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最強アサシンは今日も夢を見せる  作者: えいろく
ケース2. 新興宗教 天生教
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新興宗教 天生教 4

 車が出発してから何時間立ったのだろう。緊迫に包まれた車内にはエンジンの音だけが響いていた。運転をするハワードはもちろんの事、ダリルやシェリーも数時間経過しても全く眠ることなく、車から景色の変化を眺めていた。


「もうどれくらい経った?」


 ダリルの素朴な疑問にハワードが答える。


「三時間だ。もう半分以上来ている。そろそろ妨害があってもおかしくない。準備はしておけ」


「お手洗いに行きたいわ…」


「そうだな。ずっと車に揺られっぱなしだ。休憩できないか?」


「この辺りが休憩できる限界か。近くで休憩しよう」


 意味深な発言をしたハワードに疑問を持ちつつも、車は他にも多くの車が停まっている休憩所にダリル一行も車を停め、飲み物の補充やお手洗いなど、最低限の休憩時間を送った。


 単独行動は禁止され、シェリーのトイレにもシャドウ・セイバーの1人が付いていった。ダリルは無事に二人が戻って来たことに安堵しながらも常に周囲を警戒している。


「ハワード、さっき言ってたのってもうこの辺りには関係者が潜り込んでいてもおかしくないってことだよな?」


「あぁ。この辺りが境界線だろう。危険は伴うが我々としても向こうの情報は探っておきたい。怪しい人物は総チェックだ。それと先ほど他の二班と連絡を取った。同じペースで施設へ向かっているらしい。それとシェリー君の変装をしたオリビア君が何者かに接触されたようだ」


「オリビアが?」


 ハワードは連絡の際に取ったメモを見ながら、ダリルに伝える。


「あぁ。同じく休憩中の出来事だったようだ。四人で歩いていたらしいが、老婆に腕を掴まれ、『テンシ』と呼ばれたらしい。それ以外の者は寄ってくる様子は無かったようだが、明らかな視線を感じることがあったようだ。何にせよ相手の懐に近づいているのは間違いない」


「テンシ…天の使いってことか。孔を持つシェリーがそうなら納得は出来るが…」


 車の前でコーヒーを飲みながら話していた二人は人だかりの出来た売店周辺を見つめていた。そこでは何かが売られている様子は伝わってくるが、二人の視点からでは何を売っているのかまでは見えなかった。ただ熱狂した雰囲気があり、我先にと手に入れようとしている様子もあり、二人は気がかりにしている。


「何だ、あれ」


「さあな。我々が無暗に首を突っ込むものではない。買う者も売る者も信者である可能性もあるのだからな。必要以上の接触は危険だ」


 確かにと納得したダリルはコーヒーを飲みきって容器をくしゃっと潰した。そしてそのままシェリーたちの待つ車内に乗り込み、休憩場を後にした。


 車が発進した後、熱狂していた売店はすぐさま解散し、人々は散り散りになった。そして走りゆく車を全員が瞳孔を開いたようなハイライトの消えた瞳で一心に見つめていた。


 それを見ていた者がいる。他ならぬシェリーだ。


「こ、怖いわ…」


「どうした…?」


「今、車を出した瞬間に売店にいた人たちが一斉にこちらを振り返ってギョロっとした瞳でこちらを見ていたの。鳥肌が立ってしまったわ…」


「ぬぅ…やはり奴らは信者たちだったか。急ごう。早く行かなければ。すまないが、他の二班と連絡を取ってくれるか。そこの無線だ」


「あぁ」


 車のスピードを上げて目的地へ急行するハワードはハンドルを握りしめる手に汗をかきながら、ダリルに指示を出す。ダリルは指示通りに慌てながらも無線を手に取り、他の二班へ連絡を取った。


「第一班だ。休憩所で信者と思われる集団を目撃した。F地点だ。そっちでは何かあったか?」


 連絡を取った三班から応答があり、不可解な出来事があったと声が聞こえてきた。


「我々が車を走らせていた時に街の中で『テンシ』という言葉を発する集団を見かけた。彼等の年齢はバラバラ。恐らくは信者だが、デモのように行進をしていた。それを見ている住民も特に不思議そうな表情ではなく、当たり前の光景を見ているようだった」


 テンシと発する集団、それを聞いてオリビアの件を思い出した。彼等もまた同じような集団に接触されていた。ダリルの額から汗が滴った。これは思っていたよりも大きな力が動いているのかもしれない。


 ダリルは無線を切り、思考を巡らせた。まだ目的地までは100キロはある。そこを中心としても全く別方向から向かっている三つの班すべてに信者の集団が接近している。半径100キロ圏内は全て宗教関係者の手が入って居ると考えるとダリルはゾっとして背筋が冷えた。


