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起きたくもない朝をまた迎えて、ヘアアイロンのスイッチを入れる。

作者: 莉云ラム

第一幕 「華面」 

 寒くも暖かくもない中途半端な夜に、少女のような出立ちをしたいかにもイマドキな若者がネオン街で佇んでいた。

 軽快なBGMと明るい女性の声がつんざく。友人は流れ作業のように画面の指示に従う。あ。その背景はインスタ投稿の系統揃わないからやめてほしい。思っても口に出せない。友人の後を追うようにカーテンをくぐってポーズも合わせることしかできなかった。気づけば既に『#プリント倶楽部』と添えてあるストーリーがアップされていた。

 帰宅してお風呂も夕食も済ませ、のんびりしていると友人から連絡がきた。

 「ねね!今日撮ったTikTokバズりすぎ!ユウのおかげでフォロワー増えたわあざす!可愛いってよ」

 また許可なしでSNSにアップしたのか。最後の「可愛いってよ」がまるで「なんであたしじゃなくてあんたなんだよ」と、皮肉っぽく言われているように感じて素直に喜べなかった。

 見せているものが全部じゃないのにー。


第二幕 「廻夢」

 その件を機にSNSのフォロワーが急激に増え、あっというまに二十万人まで達した。自分なんかを推してくれる人までできてしまった。

 『ユウちゃん可愛すぎ大好き!』

 毎回自分をコメントやDMで褒めてくれて嬉しい反面少し照れくさかった。

 だがマネージャーからはもっと集中しろと指摘を受けた。

 『骨格がもうだめだろ笑声もきもいし』

 『加工魔』

 もう言われ慣れた。有名になるにつれて多くの意見を浴びた。

 ずっと応援してくれる人。不快になることを何度も送ってくる人。世の中には色んな人がいると全身で痛いほど感じた。でもこれが自分の望む景色だから。夢だから。SNSを何度も辞めようと思ったが辞められなかった。

 ある日ファンから自分の自宅の写真が送られてきた。バレていた。インフルエンサーとして仕事をこなし、それなりに充実する夢に取り憑かれた結果がこれだ。

 家に帰るのが怖かった。だから身を委ねた。中途半端な夜に。


第三幕 「光徊」

 寒くも暖かくもない中途半端な夜に独り、ネオン街で佇んでいた。この気持ち悪い空気に親近感を感じ、気づけばこの夜に吸い込まれていた。ネオン街がいつもよりやけに眩しかった。

 今日の事を伝えなきゃ。細かく振り返りつつ画面に向かって文を綴る。次第に自分さえも振り返っていた。

 二十三時二十七分。自分はどんな人間だったろう。

 周りに埋もれて生きる人間だった。特技もなく、おもいっきり愛されたこともない。容姿に自信も特にない。

 二十三時三十分。過去に非難をよくされていた憶えがフラッシュバックした。

 二十三時三十二分。自分はこの空気のように何もかも中途半端な人間だった。インフルエンサーなんて向いているのだろうか。この場から遠のきたいという衝動が襲ってきた。

 二十三時三十七分。ネオン街に背を向け人気の少ないところへ歩いた。

 二十三時四十分。自分は認めてくれる居場所が欲しかった。でも認められるような人間ではないのではないか。取り繕ってていいのか。本当の自分が押し寄せてきて、逃げるように別の光へ闇の中を走った。

 二十三時五十一分。あたりは静まり、相変わらずSNSの通知だけが鳴り響いていた。


第四幕 「無題」

 自分は中途半端な人間です。皆さんが憧れるようなキラキラした完璧な人間じゃないんです。皆さんの見ているそれは自分の理想です。ユウちゃんになりたかったんです。認められたい。生きてる実感が欲しい。愛されたい。居場所が欲しい。痛い。辛い。自分が嫌い。痛い痛い痛い。助けて欲しい。しんどい。生きたい。見せているものが全部じゃないのに。誰も何もわかってない。

 だって僕、男の()だよ。

 まあそんなこと伝えられるわけもないと削除ボタンを連打し、まだ暗い部屋の中目を閉じた。寝たのかハッキリしない。じきに鳴るアラームを止めた。

 起きたくもない朝をまた迎えて、ヘアアイロンのスイッチを入れる。

                 完

 今の時代だからこそ読んで欲しい物語です。

何度も読み返してラストに繋がる表現や仕掛けを探してみてください。

 今、現代の起こりうる問題によって頭を抱えている人や悩んでいる人、自分に自信が持てない人、毎日がつまらなくて自暴自棄になっている人。そんな人の心に寄り添えますように。逆もしかり、自分が誰かを傷つけてしまっているかもと心当たりのある人。そんな人は自分の行動を振り返ってみてください。一呼吸おいてみてください。少しの勇気でまだいくらでも良い方向へ変わることができます。

 これを読んだ多くの方々が起きたいと思う朝を迎えられますように。

 ここまで読んでくださり有難う御座いました。

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