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最強アサシンは今日も夢を見せる  作者: えいろく
ケース1. 変貌のオリビア
6/11

変貌のオリビア 5

「さて今日は寝るとするか。シェリー? よし、起きてないな」


 ベッドが一つとはいえ、いつも寝ているシングルとは比べ物にならないキングサイズのベッドである。二人で寝るのに特に問題はない。


「ちょっと! 何で同じベッドで寝てるの!?」


「うぉっ!?」


 翌朝、シェリーの怒号によってダリルは目覚めた。シェリーはベッドの端にまで布団を引きずって移動し、ダリルに枕を投げつけた。


 ダリルとしてはせっかく配慮して、ベッドの端で寝ていたのに、この仕打ちは理不尽であるというところだ。


 シェリーからすれば当に昨日の記憶は寝ぼけていて思い出していないので、自分の部屋で寝ていると錯覚している。乙女の部屋に無断で入り、あろうことかベッドに潜り込むなど言語道断である。


「おい、ここ俺の部屋だぞ」


「…あら…そんなこともあったわね。素直に謝っておくわ。ごめんなさい」


 シェリーが珍しく素直に謝ったことに感心したダリルは時計を確認した。時刻はまだ10時。黒服のアサシンたちが市長へ報告するまでにはまだ時間がある。


「今日はゆっくり準備が出来そうだな。そういや昨日暴れた後はシャワーに入りそびれたな」


「不潔だわ…」


 ベッドの上でゴロゴロとくつろぐシェリーが茶々を入れてくる。それに対して着替えを用意しながらダリルが反論する。


「お前寝てただけだったろ。割と人数多くてビビったぞ」


「あら私が出るまでも無いと言う事よ」


「強そうなオーラ出してるけど、お前、近接戦闘出来ないだろ」


「むぅ…」


「13時に出るぞ。まだゆっくり化粧なりする時間はある。今日はおめかしして行こう」


「えぇ。そうね。せっかく報告に行くのだからばっちりメイクで行くわ!」

 

 おめかしという単語で期限の治ったシェリーはベッドから降りてバッグをひっくり返して化粧品を取り出した。都合のいいことに鏡台もある。ダリルがシャワーへ向かうのと同時にシェリーも化粧を始めた。


「ふぃーさっぱりさっぱり。準備はどうだ?」


「えぇばっちりよ。これでどこからどう見ても大人のレディーね。いつにも増して美しいわ」


 ダリルはどこからどう見ても背伸びしたお子様だと言いそうになったがグっとこらえた。


「さーて。そろそろ時間だ。市長さんのお家へ行くか」


「きっちりお話しないとね」


 ホテルを後にした二人は寄り道せずに真っすぐ市長の家へ向かった。二人にとって市長は的ではない。それは正式に依頼された相手ではないことに尽きる。彼等とて殺人鬼ではなく、好きで殺しをしているわけではない。


 彼等はただ依頼達成の報告に行く為に市長の家を訪れたに他ならない。


「どうも。こんにちは」


「な、あ、あぁ。しっかりやってくれたようだな」


「何故…って言おうとしました? もしかして」


 痛いところを突かれたと丸わかりの反応を示した市長はソファの背もたれにグッと背中を押し付けた。そして絞り出す様にして喉から音を出した。


「いや、そんなことは…」


「何かやましいことでも? 市長さん。依頼はしっかり達成しましたよ。オリビア・ロングは私が殺しました。死体も絶対に見つかることはありません」


 ソファに前のめりに腰掛けたダリルはにやにやと浮ついた笑顔を見せつけながら市長に報告を済ませた。シェリーはダリルの性格の悪さをこうはなるまいという視線で横から見ていた。


「で、昨日のホテルは良かったですよ。あんないい部屋を2つも用意してくださってありがとうございました」


「そ、そうか。それはよかった」


 市長の目はこれでもかと左右に泳いでいる。


「手厚いパーティまでも用意してくださってねぇ…面白かったですよ。彼等は中々凄腕らしいですね」


「な、何が目的なんだ!? 金か!? 金なら払う! だから殺さないでくれ!」


 笑顔に恐怖を駆り立てられた市長はついに我慢の限界が来た。立ち上がり怒鳴る。しかしその大声に臆することなくダリルは返した。


「じゃあ金は貰います。ちなみに命は取るつもりなんか毛頭ないですよ。でもね…」


 ダリルの声色と表情が一変する。それは隣にいたシェリーも少しだけ恐怖を感じるほどだった。ダリルも立ち上がり、右手の人差し指を市長の心臓に突き立てる。


「あんたのやり方は気に食わねえ。もしあんたを殺してくれって依頼が来たら、地獄に叩き落してやるよ」


「ひっ…!?」


 青ざめる市長を前にダリルは人差し指を押し込み、市長をソファへ無理やり座らせた。


「じゃああのアサシン寄こした迷惑料含めて報酬2倍でよろしく」


 再び笑顔に戻ってそう告げるとシェリーは席を立って、一足先に家の出口へ向かっていた。残ったダリルは振込先口座のメモを残して、シェリーを追いかけた。


 二人が出ていった後も、暫く放心状態だった市長は自分の将来を案じた。そして青ざめた顔で報酬の振り込みを手配させていた。


「殺さなくて良かったの? 私なら殺していたわ」


「あいつも殺してくれって依頼があれば殺る。なければ殺らない。それだけだ」


 ふーんと適当な返事をして、シェリーは話を終わらせた。彼女にも何か思うところがあったらしい。


「あ、そういえば…」


「どうしたの?」


「帰りってまた船か!」


「そうよ?当り前じゃない」


 その後は言うまでもない。だがこれにて二人の暗殺仕事は1件終了した。そしてまた暇で退屈な日々が訪れる。殺しの仕事などおいそれと入るものではなく、受ける物でもない。故に1件につき莫大な費用を請求する。それでも成り立つのが暗殺稼業だ。誰かには絶対に殺したい誰かがいる。殺した相手の関係者はまた殺した相手を殺したくなる。感情の連鎖によって成り立っている稼業だ。


「暫く依頼が来ませんように!」


「私、美味しいご飯が食べたいわ。お金なくなったらダリルが働いてね」



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