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最強アサシンは今日も夢を見せる  作者: えいろく
ケース1. 変貌のオリビア
4/11

変貌のオリビア 3

 ダリルは既に部屋の前にいた。どうやって移動したのか。それは彼の魔法によるものである。


「おいおい…男じゃいるんじゃ殺し辛いじゃねえか。まあいいか」


 部屋の前で悩んでいたダリルは男性への申し訳なさを感じながらも、部屋のドアを開けた。


「お楽しみ中のところごめんなさい」


「えっ…誰?」


「え!?」


 男は素直な困惑を、女は驚きを現した。女は二人の顔を知っている反応だった。


 ベッドで横並びに座る二人の情事が始まっていなかったことに安堵したダリルは再び姿を消して、男性の後ろに回り、手刀で気絶させた。


「そうやって何人の男を殺してきた?変貌のオリビアさんよ。11人なんて嘘だろ? 倍いやもっと殺してるはずだ。なぁ同業だもんな。でもよ捕まっちゃダメだ。それじゃ一流は名乗れない」


「ふん。余計なお世話よ。エルズベリー。あんたこそ数えきれないほどの人間を殺してきているじゃない。どうせあの市長に言われてきたんでしょ。あのクソ親父だって地位を得る為、守る為に何度も私を利用したのに、要らなくなったら処分する。勝手な奴よね…」


「ま、そんなことだろうと思った。でも俺も仕事だ。恨むならまた蘇って俺の前に現れるがいい」


「そんな簡単に殺されて…えっ!?」


 時すでに遅し。逃げようとしたオリビアの身体は動かなくなっていた。これもまたダリルの魔法によるものである。


 彼の魔法は惑わしの魔法。幻術とも言う。相手の五感や意識に潜り込み、全ての認識を狂わせる。男性を気絶させた時、霧のように消えたのも視覚に対する幻術、幻覚、最初から彼は男の背後を取っていた。


 そして今はオリビアの意識に入り込み、夢を見させている。幼い頃から貧しく親の愛を受けなかったオリビアは両親に挟まれ、豪勢なディナーを楽しむ。ずっと夢に見続けていた理想を見ていた。


 それは死ぬまでの間、束の間の幸せを彼女に与える。そして死してなお、その幸せが続くかは彼にも分からない。だが続くことを祈っているのは確かだ。


 それがダリルの情けだった。罪滅ぼしと言ってもよい。ただ己を蝕む罪悪感から逃れようと行っている行為の一環だ。


「最後は美しい夢を見るがいい。どんな聖人も極悪人も最期は安らかに逝くべきだ」


 目を虚ろにしたオリビアは虚空を見つめたまま動かない。それを見つめるダリルもまた哀しい表情をしていた。右眉を吊り上げて、暫く彼女を見つめた。


「…じゃあな」


 殺しに魔法は使わない。それもダリルの矜持だった。ダリルへ寄せられる仕事は誰もかれもが悪事を働いているものばかりだ。何も犯していない人間への依頼は来たことが無い。


 悪人である以上快楽だけを与えて、殺すこともまた悪である。だから彼は凶器を使う。その時々によって使う凶器は変わる。


 彼が握っているのは女性の身体の厚みと同じほどの長さを誇った剣だ。だが異常なまでに細い。楊枝ほどの細さしか持たぬ細剣をオリビアの胸に突き立てて、ゆっくりと沈めていった。

 細剣を伝って、オリビアの鼓動が伝わってくる。徐々に徐々に鼓動はゆっくりと弱くなっていく。そしてその鼓動が完全に停止した後、ゆっくりと細剣は胸から引き抜かれた。死を意味する液体は零れだしていなかった。細剣にもついていない。磨かれた技術の片鱗が見て取れる。


「終わりだ。シェリー。処理を頼む」


 シェリーが扉にもたれ掛かっていた。相変わらず漫画を読みながら。いつからいたのかダリルにも分からない。だがそこにいることは事実である。


「えぇ。勿論よ。死体は異空間へ放り込めばいいのよね?」


「あぁ…次の世では良い運命に恵まれ、良い人になることを祈ろう」


「そうね。じゃあオリビアさん、さようなら」

 

 シェリーが来ていた服をたくし上げ、腹部を曝け出すとそこには穴が空いていた。へそを中心に半径5㎝程度の円だ。向こう側が見える訳では無い。前から見ても後ろから見ても確かに穴は開いている。その穴は真っ黒でどこへ通じているかも分からない異空間への扉。


 シェリーは穴をオリビアに近づける。するとオリビアは頭から吸い込まれていく。明らかにオリビアの体積に対して穴は小さい。だがそれでも身体が溶解するようにして吸い込まれていった。足先まで全てが吸い込まれると、シェリーは服を戻し、何事も無かったかのように漫画を読むのを再開した。


「さて終わったわね。あの市長さんのところへ戻りましょ」


 やはりにっこりと笑ってシェリーは言う。


「おう」

 

 ダリルも無愛想に返した。


「彼女も可哀想な人間だったわね。利用されて利用されて、最後は廃棄される」


「残酷だが世の中ってのはそう出来てる。次は俺達の番かもしれんぞ」


 ダリルが脅す様に揶揄う様にシェリーを覗き込んで言った。

 

「縁起でもないこと言わないで。私は死ぬなんてまっぴらよ」


 読んでいた漫画に指を挟んで閉じたシェリーは扉を開けて部屋を出た。それに続いてダリルも出ていく。ただ一人残されたオリビアと共にいた男性は気絶したまま二人を見送った。


 これは二人は知る由も無い話だが、この男はオリビアのターゲットであった。依頼人はダリル達の依頼人と同じ市長である。


 男は市長の政敵であり、次期市長候補ひいては国政にも参政しようとする有望な男である。ただ少しだけ女関係には疎かった。このような方法で市長は政敵を殺しては、地位を守り、地位を築いてきた。


 オリビアも相応の報酬を受け取り、華やかな生活を送っていた。事実ダリルに殺害された時のオリビアの服装は殺し屋とは思えぬほど華美な物であった。


 何故オリビアは切り捨てられたのか。それはオリビアの逮捕によって、関係が明るみに出そうになったからだった。何とか水面下で抑え込んだが、それでも既にオリビアは市長にとって危険因子となっていた。


 そこで最後の任務として男の殺害を命じ、それを追わせるようにダリル達へ依頼を行った。だがダリルは市長と向かい合った時から感づいていた。だからこそわざわざ資料に記載されていたオリビアの行きつけのパンケーキ屋に入り込み、予め見つけておいたのだ。



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