襲撃(1)
世の中とは理不尽なものだ、俺には何のことか分からないことで狙われているらしい。
王女ではない、見れば分かるだろう男だよ……なんで王女なんだよ~
カルミラに連れられて逃げた、ガルミナにはとりあえず森まで行けと言われた。
情けないことに先に走るカルミラに追いつけない。
カルミラは後ろを見るたびに俺を待つという効率の悪い走り方をしていた。
「大丈夫ですか、王女様」
「大丈夫だ、カルミラは走るのが早いな」
誉め言葉のつもりだったが、あっさり否定された。
「身体強化ですフレイムを集めて、その力を体に宿すのです、王女様にもできる筈です」
「いや、出来ないから、それは多分変換不可能な術式だから……。
フレイムを体力って……どんなファンタジー変換術式だよ」
「おかしいですか?特に問題は感じませんが?」
俺にはその変換術式は出来そうも無かった……
ドッドド~ン
後ろの方で爆発が起きた。
「ガルミナが交戦状態に入ったようです」
カルミラがそう言うので、後ろを振り返える。
「えっ、空を飛んでいる……」
「獣魔法ですね、羽を生やすことで空を飛んでいます……」
元素の力で飛んでいるというより単純に羽が生えて飛んでいるのだ?
最早元素ってなんだろうという疑問符が踊る世界に突入していた。
「あれもエレメントの力なのか?」
「あれは『プランツ』のエレメントの眷属で『ベスティア』のエレメントです
やっぱりそれなりの常識がこじつけられているようだった。
「王女様急ぎましょう、捕まれば私達が足手まといになる可能性があります」
たしかに、ガルミナと城の衛兵が一緒に三人の守護神を相手に戦っていた。
俺たちが捕まればガルミナ達は戦えなくなるだろう。
ガルミナは三人を何とか退けて、こっちに走ってこようとしているが難しい状況だった。
だが、遅かったようだ。
相手は空を飛んでくるのだ、師団長とかいう奴と五守護神とかいう二人がこちらに迫ってきた。
三人がカルミラと俺の前に立ちはだかった。
「これはこれは、バトリア国軍の第八師団長バースレイと申します。初見ではございますがシムール王女とお見受けいたします」
「それとカルミラ様ですか、淫魔法を使えるお方二人にお会いできて私は幸運です」
バースレイという師団長のいやらしい視線が俺とカルミラに向けられていた。
「後でお二人には楽しませていただけそうで嬉しいですね。おおっ、シムール王女は世界を渡られたと聞きましたが、なるほど異世界の肉体を得たのですね」
そう言うと素早く俺の傍に着て俺を担いで空を飛んだ。
「カルミラ様もお連れしろ」
付き添いの守護神に命令すると俺の方を見まじまじと見るバースレイ。
抱えられて身動きが出来ない俺の顔を舐め回すかのように見る。
「素晴らしい、なんと薄い皮膚なのだ、持っていたところがピンク色に変わっているではないか、これは本当に面白いアクアの元素のみではなく、この王女の肉体は我が王も喜ぶだろう、良い王への良い土産が出来た」
「放せ、放せ…」俺は抵抗し何度も放せと言うが、放す訳がない。
いや、ここで放されたら落ちるだろう。つまり死んでしまうな。
下ではカルミラが二人に囲まれフレイムの火炎の魔法で対応しながら俺を見て何かを叫んでいる。
そう言えばガルミナはどうしたんだろう?
