無双連撃 — Critical Rush — (2)
eスポ甲子園東京予選リーグまで、残り1か月。そこから、ダイチとゴウの地獄のような特訓の日々が始まった。
まずは、必殺技コマンドを全て覚える事から始めた。ダイチは、涼の必殺技コマンドを覚え、ゴウは、「マックス」の必殺技コマンドを覚える事になった。ダイチは、涼の必殺技である「流星拳」を乱発しがちだった為、「疾風脚」と「聖空拳」を覚え、それを組み合わせて、発動する様にトレーニングを行った。ゴウは、元々攻撃主体型のプレイスタイルだった為、より素早くコマンド入力して、連続して必殺技を発動する様にトレーニングをした。ダイチとゴウの指が痛くなったが、すぐに水道水で冷やしてトレーニングを再開する。
これが2週間続いた後、突然、笠原先生がやってきた。
「おはようさん。さーて、テストするか。」
突然の無双連撃のテストが行われた。ケンジとショウゴは、内心苛立っている。
テストは、トレーニングモードでダイチとゴウのどちらかが、必殺技を出す。出している間は、相手は攻撃してはいけない。
「それじゃ、まずは、ダイチからやってみて。」
笠原先生の声かけと同時に、ダイチは必殺技コマンドを入力した。ダイチは、自分の最大限の力で早く入力する。涼は、必殺技を発動しまくっている。これには、ショウゴも驚きを隠せなかった。
「たった2週間で、ここまで・・。」
どうやら、ダイチは成長スピードが速いのだろう。笠原先生も感心している。
「2週間で、ここまでとは凄いねぇ。今日は、ふらっと来ちゃったから、そんなに期待してなかったんだけど。」
と言った時、ケンジとショウゴは、
(せめて、次に来る日にちを、俺たちに伝えておけよ。)
と思っていただろう。今回もいきなりふらっと来て、突然のテスト宣言だ。
「ただ、全体的に粗が目立つ。もう少し、練習した方がいいかな。」
と笠原先生はダイチにアドバイスを送った。
続いて、ゴウの番になった。
ゴウは、必殺技コマンドを素早く出しまくった。一見、無双連撃が完成されているかの様に見えた。ショウゴも、
「凄い!もうこれ、無双連撃ですよ!」
と言ってしまうぐらい完成されていた。
笠原先生も、
「確かに。完成されているね。」と言ったものの、内心は違った。
(無双連撃から、かつてのゴウのプレイに感じられた勢いが消えている。)
笠原先生は、違和感を持った。なぜ、彼の攻撃から「かつての勢い」が感じられなくなったのか?
無論、それを一番分かっていたのは、ゴウ自身だったかもしれない。
ゴウは、最近になって、胃や背中の方に重苦しい違和感を感じることが多くなってきた。ただ、ずっと起きる訳ではなかったので、そんなに気にする程ではなかった。
しかし、テストの時に違和感が出てしまったのだ。背中が重苦しい。それでも、プレイを続行した。
「はーい、OK!もう、いいぞ。」
この笠原先生の言葉を聞いて、内心ホッとした。精神的に、かなり限界だった。
「まぁ、とりあえず、合格ってとこかな。後は実戦形式で練習して、予選当日まで物にしといて。じゃあ、俺はやる事あるんで。また来るね〜。」と言って、笠原先生はPCルームから出て行った。
(だから、いつ来るんだよ・・・。)
と、全員心の中で突っ込んだだろう。
部活終わり、ダイチは珍しく、ゴウをゲーセンに誘い、一緒にアキバ駅近くのゲーセンに行った。
ダイチは、当初ゴウと一緒に格ゲーフロアへ行こうとしたが、ゴウは、何かを見かけたのか、
「あ、ちょっと待って。俺、音ゲーフロアに行くわ。ちょっとやりたいゲームがあって。」
と言って、音ゲーフロアに言ってしまった。ダイチは、多分マサトの事だろうと察していた。
ダイチはメッセージで、
「俺、格ゲーフロアに行くから。」
というメッセージをゴウに送り、格ゲーフロアに行った。
格ゲーフロアには、色々なゲームが置いてある。ダイチが、格ゲーフロアを歩いてると、ゲームプレイ音が聞こえてきた。近くに行ってみると、白髪色白で赤い瞳の少年が、黙々と格ゲーをプレイしている。
凄い手捌きだった。コマンド入力が目に見えない程早く、正確に打っている。ファイターは、尋常じゃない攻撃をし、敵を瞬殺している。
やがて、飽きてしまったのか、その子は、席を立とうとした。ダイチは思わず、
「ねぇ、君。」
と声をかけた。赤い瞳の少年は睨みつけている。
「僕と対戦しない?」
赤い瞳の少年は、動揺している。そして、気を取り直した後、
「やめとけ。」
と答えた。ダイチは、
「どうして?」と聞くが、赤い瞳の少年は、
「・・・・お前は、僕には勝てない。僕は、特別だから。」
とだけ言い残し、何処かへ行ってしまった。赤い瞳の少年は、
(変な奴だったな・・・。)
と思っていたが、同時に。
(・・・・アイツ、なんか気になる。)
とも思っていた。変な気持ちが、自分の心の中で湧いているのを感じた。
その頃、笠原先生は自宅で一枚のDVDを見ようとしていた。DVDには、
「私立霧島学園高等学校1年 神楽 司」
と書かれている。笠原先生は、早速DVDをパソコンに入れ、再生した。
映像には、白髪色白で赤い瞳の少年が、写っていた。
その映像を見て、笠原先生は驚愕する。そして、上を見ながら、こう呟いた。
「いよいよ、時代が変わっちまったな。こりゃ。能力者の時代に。もう、あいつらに、能力の件、言わないとやばいね。」
eスポ甲子園東京予選リーグまで、後2週間を切ろうとしていた。