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11 十二月 待機時間の暇つぶしに昔々の恋物語

『じゃあコーデはふわふわブラックで!』

『男もふわふわすか?』

『女子はともかく野郎がふわふわって』

『ふわふわしな』

『はいはい』

『へい姉御』

『ちゃーんとふわふわしてね

 ではではみんな遅刻しないように〜』

 

 メッセージを送信し、スマホをぽすんとベッドに置く。


 明日は、私とちあき、京と大和でネズミーに行く。

 お揃いの服を買いに行けなかったので、今回は色だけ合わせることにした。テーマは冬にぴったりなふわふわブラック。


 クローゼットを開いて一人ファッションショーをする。差し色は赤にしてネズネズと同じにしよう。バッグやブーツ、ヘアアクセとも合うかのチェックは丹念に。

 遊びに行く前のこの時間は、ドキドキワクワクして大好き。あー、楽しみ!



 

 約束の日は、ぽかぽか日光とひんやり大気のバランスが気持ちいい日だった。

 空はこれほどまでに青かったか、と思うくらいカラッとした晴天だ。天気の良い日を選んだので、これは当然のこと。ネズミーは晴れてなくっちゃ。


「あら、小町が可愛い! これは写真に残さないといけない! 京介、撮りな」

「へい」

「ちあきもミニスカ似合う! 大和たちもあとで撮ろうね」

「はいはい」


 パークにインして、早速写真撮影。

 私はふかふかのダウンジャケットと厚底スニーカーを黒に、ポシェットとゆるふわおさげを留めるリボンを赤にした。名付けてネズーコちゃんファッション!

 ちあきは黒のふわもこな厚手ニットに、ミニスカジーンズで美脚を惜しげもなく披露し、耳には控えめながら上品なイヤリングが輝いていた。センス抜群なクールビューティー!


「三六〇度、あらゆる角度を残そう。ちあきが美人すぎる」

「小町のリボンおさげも可愛いわよ! バックでも撮らせよ」


 遊びに行く度にちあきに惚れ直す。ちあきがきちんと私が気合を入れたところを褒めてくれるところも大好きなのだ。

 腕を組み、肩をくっつけて二人でいちゃいちゃ、を邪魔するようにトンッと頭に手刀が当たった。


「あんのー、相思相愛なのも微笑ましいんすけど、俺らもいるんで」

「ちゃんと黒にしたけど、これで良かったか?」


 京はミニタリー風の黒モッズコートで、細身のすらっとした体型にぴったり。ふわふわファーのおかげでより一層小顔に見える。うう、羨ましい。

 大和は黒のチェスターコートに白のハイネックニットという大人っぽいモノトーンコーデ。シンプルなので、大和の顔立ちの良さが際立っている。


「二人とも良いよ良いよ、最高!」

「普通に良いんじゃない?」

「そりゃどーも」

「これで良かったのか」


 褒めたからか、ネズミー慣れしてないからか、大和は周囲を見回して恥ずかしそうに笑った。


「にしても、全員黒はさすがに目立つな」

「もっと目立つ人たちいるよ。着ぐるみ集団とか、そこらへんにいる」

「着ぐるみ? ネズミーのことか?」

「ち、違う違う! ネズミーくんじゃなくて、ゲストの着ぐるみ集団!」


 慌てさせられた。な、なにを言っているのだ、大和は。夢の世界で夢を破壊する発言は自重するのだ。ネズミーくんに中の人などいるわけないのだ。

 私はメインストリートを指差した。写真撮影会はそろそろお開きにして、本格的にネズミーを楽しみたい。


「もうすぐショーの時間だよ。ネズミーくんたちに会いに行こう」


 さあ、ネズミーを満喫するのだ!




