の末裔なので、山で熊に襲われた時に目を潰して逃げ延びたという。熊はそのせいで崖から落ちて死んだのだとか。
別の店のメイドさんにその話をしたら「可愛い嘘じゃないですか」と笑っていた。大阪・日本橋、おそろしい所である。
さて、日本橋のオタロード沿いには巨大な露天駐車場がある。そこの横にある縦長のビルの屋上には、アラブの富豪のような人が描かれた色あせた看板が出ている。何語かわからないサインのような物も書いてあって、全く読めない。みぃちゃんがいるメイド喫茶からは、その看板がよく見えた。
ある時ふと「何なんだろうねあの看板」とたずねてみた。
返ってきたのは「私のお兄ちゃんなんです」という言葉だった。
あえて追求はしなかった。
精神的な支えとしての幻想のお兄ちゃんかもしれないし、実際に血を分けた兄がモデルをしたということなのかもしれない。ただ、深追いするとろくな事にならないという予感がしたので「ふーん」で済ませてしまった。
そのうちそのメイド喫茶はつぶれてしまい、みぃちゃんと再会することもなかった。
ただ、あの看板を見るたびに思い出すのだ。
みぃちゃんという不思議なメイドさんがいたことを。




