俺の国?女王になるとき(1)
朝目覚めた、胸が痛い……
「えっ……」
胸が大きくなっていた。
そして、あの時の記憶が戻って来て、慌て始める。
「えっ、無くなってないよな」
咄嗟に下半身を触るが、一物は存在していた。
あの師団長は女性ホルモンと言っていた、多分大丈夫だ、ほんの数日で元に戻るさ。
物音で気が付いたのかガルミナの所の侍女が部屋にやって来た。
「王女様お目覚めに成りましたか、何処か痛むところとかありませんか?それとお食事は大丈夫でしょうか?」
「いや、問題ないし食事も今は良い、ところで俺は何処くらい寝ていた?」
「そうですね、ちょうど一週間です、それと皆様を呼んで参ります」
そういうと侍女は部屋を出ていた。
一週間?その間も胸はこのままだったのか?
まさか元に戻らないとか?
……そんなはずは無い、そう思い込もうとしていた。
「ガルミナ大丈夫だったかな?」
たしかに応急処置はしたが完治はしていなかったはずだ。
しかし、ガルミナを心配とは驚きだ、胸が大きくなると母性本能が強くなるんだろうか?
世話の焼ける子ほど気になるという訳だろうか?
ははは、おかしいな、そんなことが心配になるなんて。
俺は人殺しになった、それも何の感情も無いんだ。
そんなことをして「人として何かが欠けている」と言われても仕方が無いだろう。
親が泣いているのでは無いだろうか?
正当防衛だとも言えなくもない、でもやり方があったはずだ、捕らえるとか……
そんなことは思いつきもせず、あっさり命を奪った、やっぱり人でなしだ。
「王女様、目覚めたのですね」
カルミラが入ってきた、そして元気がない俺を見て心配してくれた。
「何処か痛いのですか?」
「何処も痛くはないよ、強いて言えば胸が重い」
「またまた、まだAカップですよ、もっと大きくなったら大変ですよ」
「術式では無いんだから、胸はこれ以上は大きくならないだろう?」
「いえいえ、女の子の胸は恋をするとホルモンが出て大きくなるのですよ、大丈夫Bカップは問題は無いと思います」
「俺は男だと言ってるだろ、第一男が恋をして女性ホルモンが出るわけ無いだろう」
「大丈夫ですよ、王女様なら何でもできますよ、あの師団長を倒したのですから」
「違うな、『殺した』だ、俺はただの人殺しだ」
「あのままでは私やガルミナも危なかったのです、王女様が居なければどうなっていたか、王女様は自分のしたことを卑下しすぎです」
「でも『殺した』それ以外の何物でもない、なのに俺には何の感情もないんだ、どうしてだろう?」
「王女様が強いからです、蚊を殺すたびに後悔する者は居ませんよ、それと同じです王女様とバースレイの力の差なのです」
カルミラは俺の肩に手を添えた。
「王女様、第八師団は一番外側の守りをしています、そしてそこではいつも小競り合いが起こっていました。バースレイはそのことを良いことに、国境の多くの人を捕虜とし捉え、奴隷同様に扱い殺してきたのです。バースレイこそ人として最低の人間なのです。人として最低のバースレイが王女様に手を出したのです、器の差が出たのでしょう。王女にはバースレイに『人として同情出来る感情が全く湧くことが無かった』のです。感情が無くて当たり前です」
カルミラは俺の肩に顔を乗せ、耳元で囁くように呟いた。
「王女様が気になさる対象ではございません、それよりも王女様は多くの者を救ったのですよ。彼らが王女様に会いたいと言っておられます会ってやってください」
思い当る節と言えば、ガルミナのことだろうと思った。
「そう言えばガルミナは元気か?」
「はい、あの後教会の聖女達が治療を行い完治いたしました。そうそう教会の聖女長が一度会いたいと言っておられましたのでこちらにも会ってください」
「ガルミナに会いたいんだけど、この格好じゃだめだな、俺の服を持って来てくれ」
「はい、直ぐにお持ちいたします」
しばらくするとカルミナは数名の侍女を連れてやって来た。
「おいおい、大勢だな……」
「えっ?」
俺はあっという間に裸にされて侍女たちはあちこちメジャーで測定しだした。
「まずは下着ね」
「胸は80Aで大丈夫ですが左右の形に違いがあります」
「了解しました少し左右のカップの大きさとパッドの位置や大きさを変えます」
「お尻のサイズは少し小さいですが、パッド入れましょうか?」
「ウエストは補正出来るように……」
……
なんかあちこち測定されてその場で、下着やらドレスが出来て行った。
驚くほど素早く出来上がり、着せられた。
「「「なんてお似合いなんでしょうか?」」」
全員一致の意見だった。
なんとも胸が窮屈だった、もっときっちりと抑えられるものと思っていたが?
「胸は揺れて大きくなるのです、今はゆらゆら揺らして大きく出来る洋服をお勧めいたします」
と言われたが、胸を大きくする気は無いのだが……
寝かされて居たのはガルミナの城だったので彼の部屋に行った。
「ガルミナ、居るか?」
ガルミナは忙しそうに書類を書き込んでいた。
「元気そうでなによりだな」
そんな軽いノリで話を始めたが、思いもよらない言葉が帰って来た。
「王女様、バースレイを倒した時の王女様の力、今こそ、この領地をお返しする時であると決心しました。この領地を受け取り国を再建ください」
いきなりの発言、驚いて言い返せる言葉が浮かばない。
「お前はどうするんだ、住むところが無くなるぞ」
「もしよろしければ新たな国の国民にでも加えて頂ければ嬉しいです」
国を持つ?
つまり俺が王女から女王陛下になるという訳か?
そんなこと俺に出来る訳は無いだろう?
「王女への戴冠式と新たな国の再建宣言の日程を調整しましょう」
おいおい、どこまで行くんだよ。