 ショーの時間まであと十五分、というアナウンスが聴こえてきたので、ショーの観覧エリアに行く前にちょっと寄り道。


「小町、俺にこの帽子どうすか?」

「似合う! 帽子は暖かそうだね」

「小町は?」

「今年のクリスマスデザインネズーコちゃんバージョンカチューシャ」

「淀みない呪文詠唱すね。それ、ネズミーバージョンもあります? おそろどうすか?」

「しちゃいます?」

「しちゃいましょ」


 メインストリートのお店でお買い物とか。


「あ、ネズミーだ。独特の動きだな、アニメみたいな」

「ネズミーくん、キレッキレのダンスも踊れるよ」

「へえ、それはすごいな、中のひ」

「あーあー! それは禁句でーす」


 身長を盛れるブーツのおかげで、遠くからでもショーが見れたり。


「次はあれ食べよう。クリスマス限定濃厚ショコラチュロス!」

「え、今もポップコーン食ってるのにか?」

「は? 大和、あんたポップコーンとチュロス一緒にする気?」

「一緒にするとかマジないわー」

「俺が異常者みたいな扱いやめろよ、俺らさっき昼飯とワッフル食ったばっかだろ!」


 美味しい美味しいネズミーの食事を堪能するなど。


「待て、散々食ったあとに絶叫系って、正気か?」

「プレミアパスの指定時間過ぎちゃいそうなんだもん」

「もしかして大和、ジェットコースター怖いのー?」

「いや、怖いとかの話じゃなくて」

「時間ない時間ない! みんな走って!」


 もちろん、大人気アトラクションも忘れずに。


「見て、影がくっついてる。ネズネズの耳のシルエット可愛いね」

「手でハートも作ろ。シルエット映え〜」

「……女子がいちゃついてるんで、俺らもいちゃついとく?」

「お前、マジで言ってる? 俺らはあえてピースにするか」

「ノリノリじゃねえか。いえーい」


 ネズミーはどこにいても写真映えする。なんと、ただの影ですら。




 地平線の向こうに日が沈みかけて、あたりに街灯がつき始めた。太陽がいなくなって、一気に冷え込む冬の夕暮れ。

 私たちは翌朝には忘れているような、どうでもいい雑談をしてアトラクションの待機時間の退屈しのぎをしていた。一日の疲労も溜まってきて、ちょっと口数が減ってきた頃だった。


