当たり前だが俺は俺で王女は王女、でも俺は王女で王女は俺だった①
俺は二人に秘密にしていることが出来なくなっていた。
「実は、ここに魔導士が居るらしいので会うことにしたんだ、ただし魔導士ソラニンはもう亡くなっているらしい」
「「どういうことですか?亡くなった人間に会えるのですか?」」
二人の声が揃った、当たり前の疑問だな。
「えっ?」
カルミラが何かを思い出したようだった。
「魔導士ソラニンですって?」
「そうだ、ソラニンだ、知っているのか?」
「私が世界を渡る禁忌の方法を研究している時に彼の書物を参考にしていました、王女が渡った後なのに世界を渡ることは不可能だと記載されていました」
「それは変だな、まるで世界を渡れることを隠しているかのようだ」
「でも結果的に私は彼の書物を参考にして王女様を迎えに行く方法を構築できました、本当に大事な部分がぼやかしてありましたので大変でしたが、全く理解できない訳ではないという内容でした。そうまるで時限設定でもするかの如く完成までの日時が設定されて居るかのようでした」
「そうか俺も不思議だったんだ。なぜお前達と同じ年齢に見える時に迎えに来られたのかとかね、尤も実年齢は違うけどね・・たぶん迎えに来るのが遅くても早くても君たちと年齢差を感じただろう」
「まさかとは思うが、王女の考えを実現させるために、魔導士ソラニンが全て考え出したことなのだろうか?」
俺は先程作った水素入り結界風船を作り、今度は見えるように少し色を付けた。
「これに乗ってくれ」
不思議なものを見る目で見る二人。
「「何ですかこれ?」」
「雲だよ、筋斗雲さ」
「「筋斗雲?、なんですか?さっぱり分からない」」
「そうだろうな、筋斗雲というのは・・・」
そんなことを話しながら、筋斗雲は雨雲の上にまで浮かび上がって、その後空をゆっくりと進んで行った、やがて雨雲は晴れて地上が見えてきた。
「あれだな」
そこは小さな岩が突き出たところ。
岩の割れ目に人が入れる隙間があるのだが魔法で見えなくなっている。
その近くに着陸した。
「あまり長い時間出て来なかったら迎えに来てくれ」
そう二人に告げると俺は一人でその隙間に入って行く。
中は暗い、でも目が慣れてくると奥が見えてきた。
木の引き戸が見えた、その扉を開くと中に明かりが点いた。
だが奥にあるものに驚いた。
「ミイラ!?」
その時、声が響いた。
「久しぶり王女様、どうやらお迎えも成功したのですね良かったです」
「貴方は?」
そう話しかけたがミイラはなんの反応もない。
だが暫くするとまた声が聞こえて来た。
「王女様、既に私はこの世にはおりますまい、貴方を再度迎えることが出来ず申し訳ありません、今貴方に話しかけているのは私の残留思念です。お話し合いが出来ず申し訳ありません」
「今王女様がここに居ると言うことは、カルミラに与えるように仕向けた書物が、思惑通り貴方をこの世界に連れ戻すことに成功したと言うこと。そして予言者パーラムンに私の所へ来るように言ったことが実現されたと言うことですね」
やはり魔導士ソラニンが全ての筋書きを作ったことなのだ、成功確率など、殆どなかった予言者すら戻る方法が無いと言ったこの計画をこの魔導士の考えた奇策により成功したと言っても良いだろう。
「では貴方からお預かりしているものをお返しいたします」
そういうと何らかの魔術が発せられるのを感じた。
壁が開いて行く。
壁の中から透明なカプセル状の棺桶のようなものが出現した。
中身は女の姿があった。
その女の姿に見覚えがあった。
「王女様、お預かりしていた貴方の体をお返しいたします」
「返す?返すって言われてもどうしたら良いんだ?」
だが声はそれで終わった。
「魔導士ソラニン、おい、おい、どうしたんだ、どうしろと言うんだ」
俺の声が空しく部屋の中に響くだけだった。