最速でつぶれたメイド喫茶
実話です。
無人のメイド喫茶の跡地には、しばらくすると新しいメイド喫茶が入った。
厨房の位置は奥に変えて、フロアの一角には半畳ほどの半円形のお立ち台ができた。
そこは撮影スポットになっていて、使えるのはカメラのみ、十分千円で撮り放題、という値段設定だったと思う。
確か、最初に入ったのは四月二十九日、「みどりの日」か「昭和の日」だった。
この時はほぼ満席で、店の雰囲気も明るく、人気店になりそうに感じられた。
メイドさんたちも「頑張ってこれからいい店にしていくので、応援してください」と言っていた。
その時はカメラを持っていなかったので、普通に食事をして帰宅した。
次に行ったのは五月三日、憲法記念日である。
日付に関しての記憶ははっきりとしている。
コンパクトカメラを持って意気揚々とその店についた私は、入り口の張り紙に愕然とした。
「○○は閉店しました」
……え? まさか連休が明けてないのに閉店しただと!?
何があったのかはさっぱりわからない。
とにかく、一番の稼ぎ時であるゴールデンウィークのおわりを待たずに閉店してしまったのだ。
当時きいた噂では、不動産会社が「メイド喫茶跡地」というプレミアムをつけようとして、数日だけ店を営業した、というものだった。しかし、これは日本橋の噂の常で真偽のほどはわからない。
ひょっとしたら、四月くらいから営業していて、オーナーがこれではもうからないと見切りをつけて四月末で店を閉めてしまったのかもしれない。
可哀想なのは、アルバイトのメイドさんである。まさかこんなに早く潰れるとは思いもしなかっただろう。
というわけで、私の中ではその店が最速でつぶれたメイド喫茶として記憶されている。