 そしてダリルはある一つの事に気が付いた。


「おい、そういえば俺達以外で車を使ってる人を見たか?」


「休憩所にたくさんいただろう。多くの車が停まっていた」


「違う。俺達と同じ方向に進んでいる車をクロフォードの家を出てから一台も見ていない…」


「馬鹿な…確かに空いた道路だとは思っていたが…」


 誘導されている…ダリルは感じていた。天から全てを見ている誰かがいる。我々を気の向くままに操作しようとしている存在がいるのではないかと感じていた。


 だが彼等に退却の選択は無かった。もはや退却は出来ないところまで来ていたからだ。このまま引き下がることがプライドを傷つけるだけならすぐにしている。


 だが対向車線から時折来る車を見ると全ての運転手や乗客がこちらを見ているように感じる。それはハワードやシェリーも感じていることだった。


 ダリル達の行動は既に完全に把握されている。他の二班も同様だ。そしてシェリーが『テンシ』であることも把握されている。


 ダリルも大きな力に動揺していた。一刻も早く根本である施設を叩くべきだと、焦ってしまった。ハワードに飛ばせと指示を出したダリルは考えうる最善の策を弾き出そうとしていたが、もはや全て上手くいく算段は立てられなかった。


 しかし焦るダリルとは対照的に、敵からの妨害は何も無かった。車は森へ入り、本格的に山道を登り始めていた。


「もうすぐ着くぞ。施設は目の前だ」


「他の二班とも連絡を取った。どっちとももうすぐ着くらしい」


「算段通りだな。後は始末するだけだ」


 そう簡単には行かないだろう。ダリルは心の奥底で感じていた。とはいえ車を停め、目の前に施設は現れていた。ダリルは過去を思い出してこんな感じだったかと記憶と現実を見比べていた。昔の研究所よりも大きくなっている気がする。


 森のど真ん中にあるのは変わらないが、窓が一切なく、玄関扉も前より分厚くなっている。以前はガラス張りでそれなりに中の様子が見えたはずだと記憶との違いを感じていた。


「他の分隊も到着したようだ」


 他の道から車が二台入り込んできた。それはオリビアらの二班と、三班だった。スムーズに合流し、ダリルの幻術を纏い、玄関扉をすり抜けて中へ侵入した。


 中に入るとすぐに異変を感じた。血の臭いだ。生温い風と共に血の臭いが運ばれてくる。ウっと鼻を抑えたダリルはすぐにシェリーの元へ近づき、手を繋いだ。


「絶対離れるな」


「えぇ。お願いするわ」


 音を立てないように静かに行動をする一行は静まり返った研究所内で微かに音の聞こえる方向へ歩いていた。高い金属音のような音が聞こえてくる。広い研究所内には人もおらず、真っ暗な場所が続いている。


「そこだ…そこだけ電気が付いてる」


 音の方向へ進んでいると光の漏れている部屋がある。ダリルはそこを指さすと突撃する決意を固めた。念入りに幻術はかけてある。何があっても大丈夫なように細工をしてある。


 部屋の脇に身を寄せて、部屋の様子を伺いつつ、機を探る。


 意を決して一行は部屋に突撃するタイミングを見定めた。ダリルが指を三本立てる。一秒ごとに数を減らしていき、0になった時、一気に部屋に雪崩れ込んだ。


 部屋に入った瞬間、シャドウ・セイバーの面々が180°に銃を構えた。しかし部屋には明かりがついているだけで誰も何も無かった。さっきまで微かに聞こえていた音もいつの間にか聞こえなくなっていた。


「ぐあっ…」


 誰もいないはずの部屋でシャドウ・セイバーの一人が銃を弾かれ、手を抑えた。無音の空間で音が鳴り響けば、当然、全員がその方向を向いてしまった。最強と謳われるダリルでさえ、その人間としての本能には抗えなかった。


「ぬあっ!!」


 再び違うシャドウ・セイバーの銃が弾かれる。誰も見ていない視線が外れた場所でそれは起こっていた。不可解な現象に全員が恐怖に包まれた。


 だがそこでどこからか声が聞こえてきた。


「手荒な真似をして申し訳ない。銃を置いていただけませんか。我々とてテンシ並びにテンシのお連れ様を傷つけるつもりはない」


 それは天井に着いたスピーカーから聞こえているようだった。余計な刺激を与えてはいけないと車道セイバーたちは銃を置いた。


 すると目の前にもやがかかり、三人の人が現れた。三人は頭を垂れ、片膝立ちでシェリーに手を伸ばした。


「おかえりなさいませ。テンシ様」


「えっ…えっ…?」


 シェリーは困惑した様子で、彼等を見ては、ダリルの後ろへ隠れた。


「シェリーはテンシ様とやらじゃねえ。お前らは好き勝手にやりすぎた。地獄で詫びろ」


「はて…殺す…我々を誰と存じる? ダリル・エルズベリー」


 三人は頭を上げて、ダリルに顔を見せた。そこでダリルは気が付いた。彼等の正体に。そしてシャドウ・セイバーも一人の顔を見て顔を青ざめさせた。


「奥様…!」


 ハワードが声を上げた。三人の内の一人は死んだはずのクロフォードの妻であった。そして残りの2人はダリルが覚えていた。彼等もまた10年前の事故で亡くなったはずの研究員たちだった。


「我々は既に死んだ身。それをどうやって殺すと?」


「アンデッド魔法か…どこかに操っている奴がいるはずだ。探すぞ」


 

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