 前に並んでいる、いかにも恋人そうな二人組みを、京が数回チラ見したあとソッと私たちに問いかけた。


「なぁ。誰か、友だちとか家族以外とネズミー来たことある?」

「彼氏とかとってこと?」

「そう」

「「「…………」」」


 三人でお互いに目配せし合い、流れる沈黙。京のどこか嬉しそうな「マジ〜?」が突き刺さる。なんか、煽られてるんですけど。


「え、お三方とも、マジなんですか」

「京、ちくちく言葉はダメだよ」

「あー、なんか京介しばきたくなってきた」

「ご、ごめんて。大和〜、ヘルプ〜」

「ちあき落ち着いてくれ、俺は警察沙汰になりたくない」


 むすっとしたちあきが、列を仕切るチェーンにもたれて腕を組んだ。ブーツで京をゲシゲシ蹴るも、避けられて当たらない。


「あんただって元カノと来たことないでしょ」

「来てたら俺らに喜々として話してそうだもんな」

「ネズミーってそんな頻繁に来る場所じゃなくね? 俺、夏とハロウィンとクリスマスって一年で三回も来たの初めてだもん」

「てか、そもそも京介ってすぐ別れてたでしょ」

「あぁ、確かゲームのが好きって言ったんだっけ」

「友だちとの通話中に鬼電されたんだもん。俺にはダメな子だった」


 さっきと形勢逆転だ。京が集中砲火を浴びている。三人の中学の話を、そうだったんだなぁとぼんやり聞いていたら、京がふらっと私と目を合わせた。

 しまった、と思った。


「小町はどうなの。彼氏いた?」


 自分に関する色恋話は苦手中の苦手。だからこそ、気まずい雰囲気にならないように、私はわざと明るめの声を出した。


「えーと、一日って含む?」

「まさか」

「だよねー。なら、ゼロ」

「えっ! マジ!?」


 なんとまあ、仲間を見つけたかのような楽しそうな声だことで。一日って冗談だろ、と笑いたげな顔である。

 私も笑えたらいいけど、笑えるようになりたいけど、果たしてどうだろう。「マジマジ。ほんとやばいよねー」と返す私が上手に笑えていますように。



 せっかくのネズミーなのだから、暗くならないようにと努めて笑い話っぽく話し始める。

 主要人物は、まだメイクもしたことのなかった自分と、別のクラスだけど同じ陸上部の短距離走組で、それなりに仲が良かった男子生徒。自主練でも真剣なところや、たまに見せるおちゃめな一面にときめいて、絶賛片思い中の人だった。

 

「あのねー、中二のときに仲の良かった男子が誕プレ欲しがっててね、何が欲しいか聞いたら『彼女』って言われたの」

「あー、たまにいるよな、冗談で付き合うやつ」

「そうそう、完全にそれでさー」


 そうだ。あれは彼は冗談で言っていたのに、私たちは幼かった。あの頃の私たちは人の恋愛事情なんて冷やかすのが当たり前で、恋愛の冗談も何も通じる年齢じゃなかった。

 私も彼も友だちが多いタイプなのが災いして、朝のHR前に付き合い始めたことが、昼休みには学年中に広まっていてゾッとしたことを覚えている。


「みんなから付き合ってる付き合ってるって言われまくっちゃって、私がビビっちゃってねー、一緒に帰ろって言われてた約束破っちゃったんだよねー」


 休み時間も部活中も冷やかされて、好きな人と付き合えているはずなのに喋ることすらままならず、全然楽しくなくて逃げてしまった。友だちからも好きな人からも自分の恋からも逃げて、その日はスマホを見ずに寝た。


「次の日学校行ったら、あの人が『昨日のは遊びだった、小町なんか全然好きじゃない』って言っててねー」


 スマホをおそるおそる確認すると同じ趣旨のメッセージが届いていた。相手は最初からお遊びだったのだ。

 友だちたちには『昨日も全然話してなかったもんねー』と妙に納得されて、私の淡い片思いは誰にも知られず興味本位と遊びで散った。

 

「ってな感じの人が私の元カレ……いや彼氏じゃないんだったー」


 ははは、と笑うも、三人の顔はよく見れなかった。ネタっぽく話せたか、それとも重い空気になってしまったか。ちょっと不安にな、


「えっ、じゃあ小町的には、初めての相思相愛は私ってこと?」


 不安になりそうな気持ちは、ちあきのきょとんとした声で塗りつぶされた。そ、相思相愛と言われると照れるんですけれども。


「そ、そうかも」

「やだ〜! なにそれ最高なんだけど!」


 歓声とともにぎゅっと抱きつかれた。ぱちぱちとまばたきして固まる私の視界で、京と大和がまーた始まったぞ、やれやれと呆れ笑いしている。なんだかつられて、私の表情筋も緩んだ。

 なんだ、なーんだ。案外、昔の黒歴史って誰かに言えちゃうんだな。ちょっぴりスッキリした気持ちで、私はちあきのふわふわニットに顔を埋めた。



 気付けば、前の人との距離が空いている。ネズミーは待機列周りの内装も凝っているので、ちあきと腕を組んではしゃぎつつ自撮り動画を撮影して進む。

 ぐるりと回って、遅れてやってくる京と大和をカメラに捉えた。


「隙あらばいちゃついてるな、あの二人」

「野郎が寄り付かない原因、あれだろ」

「お、野球部の人、諦めた?」

「脈なさすぎるってさ」

「へえ」


 ボソボソ何か喋ってる。早くおいで。アトラクションの乗り場が見えてきたよ。手招きして二人を呼び寄せる。


 これに乗り終わったら、クリスマス限定メニューのターキーレッグを食べたいし、ナイトパレードを見たいし、ライトアップされたクリスマスツリー前で撮影会をしたい。

 四人の友情が深まった今、さらにクリスマスネズミーを満喫しまくるのだ!

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