エピローグ-1
本日は二話投稿します。1/2
食事を終えた私はお寺に行ってみることにした。大きな森の側に古びた山門を見つけて階段を上る。5分ほど登った先の境内では二十人ほどの子供が駆け回っていた。傍で見守っている女性は保育士さんだろうか。それ以外の人影は、本堂近くで掃除をしている寺男だけだ。
「あら、どちらさま?」
お寺の境内で子供達の相手をしていた若い女性がこちらを向いた。子供達が駆け寄ってくるのを見つつ、挨拶する。
旅行中にふと立ち寄っただけの者だと自己紹介すると、本堂で冷たい麦茶を振る舞われた。やはりここは保育園として使われているようだ。初対面の私に相手をせがんでくる子供達に折り紙を折ってやりながら、女性ともう少し話をしてみた。
「そんな話になっているの!?」
食堂で聞いた話-昔むかし、この森に入ろうとした男たちが妖怪に殺される事件があった。その時から、この森には妖怪の姫と、遠い異国から流れ着いた、やはり妖怪の用心棒が棲んでいる。妖怪たちは今でもこの森にいて、地元の人は絶対に入らないよう子供達に言い含めている、という話をすると、寺の女性は笑い転げた。
「見ての通り、ここはただのお寺だし、森もただの里山ですよ。檀家さんも減っちゃって、お参りに来る人もほとんど見ないけどね。暇つぶしを兼ねて保育園をやってるんです。近くの子供達が来てくれて毎日賑やかよ?」
女性はおかしそうに言う。確かに、本堂は別に廃屋のようでもなく、聞いた話のような恐ろしげな妖の棲家にはとても見えない。まあホラ話だよね。
「まあ、川向こうの人たちはね。最近になって川向こうの田んぼがすっかり宅地になって、--で働く人たちが住むようになったんだけど、そのあたりの人たちはこっちに馴染みがないから」
女性はここからクルマで一時間ほどの県庁所在地の名を挙げて言った。この寂れた街は近年ベッドタウン化していて、新しい住民が増えているようだ。
「川向こう?」
「ええ、この街はxx川で区切られてるの。森の高いところから見たら、よくわかると思うわ」
なるほど、食事をした商店街のあたりが「川向こう」らしい。すると、近くで私たちの会話を聞いていた子供の一人が声をかけてきた。
「なあ、見てみたいか?」
年長ぐらいの、年の割に大人びた印象がある男の子だ。黒いTシャツを着ている。私はしゃがんで男の子に目線を合わせてお願いしてみた。
「見てみたいな、案内してくれる?」
男の子は偉そうに胸を張って言った。
「よかろう、特別に見せてやろう」