二人のゲーマー(1)
昴高校eスポーツ部では、6月に行われるeスポ甲子園東京予選リーグの準備に追われていた。それぞれの部員が、ゲームでひたすら練習している。
ケンジだけは、ディスプレイで、過去のeスポ甲子園の映像を眺めて、研究していた。元々、ケンジはプレイヤースキルがかなり低い。ゲームは長くやっているはずだが、なぜか勝てない。でも、プレイヤーの特徴を分析し、戦略プランを練るのは得意だった。ただ、なぜかケンジ自身でやると勝てない。なので、ケンジは部長兼「監督」として、ショウゴに色々指示を出している。
一方、ダイチは入部当初の"ゲームに入る感覚"が、未だに忘れられなかった。あれから、eスポーツ部に入部したものの、練習で"ゲームに入る感覚"は出てこなかった。それどころか、格ゲーの仕様に慣れず、苦戦気味であった。
「あぁ、もう。また負けたよ〜。」
と隣の席から、ゴウの声がした。今年のeスポーツ部新入部員として、ダイチと同時期に入部したのだ。
「まぁ、CPUレベル7だからね。無理もないよ。」
とショウゴは宥めた。ショウゴは、ダイチの成長速度の遅さに心配していた。ダイチは、CPUレベル4で苦戦している。部長であるケンジが勧誘してしまったので、渋々ダイチを迎え入れたが、あのプレイでも、ゴウに40%もダメージを与えられている。
(多分、スイッチが入らないと勝てないのかな?でも、あまり煽りすぎると辞めちゃいそうだし・・・。)
ショウゴは、このままでは「ケンジ化」、もしくはそれ以下になる事を危惧していた。部活が終わり、帰りにゴウはダイチに、「一緒に帰るか?」と声をかけてきた。ダイチは、ゴウの明快な性格が苦手だったが、せっかくの機会だと思い、承諾した。
ゴウは、「なんで、お前あんなに弱いんだよ。」と言ってきた。ゴウも、ダイチが練習に苦戦していることを気にしていた。ゴウは、昔から困っている人がいたら、じっとしてられない性格だった。ゴウは続けて、
「お前、俺と最初に対戦した時、めちゃくちゃコマンド打ちまくって、俺に勝ったじゃないか。」
と言った。ダイチは、
「あの時は、なんか無我夢中で何が起こったか・・・」
と答えた。本心だった。あの時は、本当に何が起こったか分からない。続けて、
「俺、家にゲーム機持ってないし。」と言った。
「は!?お前、持ってないのかよ!?」ゴウは、驚愕した。それは、伸びるはずもない。流石に、家でも練習しないと上達しない。
「マジかよ・・・。」
ゴウは、その後の言葉が出てこなかった。
次の日の学校帰り、ダイチはゴウに声をかけられた。そして、
「俺の家に行かね?俺、バーニングファイターV持っているからさぁ!そしたら、練習できるだろ?」
と言ったのだ。ダイチは、「えっ!?」と驚いた。他人の家に行くのは、初めてだ。ダイチも、部活以外に練習出来る機会が無かった為、ゴウの話はいい機会だと思った。早速、家に電話した。
「もしもし」
出たのは、ダイチの母だった。
「あ、お母さん?実は、今日この後、友達の家に行くんだけど・・・・」
と気まずそうに行った。
「あら、全然いいわよ。でも、大ちゃんがお泊まりなんて、珍しい。」
(初めてだよ・・・。)
とダイチは心の中で、母を突っ込んだ。
すると、突然ゴウが、ダイチから受話器を取った。ダイチは思わず、「おい!」と叫んだが、ゴウは、普通にダイチの母と話した。
「あ〜もしもし?僕は、ダイチくんの友達で、eスポーツ部という部活で一緒の斎藤剛と言います。いやぁ〜、実はダイチくんが『ゲームの練習が出来ない』って、言ってて、eスポーツって分かりますよね?そうなんですよ〜、ダイチくんやる気満々で。でも、家にゲーム機が無いから、全然上達しないって言ってましてね。そこで、僕の家で練習しようかと、僕が提案したんです。」
とベラベラ喋った。ダイチは、顔が真っ赤になった。
「ふざけるなよ!余計な事を言うなよ!」
とゴウの後ろで喚いた。ゴウは、受話器を離さない。
「それじゃ、僕の家の住所と電話番号言うので、何かあったら、こちらに連絡してください。」
そう言って、ゴウは自宅の住所と電話番号を言って、挨拶をした後、受話器を切った。ゴウは、ニヤニヤしながら、
「お前の母ちゃん、『大ちゃんの事、よろしく!』って言ってたよ。だーいちゃん!」
と茶化した。
ダイチは、顔を真っ赤にして、ゴウの肩をボンと叩いた。