表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/50

20 二月 誕生日とともにレベルアップする仲

 その日は二月も終わるという頃だった。


 登校中、電車内でチェックするSNSで、昨夜の持岡さんの投稿が目に入った。画像は何かラッピングされた袋に、小さな用紙に手書きの装飾を施したらしいメッセージカードだった。

 カードのフレームは青の一重線。四角の中に小さなピンクのお花が点々とあり、シンプルながらも可愛らしいデザインだ。そして中央には『Happy Birthday』。素敵なバースデーカードだ。


 コメントをしようとしたら、すでに『可愛い〜! 貰えた人絶対喜ぶ!』と誰かが送っている。それに対する持岡さんの返信は『ありがとう! あげるのは部活の子だからどうだろ〜』。

 はて。私は美術部の人たちと一度会ったことがある。部活としては人数の少ない部で、一年生は特に少ない。持岡さんが〝先輩〟と呼ばない相手となれば、もしや。



 私は思いきって、今日の主役かもしれない人物にずばり直接聞いてみることにした。

 登校して教室に入り、まずは日課の挨拶。


「おはよー」

「あ、おはようございます、山城さん」

「おはよ、萩原くん。ねえ、誕生日いつ?」


 単刀直入。萩原くんは目をしばたたかせた。

 

「ちょっと待ってくださいね。調べていいですか」

「え、うん」

「兄と近いので、よくどっちがどっちなのか混ざっちゃって。一応確認しますね」


 誕生日、お兄さんと混ざっちゃうんだ。そんな間違いあるんだ。萩原くんらしいというか、なんというか。天然なのかな?

 スマホをたぷたぷ操作して萩原くんがハッと息を呑んだ。


「山城さん、今日誕生日みたいですよ、僕」

「そうなの? おめでとう!」

「ありがとうございます。わあ、山城さん絶妙なタイミングの質問でしたね」

「天才でしょ」

「すごいです!」


 私は今日の主役に、萩原くんは自称天才に、お互いにぱちぱち拍手した。




 いや、拍手している場合じゃない。お昼休みになった瞬間、私はコンビニに駆け込んだ。もちろん、誕生日プレゼントとしてお菓子を買いに。

 そこで京と大和に遭遇した。


「あれ、小町。今日は弁当じゃねえの」

「今日もお弁当。その前にお菓子買いに来た」

「お菓子?」

「誕プレなの」

「誰の」

「萩原くん」

「ほーん」


 コンビニで済ませることになってしまったけど、今日お祝いしたいから。誕生日は昨日でも明日でもなく、今日しかないのだ。

 ということで、私は烏龍茶とオシャレなパケのプレミアムなんとかクッキー、そしてミルクティーを購入し、カップラーメンやおにぎりを買った京たちと教室に戻った。



 萩原くんは後方のドアのすぐ近くでご飯を食べているから見つけやすいし、目が合いやすい。にこっと笑いかけると、ぺこっとお辞儀が返ってきた。 

 そのときにじゃじゃーんと烏龍茶を見せる。きょとんとする萩原くんに、私はどうぞとペットボトルを渡した。

 この間多分、五秒くらい。以心伝心アイコンタクト。


「わ、いいんですか」

「あとね、これもどうぞ。ハッピーバースデー」


 クッキーを差し出す。その上に重ねてポテチやらスナック菓子やらが乗せられた。


「萩原、誕生日なんだってな。おめでとう」

「お二人まで……。嬉しいです、ありがとうございます!」


 ニコニコ笑いつつも、申し訳なさそうにそおっとお菓子たちを受け取る萩原くん。

 なんだか最近、萩原くんにお菓子をプレゼントしてばかりな気がする。けど、本当に喜んでいそうな笑顔をしてくれるので、ついつい贈りたくなっちゃうのだ。



 ちあきも呼んで、みんなで買ってきたお菓子も食べながらお昼ご飯を食べる。

 京は担々麺、大和のはカレーうどんのカップ麺だった。スパイシーな香り同士が大喧嘩。ちあきがキレた。慌てて換気のために窓を開ける。


 教室にお昼下がりの暖かな太陽光が差し込み、ひんやりした風が通っていく。春はすでに訪れている。


「まぁ、二月も末なので、ほとんどの人が誕生日過ぎてますよね」


 自ずと、話題は誕生日について。

 祝われすぎて恥ずかしいのか、本日の主役が照れたようにみんなに話を振ると、京がちらっと私を見た。


「や、小町がまだじゃね」

「そうなんですか?」

「うん、来月」


 しかも春休み中の誕生日で忘れられやすく祝われにくい。実はあんまり好きじゃない。去年は誕生日より先に中学校を卒業したせいで、余計に寂しいバースデーだった。

 この話、ちょっと。私はミルクティーを飲みながら、少し話題を変えてみた。内容は前から思っていたこと。


「今は萩原くんのが年上なんだし、ていうかそもそも同級生だし、そろそろ敬語やめてみない?」

「敬語ですか」

「そうそう。丁寧な喋り方も好きなんだけど」


 私的には、もう少し言葉だけでもお近付きになりたいなーなんて。

 同じことを思っていたのか、萩原くんの友だちも「確かに大和たちには敬語じゃん」と返したので、萩原くんは眉尻を下げた。ただいま絶賛困ってますと顔に書いてある。

 そんな困ったさんが、おずおずと上目遣いで聞いてくる。


「でも、あの、タメ口って、恐れ多くないですかね」

「そんなことないない」

「じゃあ、えっと、わかりま……た」

「わかりまた」

「わか、わかった。これでいい……かな?」

「うんうん!」


 私は大きく頷き、ペットボトルを傾けた。今日のミルクティーは殊に美味しい。大当たり。



 

