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最強アサシンは今日も夢を見せる  作者: えいろく
ケース2. 新興宗教 天生教
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新興宗教 天生教 2

 富豪街アストラ。世界中の富豪が自宅を構えることから、その異名が着いた。街並みは一般的な街とは比べ物にならない。一つ一つの建造物はその威光を示す様に大きく、高い。それぞれの住宅がアイデンティティを持ち、宝石を散りばめた家、夜になると光る家。住人が住人へマウントを取り合う街だ。


「凄い光景ね…家ばっかり…」


「オリビアはアストラは初めて?」


「えぇ。私の依頼主は誰かを出し抜く為に人を殺そうとするような奴ばかりだからこんな良いところには住んでいないわ」


「人生の成功者たるアストラ住民の依頼とはどんなものなのかね…」


 3人は汽車から見えるアストラの街の景色を見ながら言った。ボックスシートに座って到着を待つ3人は、それからも外の景色を食い入るように眺めていた。


「さて、黒服サングラスを探すか」


 電話で指定された手筈通りならば駅を出たすぐのところに使いがいることになっている。3人は条件を満たす人間を探して、きょろきょろと辺りを見回した。


「あ、いたわ。きっとあの人よ」


「確かに。黒服サングラスだな」


 立っていた男は筋骨隆々、ガタイの良い男だが、ダリルはどこかで見覚えがあると感じた。それがどこでなのかは分からない。ただ話せば分かるかもしれないと、近づいていった。


「マイルズ・クロフォードの依頼で来た」


「久しぶりだな。ダリル・エルズベリー」


「あ、やっぱりどこかでお会いした…」


 黒服の男は、サングラスを外して、ダリルに顔を向けた。そこでダリルも『あっ』と声を上げて、男の顔を指さした。


 彼はオリビア殺害の後、パーミドル市長に雇われてホテルを襲撃してきたアサシン集団の1人であった。彼はリーダーではなく、毒を受けて倒れていた一人だった為、ダリルの印象にもそこまで残っていなかった。


「毒で倒れてた人…」


「ぐぅ…確かにあの時は不覚を取った。だが今回は手を取り合う関係だ。よろしく頼む」


「?」


「何だ、クロフォード様から聞いていないのか。我々シャドウ・セイバーはクロフォード様直轄のアサシン集団だ。前回は特別要請だったが、普段はクロフォード様の護衛が主な仕事だ。私はネイト・ハワードだ。よろしく」


 ハワードが手を差し出すと、ダリルもそれに応えるように握り、二人は握手を交わした。


「よろしく」


 ハワードは後ろで見ているシェリーとオリビアに視線をやった。特にオリビアの方へだ。オリビアは不思議そうな顔をして助けを求めるようにダリルを見た。


「彼女がどうかしたか?」


「いや聞いていたのは二人だったのでな。そこのお嬢さんは君の連れだったと記憶しているが、彼女は?」


「あぁ。最近うちに入ったんだ。パーミドルの時はまだいなかった」


「そうか。まあいい。クロフォード様の屋敷まで案内する。近くに車を停めてある。付いてこい」


 3人は言われるがままに、ハワードへついていった。駐車場には真っ黒の車が停めてある。ダリルもシェリーもオリビアまでもクロフォードは黒がどれだけ好きなのかと静かに思案していた。


 ダリルが助手席に女性陣が後部座席に乗り込み、車は出発した。3人はそれぞれの窓から街並みを見渡し、その豪華絢爛な街、人を見て羨ましい、愚かしいなどそれぞれの感情を抱いていた。


「どれくらいかかるんだ?」


「あと30分ほどだ。クロフォード様の家は住宅街からは少し離れた森の中に構えている」


「森の中? なんだってそんなところに」


「お前は人里のど真ん中に住んでいるか?」


「は? いや違うけど」


「同じ理由だ。アサシンを抱えるマフィアのボスが人里のど真ん中に居を構えては、住人に恐怖を与える。クロフォード様はそう考え、街を裏から支配している。表面上は富豪たちが自治しているように見せかけているがな」


「ほー。クロフォードさんはマフィアのボスか。ますます分からんな」


「何?」


「いや詳しくはクロフォードさんから聞くよ」


 それからは特に会話という会話も無く、車は目的地に向かって走り続けた。シェリーは車の心地よい揺れにうつらうつらと頭を揺らしている。


「着いたぞ。む、お嬢さんは寝てしまったか」


「ま、丁度いいかもな」


 ダリルはシェリーをおんぶで抱えて、車を降りた。森の中に巨大な家を構えたクロフォードの邸宅は大きさこそアストラの街の家々に匹敵するものの、蔦が絡まり、葉も生い茂る廃墟と言われても信じてしまうほど、外観は綻びが見られた。


「本当に人が住んでんのか」


「あぁ。住んでいないように見せるカモフラージュさ」


「なるほどね」


 ハワードを先頭に家の中へ入る。家の中は質素なものだった。高級そうな絵画も、古代遺跡にありそうな壺も、美しい花も何も無い。ただ暗く長い廊下が真っすぐに続いていた。暗闇で遠くの方は何も見えない。それでもハワードは臆することなく進み始めた。


 ハワードが廊下の真ん中で立ち止まり、後ろのダリル達も玉突き事故で止まった。


「着いたぞ」


 何も見えない廊下のど真ん中だったが、まだハワードの前に部屋の扉があるようには三人は見えなかった。


 しかしハワードが左手にあった本棚の分厚い本を一冊取ると、本棚が左へスライドした。ちょうど本棚によって隠されていた扉が現れたのだ。


「隠し扉…」


「クロフォード様がお待ちだ。入れ」


 扉を開けると、差し込んでくる眩しい光に三人は腕で目を覆った。そして部屋に入ると目の前には9人の護衛に守られた背の高い男が座っていた。目の前で手を組み、肘を机について前のめりになっていた彼はダリル達の到着で顔を上げた。


「ようこそ。ダリル・エルズベリーくん…」


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