13 一月 アニマルガチャ試しから始まる新学期
あけましておめでとう、世界。
新年早々の運試しは末吉だった。運気が地に落ちていくとしても、そのあとは上昇するしかないので私の未来は明るいということ。実質、大吉である。
ちなみに、大和は本当に大吉だった。
この実質大吉のおかげで、一、二ヶ月に一度ある席替えで私はクラスのド真ん中の席になった。目立つ前方ではないので、先生に注目されにくいということ。実質、最も良い席と言える。
ちなみに、ちあきは窓際最後列の正真正銘の最良席だった。
さて、あれこれ御託を並べたけれど、そもそも末吉は良いのか悪いのか。
寒い寒い朝、教室に半ば早足で入ると、ガンガンに暖房を効かせたぽかぽか空間に包まれてほっとする。朝のホームルームで担任の先生が自動空調に切り替えるまで、一年E組のエアコンはいつだってパワー全開。
机に鞄やマフラーを置いてちあきの席に向かう。
「ちーあーきちゃーん。おーはーよー」
「おはよー、小町ちゃーん! 見て、新春限定ガチャ!」
「わ、カッコいい」
そして始まるガチャ話。
ちあきのスマホの中では、桜舞い散る東洋風の青色の龍がゆらゆら動いている。この動物園ゲーム、伝説上の動物も出てくるんだ。
「ちあきは持ってるの? この桜青龍」
「今から取るの。はい、ここ押して」
「えっ」
ずいっとスマホの画面を向けられる。ま、まさかとは思うけど。
「私が引くの?」
「物欲センサーが無い人のほうが当たるって歴史が証明してる」
「そうなの?」
「だって小町、サマフェスのイルカさん当ててくれたでしょ、ハロウィンの黒ネコさんとクリスマスのトナカイさんも当ててくれたじゃん。実績盛りだくさん」
言われてみれば、過去に何回か引いたときにちあきがすっごく喜んでくれた気がする。けど期待されても困っちゃう。また当てられるかどうか、結局は運だもん。
二人でスマホを見ていたら、ちあきの頭が急に下がった。
「わ、なになに」
「おはー」
「なーにが『おはー』よ。しばくよ、ゴリラ。これ寄越しな」
大和だった。ちあきの頭にペットボトルを乗せたせいで、没収されている。ホットはちみつレモン、美味しそう。
後ろから京もやってきて、近くの机に寄りかかり、ぶるり。
「京、おはよ」
「はよ。今日寒くね」
「グラウンド走ってくれば?」
ちあきがさらっと言い放つと、大和と京が目を合わせて、大げさに「ちあきこわーいっ」と声を上げた。こういうときは息ぴったりなんだから。
「ヤバい、朝からちあきがキレキレすぎる。どうした?」
「今から小町と大事な儀式なの。あっちいってて」
ちあきがしっしっと男子たちを手で払って、私にそっとスマホを握らせる。京たちが「なになに?」興味ありげに見てきたので画面見せたら、二人同時に「あー」と盛り下がった。
「なんだ、またガチャか」
「人に引かせずに自引きしろよ、自引き」
「うっさい。小町が引いたほうが良いの出るんだもん」
「けど私、おみくじは末吉だったよ?」
運、良くないかもしれないよ。
私はみんなの顔を順番に見て、グループで報告し合ったおみくじを思い出した。確か、ちあきが吉、京が小吉、大和が大吉だったはず、ということは。
大和がにやりと口の端を上げた。
「なら、大吉の俺が最強か?」
「おみくじ順だと、多分そう」
「ふうん」
ちあきは椅子にもたれて腕を組み、さらに足も組んだ。私たちを見上げて、ぱちんっと指を鳴らす。何かをひらめいたらしい。
「わかった。あんたたちに一回ずつ引かせてあげる」
「お前は?」
「爆死済み」
「あー……」
ちあきは自分では引きたくないみたい。謙虚なのか高慢なのか、物欲センサーとやらのせいなのか。
一番手は大和。
まずは袖をまくって、ぐるぐると腕回し。次に、両腕を上げて頭の上で組んだ。これ、二の腕を伸ばす運動だ。私も家で時々やってるし、運動部もよくやってる。
さらに大和は足を肩幅に開いて腰を落としてスクワットの体勢に……さすがにちあきがツッコんだ。
「ちょっと、ストレッチしてないでさっさとして」
「せっかちだな。はいはい、じゃあ龍出すかー」
ようやくガチャへ。
