月に来場者数が1万を超える観光スポット
母なる地球には47億年の歴史がある。現在の形状や大陸の位置になるまで、そして生物の進化の過程には紆余曲折あった。40億年前。まだでこぼこで球とは言えない地球に超巨大生物テイアが戯れにデコピンをした。ぱっかーん。地球は大きい側と小さい側の2つに割れた。
小さい側の地球の巨大湖に原始の生物が誕生を始めていたのだが、デコピンによる莫大なエネルギーにより、原始の生物を含む直径数十kmもの岩塊が大きい側の地球にも隕石として降り注いだ。それにより大きい側、つまり現在の地球にも原始の生物が根付くことになった。そして小さい側の元地球は月という名を持ち地球から2万km離れた位置で公転を始める。原始の地球から月を見ると、現在の360倍もの大きさに見えていたのだが、40億年を経て徐々に遠心力で遠ざかり39万km離れた地点、衛星として公転しつつ飽きることなく地球を見つめ続けているのだ。
月が衛星となる過程は当然だが、太陽系の他の惑星の衛星の成り立ちとは異なる。惑星の外よりやってきた天体を惑星の重力により捕まえ衛星とするのが普通なのだ。地球の内惑星である水星と金星に衛星は無い。太陽の重力が大きすぎることと、巨大生物もそこまで太陽には寄りたくなかったのだろう…か?
※以下、太陽系惑星(最大の衛星、衛星の数)惑星と衛星の直径の比を示す
地球12756.3km(月3473.8km)27.23%
火星6794.4km(フォボス22.3km、他1)3.28%
木星142984km(ガニメデ5268km、他94)3.68%
土星120536km(タイタン5149km、他148)4.27%
天王星51118km(チタニア1578km、他27)3.09%
海王星49244km(トリトン2700km、他15)5.48%
上記から、僅か地球に1つしかない衛星、月の大きさが異常な事が読み取れるだろう。ただし冥王星(カロン、他4)51% に関しては地球(月)と同様の成り立ちである。超巨大生物ヒューペリーオーンのチョップにより、ぱっこーん。と大きく割れた。更にその際に公転軌道が黄道からも外れ、斜めってしまったため40億年後に惑星から準惑星に格下げとされた事を、原因を作ったヒューペリーオーンは知る由も無かった。
さて。40億年前に地球の巨大湖に生息していた原始の生物。これらは地球と月で別の生態系を形成していった。
地球では古生代に大量の動物の種が誕生する。協力し群体となることで、寄生することで、場合によっては食事として体内に取り込まれることでDNAの結合や交換が行なわれ一気に動物が複雑化、巨大化し、いわゆるカンブリア爆発を起こした。これにより現代の動物区分の門(おおよそ中学理科の生物における動植物の分類)はカンブリア期に出揃ったと言えた。
さて。月の生物はどうだろう。割れた地球の小さい側を核に重力によって周りの小天体を取り込み成った衛星であるので小地球、もとい月の表面には大気が存在しなかった。それにより生命は地下で進化せざるをえなかったのである。月の地下深くには地球の鍾乳洞のような空間が広がり広大な地底湖を有した。そこには大気が存在し、地熱により温度は高く安定した環境を作り、地球よりも早く生物の進化、つまり動物の登場が起こった。ただし地球程に生命が育つ土壌が広くなかったので進化はゆるやかに行なわれた。地球の西暦で言うところの1969年。人類が月に降り立った際にその地下では、アウストラロピテクス相当の知能を持つ8つ足の陸上生物が存在していたのだが、人類は月に到達する事が精一杯でありそれらに気づく術は無かったのである。
それから僅か60年。2029年。奇しくも地球への隕石衝突を起因として人類は滅亡する。ただし全生物が死に絶えた訳ではない。あくまで当時隆盛を誇っていた人という種が数百年にも及ぶ極端な寒冷化に耐えられなかっただけだ。サイズが比較的大きく、恒温動物であり、成人が遅いことが激変した地球で種を繋ぐことに向かなかったのだ。それは恐竜の絶滅に酷似していた。
そして現在。地球から人類が姿を消して1億年が経過している。月の生命体はようやく遥か昔の地球の人種を越える知能を獲得し、月の地表に上がる事は娯楽・観光の一つとなっている。特に人気のスポットとなっているのは1億年前に地球からやってきた人物の足跡が残っている地点。月は真空であり公転では常に内側である地球を向いていることから隕石の衝突もほぼ無く未だにその足跡が残り続けているのだ。地球では大気や自然現象、菌類と細菌類により人類がいた痕跡は消され地上に何一つ残っていない。万里の長城は7千万年前に中国で起こったM11.2の地震により崩落。エジプトピラミッドは3千万年前に4m程頂上部分がかろうじて露出していたが再度の隕石衝突と火山活動により完全に地中深くに沈んだ。人の存在証明は月にある29cmの足跡だけなのである。
地球では1億年前の隕石衝突の以降に知的生命体は誕生していない。隕石により滅ぶという結末にあいなったが、いずれにせよ一般市民には隠されていた極大の懸念により遠からず地球の人類は滅んでいたのだと言う。地中の深くや海底に存在する人種の有毒のゴミ・放射能物質・表に出せないエネルギー施設が1億年を経てなおも生態系を狂わせ続けており、地球に未来は無いのだと言う。そのようなガイドを聞きながら、内地で噂の観光スポットである人の小さな足跡と闇に浮かぶ美しい死の星である地球を。今、私は見つめその歴史に思いを馳せているのだ。