表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

日本橋ハーフロック問題

実話です。


 あれはまだケータイが二つ折りだった時代の話。

 私は恵美須町駅近くにできたメイドバーに行った。

 酒の種類がそこそこあり、食事やおつまみがうまかったし、メイドたちの接客もうまかった。

 何回か通ったあとにその事件は起きた。

 珍しく男装の子がカウンターに入っていた。

 私はいつものように酒を頼んだ。

 アテをつまみつつ、カクテルやウィスキーをばらばらに頼むのが私の飲み方だ。

 ちょっと酔ってきたので、ウィスキーの銘柄を指定してハーフロックで頼んだ。

 ハーフロックとは、氷を入れて、酒一水一で飲む飲み方だ。

 水の量が少ない場合は「ちょい水」と言ったりする。


「かしこまりました」

 男装の子は、ロックグラスに丸氷と酒を入れると、手際よく回し始めた。

 かなり長めだった。

 そして、私の前にさし出した。

「○○のハーフロックでございます」

 所作は完璧だった。

 ただし、水を入れ忘れていた。目の前で作ったのだから確実だ。

「ちょっと待った! ハーフロック言うんはな、酒一水一のロックや。水を入れ忘れてるで」

 そして、チェイサーに用意された水をグラスに注いだ。

 すると、男装子は急に不機嫌になった。

「氷を溶かしてきちんと調節しております」

 自信たっぷりで断言する。

「しかしなあ、氷を回しただけじゃ水は全然足りんで」

「先輩からそのように習っております」

 険悪な雰囲気になった。露骨に馬鹿にした雰囲気すら感じる。

 そして、男装子はぷいと奥にすっこんだ。

 別のメイドさんが慌ててかけつけた。

 あいにくその日は携帯を家に忘れており、ハーフロックについてその場でググることはできなかった。

 罪のないメイドさんを困らせても何なので、気分を切り替えてアニメの話やなんかで楽しく過ごした。


 帰宅してから携帯でググった。

 某有名酒メーカーのサイトでも、ハーフロックは酒一水一のロックという定義になっていた。

 それでもまだ不安があった。

 バーテンダーの中には、あの作り方がハーフロックだとする一派があるのではないか、と。

 しばらくは他のバーに行くと必ずハーフロックについて質問した。

 どこでも「氷をくるくる回しただけでできた水を加えたロックをハーフロックと称する、などという流儀は知らない」という話だった。


 最近、とあるメイドさんにその話をしたところ「メイドの世界では先輩が教えたことが絶対、という風潮がありましたから」と言われた。

 そうかもしれない。けど、せめて客に花を持たせる接客はできなかったのか、と今でも思う。


ちなみに、酒一水一だと、トゥワイスアップとなります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