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無題

作者: 高遠 日悠

まったくなんだってこんなことになっちまったんだか

おおよそ日常においては使わない

そんな言葉を頭に思い浮かべてみて

女は静かに息を吐いた


雪の気配の残る一月前の明け方とは違って

花の盛りの温んだこんな夕暮れには

血のにおいが鼻についた

女はもう一度静かに息を吐く



女は自分のことを普通の人生を歩んできた平凡な女だと思っている


まあまあの家に生まれて

ほどほどの学校に通い

当たり前に会社に勤め

それなりに仕事をしてきた


きっとこれから時を重ねて

順当に親を看取り

慎ましく余生をおくり

叶うならぽっくりと死ぬ


ただ今更になってそんな人生に

結婚だとか子供だとかいう言葉がないのが

どうしようもなく後ろめたくなって

それでこんな真似をしでかしたのだ




女は恋というものをしたことがない


声を半トーンあげ、笑顔を忘れず過ごしたデートの帰り

男友達とのキスのさなかにやはり自分は恋はしていないのだろうと

閉じられたまぶたを見ながら考えることができてしまった時

どうにも恋の才能がないようだと認めざるを得なかった


世界が輝くというドーパミン

すべてを慈しめるというセロトニン

本か何かで知ったそれは

女にとっては体温42度と同じく実感のない知識にすぎない


ティーンになるまえに薄々気づき

それが自分だと折り合いをつけたのは二十歳過ぎで

5人に一人は結婚しない時代とネットで調べたのが三十路前

だというのに四十路もみえた今になってこんな真似をしでかしたのは


愛さぬ相手との結婚は不誠実だとか

愛されぬ子供は哀れだとか

そんな偏見じみた論理感と


結婚をどう思うだとか

子供をかわいいと思わないかという

雑談に混ざり込む親の見え透いた期待が


なんだか重いと感じてしまったとそれだけのことなのだ

ただそのとき不意にそうしてしまった方が楽なのではないかと思っただけで

往々にしてそんな思いつきは後になれば後悔する

故に女は息を吐く




やっちゃったなあ

血が気持ち悪い



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