ガチャの画面では中華っぽいフォントの『新春限定ガチャ』の文字とともに、青龍が桜の花びらの中でふよふよと遊泳している。大和が『ガチャを引く!』をタップすると、しゃららと音が流れてムービーに切り替わった。
軽トラックが道路を走って、ちあきの動物園に到着。荷台から降ろされたゲージのシルエットがだんだんとアップになって。
「お、光った」
「何色!?」
「銀。ウサギだってよ」
「ウサギさんかぁ。すでに全種揃ってる」
「そりゃ残念」
ぱかっと開いたゲージの上で黒ウサギがぴょんぴょこ跳ねていた。ちあきがウサギを触ると、『所持済みアニマルはクリスタルに変換されました』とアナウンス。
ひえ。動物を石にするなんて、恐ろしいゲームだ。
さて、二番手は京。
「ま、俺がかるーく当ててやりますよ」
ためらいもなく『ガチャ』を押して軽トラックのムービーに突入。降ろされたゲージはちっとも光らずにぱかっと開いた。
「あ、ヘビが出てきた。これはレア?」
「んーん、ヘビさんでレアなのは白ヘビさんだけ」
「角度変えたらこれも白くね?」
「これはどう見ても赤色でしょ!」
そして、赤くて点々模様のついたヘビも石に変えられてしまった。
最後は私の番。
無邪気な動物たちが石に変えてしまうのは可哀想だ。そんな残酷なこと、これ以上見てられない。
せめて、今からやってくる子は石になりませんように。そう祈って私はガチャを引いた。
ムービーのトラックが、ピカピカ虹色に光る大型トラックだった。
「え、なんか俺らんときと違う」
「これは良いやつ?」
「確定演出! 最高レア確定演出!」
ちあきがきゃーっと目を輝かせる。前に引いたときも、こんな感じだったような。まさか被ってる? この子も石になっちゃうの?
トラックから降ろされたゲージのシルエットは大きく、アップになるにつれて虹色にまたたいた。そして画面が真っ白に。
「おお? どうなるんだ?」
「このゲーム、演出凝ってんなぁ」
「なになに!? 何が来てくれるの!?」
「石はだめ、石になるのはだめ」
四人で口々に喋りながら画面を見つめる。
突如、白い煙幕を切り裂くように、轟音を響かせて口を大きく開いた青龍が現れた。その大迫力にビクッと心臓が驚く。龍は画面の向こうでぐるりゆらりと空を舞い泳ぎ、桜の花びらを散らせて天に昇っていった。そのあと陽気な音ともに現れる『NEW! 桜青龍』。
ちあきが椅子ごと転げた。
「え、ちあき大丈夫?」
「やややば、やばやば、えっ、やば、やばいやばいやばい、やばーい!」
まずい。桜青龍と引き換えにちあきが語彙力を失ってしまった。私はなんてことを! 膝を付き、ちあきを抱きしめて顔をうずめる。「やばい」しか言葉を発さなくなったちあき。私はちあきのご両親にどう説明すれば……!
「二人とも落ち着け。ほら、立てるか?」
「いちゃつくのもほどほどにしろって。予鈴鳴ったし」
京と大和に腕を引っ張られて立ち上がる。なぜか二人とも、こういうときは無駄に冷静なんだから。少しくらいちあき語彙喪失劇に付き合ってよ。
悲劇ごっこの演技をやめてスカートを整えていたら、私の前でちあきがにこにこ笑って手を合わせた。
「小町〜! 桜青龍ありがと!」
「どういたしまして」
「ほんとにありがとありがと!」
はしゃぎながらお礼を言うちあきが可愛いすぎて、こちらこそどうもありがとうってやつだ。
さっき悲劇ごっこをして崩れてそうな前髪を整えつつ自分の席に向かうとき、私は視線を感じて教室の後ろを振り返った。萩原くんだ。
新学期の席替えで、萩原くんは廊下側の最後列になった。出入り口を通るとき、顔を合わせることが増えたのだ。
私はとりあえず手を振っておいた。ぺこぺこお辞儀が返ってきた。萩原くん、真面目だなぁ。
挨拶するだけなのに、なんかちょっと緊張する。私たち、どういう距離感だったっけ。なんて話かけるのが自然かな。仲良くなるにはどうすればいい?
最近になって、悩みの種が一つ芽生えた。萩原くんとお近付きになりたい、という悩みが。
吉界隈最弱と噂の末吉だけど、多分良い方なんだと思う。吉ってついてるし、桜青龍出てきたし。
やんごとなき神様パワーで、ついでに私の悩みも解消してくれないかな。