ガルミナのいる方向を見ると血まみれになったガルミナが剣を必死に振りかざしながら戦っていた、相当深い傷を負ったようだった。
バースレイという師団長のいやらしい視線が俺の胸元に集中していた
「王女様、衣装と体が合っておりませんな。魔法はお使いに成れないようですね。分かりました私目が衣裳に体を合わせて差し上げましょう」
そう言うと爪の先がとがり、俺の腕に何かを注射した。
「魔法などでは一時的なものでしょうからな。我が王の元に差し出すときには王女と分かる体にしておいた方が良いでしょうからね。大丈夫ですよ女性ホルモンです、これで王女の体は女らしくなりますよ」
男と女の違いそれは染色体の一部の違いだ、見かけ上の大きな違いは思春期以降に起こるのだが、思春期の違いは実はホルモンが引き起こしている。
簡単に言えば女性ホルモンを注入されることで男の体は見かけ上は女性化する。
一回のホルモン注射では通常は変化は少ないはずだ、だがこの世界の常識は元の世界の常識とは違う。
俺の体がおかしい、胸が張ったような状態になり、乳房の中心辺りが腫れたように物凄く痛い、なんかお尻も大きくなって、体全体にふっくらとしたような感じがする。
ただし、気分は最低だ、吐き気がする上、胸の張りと腫れが痛い。
バースレイという師団長が喜びながら何かを叫んでいた。
「おお、胸に魔乳のシミができている、これはもったいない」
魔乳とは生まれたばかりの頃、男の子であっても母乳が出る場合がある。
これを魔乳と呼ぶらしい。
今大量に女性ホルモンを注入された俺は乳腺の急激な成長により魔乳が少し出たようだった。
「ふふふふ、役得だ」
バースレイはそう叫ぶと俺の着ている服の右胸辺りを破り捨てると俺の胸に吸い着いてきた。
胸の張りは物凄く痛い、その上乳首もはれ上がったかのように痛かった。
そこへ吸いつかれた俺は一瞬立ち眩みのように脳がブラックアウト・・・というか立ち眩みのようになった。
いや立ち眩みがしたように思えただけかもしれない。
いやそれとも感覚が違うな?なんか変な感覚だ、なんか落下しているような気がする?
少しすると気のせいでは無いことが分かった、俺は落下していた?
(このまま落ちたら死ぬな)そう思った。
しかし暫くすると守護神とかいう奴に俺は抱きかかえられた。
そのままカルミラのところまで連れて行かれた?
その後なぜかカルミラに俺は託された。
今まで戦っていたんじゃないのか?
その守護神は物凄く怒っていた。
「よくも、よくもバトリア国の兵などに、ゆるさん!!」
そう言うと守護神はそのまま空に飛び上がり、バースレイに向かって行った。
「どうなっているんだ?」
そう俺が呟くと、カルミラの方を向いた。
カルミラは俺の顔を見て不思議そうな顔をしてしていた。
「王女様から淫魔法による催淫の力だと思うのですが、大量に溢れたのです」
カルミラは不思議そうに続けた。
「王女様の淫魔法はピンク色なのですが今回は紫色の催淫が放たれました。その後五守護神がバースレイ師団長に向かって行ったのです。王女様の力が守護神たちを催淫したのではないでしょうか?、とにかく今は逃げましょう」
そうか、目の前が暗くなったのではなく俺の周りが光ったのか、でも守護神とかいう戦闘員は催淫で催眠状態にでもなったのだろうか、ただ何も命令していない催眠なんてあるのだろうか?
逃げましょうというカルミラに賛成したいが、ガルミナが心配だった。
「王女様いけません、今は逃げなければ……」
カルミラのことばも聞かずガルミナの所に走っって言った。
ガルミナは相当深手を負って倒れていた。
「王女様逃げてください……」
ガルミナは譫言のように繰り返しながら、俺のことを心配していた。
傷口を早く塞がなければ、そう思うと魔力を込めて術式を作り始める。
傷口を感じながらガルミナの体中の血小板や白血球のを集め始め治癒の処理を始めた。
「おい、元気出せよ、俺は元気だ、お前も元気出せよ、死ぬなよ・・・」
ある意味勝手な言い草でガルミナを元気づけていた。
「死なせて堪るか!!」
学生時分の生物の授業では覚えた骨や筋繊維を思い出しながら、術式を作り修復していく。
追いついてきたカルミラが俺を急がせる。
「王女様、今はお逃げください」
カルミラが俺の手を引っ張る、でも俺はその手を振り払った。
必死だった『ガルミナを死なせてはいけない』その思いだけだった。
ドド~ン、ドド~ンと爆発音がして次々守護神達が落ちてきた。
「応急処置は済んだかな……」
そう言いうと空を見上げた、残った二人の守護神とバースレイが対峙していた。
「よくも謀ったな、我が王の国を裏切らせバトリア国の兵などに、ゆるさん!!」
「お前たちは我が王の覇気により自ら王の部下となったことを忘れたか?」
「だから自分が許せないのだ」
そう言うと二人はバースレイに向かって行った。
今はまだ、ガルミナを動かすことは出来ない。
なんとか対策を考えなければならない、
バースレイの体は何か見えない結界のようなもので包まれている。
その結界は物理攻撃を通さないようだった。
だがバースレイ自体は見えているのだ結界は透明なのだろうか?
そう思うと、ある考えが浮かんだので術式を組み始めた。