 今日はちあきがバイトの日なので、私は一人で帰る日。駅ビルで春服でも見ようかな。それで、休日になったらお母さんを連れて行っておねだりするのだ。


 春服買ってもらおう作戦を練りつつマフラーを巻いていたら、京が寄ってきた。まだ帰ってないなんて珍しい。

 手は定位置のポケットの中。視線は目を合わせずにちょっと下。声は通常よりやや高かった。


「なあ、帰りなんか食い行かね。予定ある?」

「春服見る、けど、なんか食べるのもいいね」

「なら、なんか食って、そのあと服見よ」


 放課後に京と寄り道して帰るの、いつぶりだろ。いつも愛しのゲームのために速攻で帰るからレアレアのレアだ。


「食べたいの、せーので言おう。せーの」

「ラーメン」

「アイス」

「真逆すぎじゃね」

「ラーメン味のアイス探す?」

「いや、それは……。間を取って肉まんでどうすか」

「あ、今ちょうど肉まんの気分になった」

「助かる。じゃあそれで」


 肉まん、肉まん。けれど、ピザまんも捨てがたいな。鼻歌を歌いながら廊下に向かう。

 教室の前方のドアをくぐりかけ、私は首をかしげた。何か忘れているような。



「あ」


 おそらく、私が気付くのと相手が気付くのはほぼ同じで。

 私が後ろのドアのほうを振り返ったら、萩原くんと目が合った。話し中だったらしい持岡さんも私のほうを見た。その手には何やら袋。見覚えのあるラッピングは今朝画像で見たものだった。

 持岡さん、今からプレゼント渡すんだ。私のコンビニ菓子と違って、しっかり用意したものを。


 美術部はみんな仲が良さそうだから、誕プレを渡すのもおかしくはない、けど。

 なんだか、日課のばいばいが言いづらくなった。


 どうも、とお互い軽く会釈をし合っていると、先に廊下に出ていた京がドアからひょこっと顔を出した。「小町?」と私を呼ぶ。まぁ、たまにはいいか、ばいばいって言わなくても。

 そのまま教室を出ようとしたとき、 


「あっ、あの、倉崎くん、山城さん」


 声をかけてきたのは、萩原くんのほうで。


「今日は祝ってくれて、あり、ありがとう」


 心がきゅーっとなった。お礼を言ってくれる。些細で誰でもできるそういうことを律儀に、そして自然としてくれるところが好きで。

 私は嬉しくて嬉しくて、きっとすーっごく笑顔になってたと思う。


「こちらこそ、喜んでくれてありがと!」


 萩原くんと話す度に好きになる。良いところが見つかって、欠点すら可愛く見えちゃって、好きになっていってしまう。


「では、あの、お気を付け、気を付けて帰って、ね」

「またね、ばいばーい」

「あぁ、じゃあな」


 手を振ってお別れ。あちらの二人も小さく振り返してくれた。



 E組を出てD組、C組の前を通り、B組に差し掛かったところで、京がおもむろに口を開いた。


「あのさ、小町」

「うん?」


 放課になって間もない校舎には、友だちと帰る人や教室に残って勉強している人、係の仕事をしている人もいた。体育館のほうからは運動部の掛け声がして、グラウンドからは爽快なバッティング音が届けられる。

 京は元々声の大きなタイプではないけど、今回は特に大きくなくて。 


「なんで萩原の誕生日知ってたの」


 それは問いというより、小さな呟きに近いものだった。しかし、なんでと言われましても。

 

「聞いてみたら、たまたま今日だったの」

「ほーん」


 何か言いたげな声のトーン。

 思うところがあっても自分からは言わなくて、ギリギリになってから言い出す。京はそういう人で、課題も期限ギリギリになってから助けを求めては大和やちあきに叱られている。

 ここには二人がいないから、私が聞こーっと。


「どうしたの?」

「……んー、肉まんもいいけどピザまんも食いてえなーって思って」


 あー、はぐらかされた。ギリギリになって取り返しがつかなくなっても知らないぞ。

 と、同時に私は驚いた。ピザまん、さっき私が考えてたこととおんなじ。


「なんとびっくり。私もピザまん捨てがたないなって思ってた」

「マジ? じゃあ、両方買って半分こしよ」

「するする」


 横に並んでトントンと階段を降り、靴箱へ。

 外に出れば、冬の太陽はまさに傾き夕暮れ空。ぼんやりした輪郭の背の高い影と低い影を眺めながら、誰にも止められない季節の巡りを感じる。


 冬が終わって春になれば、私たちのクラスが変わる。文理で分かれるから、全員同じクラスになることは二度とないけれど。

 二年生になっても、みんなにおはようとばいばいが言えたらいいな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