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また会うまで

作者: 深海聡

 また会おう、そういう約束は大抵果たされないと、私は知っている。

 それでも何度も、何度も。繰り返し口にした言葉を。

 私は祈るように、願うように口にする。

 叶わなくても構わないのだ。

 実現しなくたっていいのだ。

 ただただ、縋るように言葉を紡ぎ続ける自分自身を、想うことを、願うことを、祈ることをやめることが出来ない。

 どれほど報われなくとも。

 失って、奪われて、傷ついてつまずいて立ち上がれなくて。

 それでも。

 私は、目の前にある現実を歩き続けるしかないのだから。


「また、必ず」


 震えそうな声を励まして、何度も練習をした笑みを浮かべる。

 私は存外、嘘つきなのだ。

 気付かない振りも上手だ。

 臆病だから、これ以上踏み込んではいけない領域を測ることばかり上手くなる。

 それでも、大切なことを伝えられなかった後悔をこれ以上重ねないように。

 何度でも、いつでも、日常の続きのようにさり気なく手を離して微笑む。

 失われていくものを惜しんだりなどしないかのように笑う。

 望まれたように、望まれたままに息をするように嘘をつく私は。

 この先も、誰かにとっての束の間の光であれればいいと、祈るように願い続ける。

 私という存在が落とす影の中に、相手が隠したい事実をひっそりと眠らせて微笑むような。

 私はそんな風に誰かを想い続けるだろう。

 そして、ひとりで声を殺して泣くのだろう。

 あなたの前では、変わらず微笑み続けられるように。

 私は、きっと究極のエゴイストなのだ。

 いつだって、素敵な自分だけを覚えていてほしいから。

 花弁のように、雪のように降り積もる思い出が、その中に触れられなかった事実を包み込むように。

 私は、もう会うことのない人に最高の笑顔で手を振る。

 今までも、これからも、何度でも。

 さようならの代わりに。


「きっと、また会おうね」


 また会うまで。

 あるいは、私の中でこの日が風化して消え去るまで。

 きっとそんな日は来ないけれど。

 大切な思い出を、キラキラひかる日々を握り締めて捨て去ることなんて出来ないから。

 君の顔を忘れても、今背を向けるこの瞬間の感触も、いつかのさようならのように忘れることが出来ないだろうから。

 私は、息が出来ないほど声を潜めて涙を飲み込む。

 断ち切られることのない日々を、胸の深くに沈めて微笑む。

 痛みなど忘れ去ったかのように。幸せそうに微笑むけれど。


 その言葉に、本当は嘘などないのだと。

 忘れることも出来ない私は、いつでも、何度でも、あなたに、君に、記憶をなぞって会うだろう。

 ひりひりとした寂しさと、かすかな幸福の温もりの名残に、唇の端に笑みを刻んで。

 忘れることなど出来ないのだ。

 あるいは忘れることがなければ、失うこともないのかもしれない。

 いつかまた、会うまで。

 いつかまた会うまで、私は。

 頬を伝う涙のこの感触を、忘れない。

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― 新着の感想 ―
[一言] いつだって、素敵な自分だけを覚えていてほしい。 この一言にとても共感します。 思うように生きることも大切だけれど、できるならばすこしでも良い思い出と共に思い出される、そんな存在であれればいい…
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