プロローグ
久々の投稿です。今回は前作とはがらっと変わった内容になります。
その森には絶対に近づいてはいけない。子供達はそう教えられているそうだ。
中国地方のとある市。私はふと興味を惹かれてここで途中下車した。中国地方をぶらりと観光旅行している途中だ。
改札を出た駅前のロータリーには数台のタクシーしかいなかった。別に当てがあるわけでもない。私は駅前の案内板で見た中心部の方に向けて通りを歩きだした。
かつて賑やかだったと思しきJRの駅前はシャッター通りになっている。予想より少し規模が大きく見えるのは、駅にかつて急行が停車していたからだろうか。
スマホで周辺地図を確認する。駅前通りに代わって栄えるようになった高速のインターに続く道にはロードサイド店が並んでいるようだ。どこにでもある、ありふれた衰退しつつある地方都市。そう思った。
東京でも食べられるチェーン店に入っても面白くない。私は市役所の支所と小学校があるらしい地区に向かった。想像通り、そこには小さな商店街があった。ここは駅前ほど寂れた印象がない。おそらく、高速のインターに近いからだろうか?川を挟んだ遠くの方角に里山のような森が見えた。かなり大きな森だ。田舎にはまだまだ自然が残っているのだな。神社か城跡でもあるかな。
お腹も空いたし、足も疲れてきた。適当に見つけた食堂に入って昼食をとることにする。野菜炒め定食は可もなく不可もない味だった。少し時間帯が半端なのか、客もまばらな店内で私は店のおばちゃんに聞いてみた。
「すみません、ちょっといいですか?東京から夏休みで旅行で来てるんですが」
おばちゃんは喜んで話相手になってくれた。この街の名物、お土産、見どころを聞いていく。と言っても、あまりめぼしいものはなかった。
「遠くに里山みたいな森が見えたんですけど、神社とか、お城の址でもありますか?」
私は旅行先では努めて名所旧跡を訪ね歩くことにしている。お寺、神社、古城とかは大好きだ。
すると、おばちゃんは少し顔をしかめて、意外なことを言ってきた。
「ああ、あの森はね、近づいちゃいけない」
「え?」
「妖の森って言ってね。古い言い伝えなんだ。このあたりじゃ、子供にもよく言い聞かせてるもんだよ」
そうしておばちゃんが教えてくれた話は、こんな小さな食堂で語られるにはそぐわない、血沸き肉踊る奇譚だった。
次回から本編になります。