GAME START!
ゲームが始まった。
まずは、ゴウのファイターであるライゴウが先制パンチを食らわせる。ライゴウは、圧倒的怪力を持つパワーファイターで、パンチの威力は絶大だ。対して、ダイチのファイターである涼は、非常に標準的なファイターで、全技の威力は全ファイターで普通の威力だ。逆に言うと、最もバランスの取れたファイターとも言える。ダイチは、まだ感覚が掴めない。攻撃をしても、すぐに防御されてしまう。ダイチは、ゴウに苦戦していた。ゴウはラッシュ攻撃を使い、攻撃する。涼の体力が徐々に減らされていき、遂には、体力40%になった。完全にゴウのペースに飲まれていた。
(まずい・・・・・このままじゃ・・・。)
ダイチは、焦った。絶対に勝ちたい、ただそれだけのために戦っていた。ゴウは、ダイチを挑発し始める。
「なーんだ、弱すぎじゃないか!一気に潰すぞぉ!」
このゴウの言葉を聞いた時、ダイチの中に"何かのスイッチ"が入った。ゲームに吸い込まれていく感覚がした。その時、ダイチの攻撃が始まった。ダイチは高速でコマンドを繰り出し、ゴウを体力を一気に50%奪った。ゴウは、突然の事で動揺が隠せなかった。
(一瞬の隙に、50%ダメージ食らうだと!?)
ショウゴとケンジは、涼の動きに変化があったのを見逃さなかった。ケンジは、プレイをしているダイチの様子を見て、違和感を感じた。最初の時と、明らかに雰囲気が変わっている。そして、雰囲気が変わってから、まるで別人の様なプレイスタイルになっている。
ケンジは、この"違和感"が何なのかは、今のケンジには、表現出来なかった。
後に、この"違和感"の正体が、eスポーツにおいて、「最も重要な要素」になるとは、思いもしなかっただろう。
ゴウは、必死で攻撃するが、防御されてしまい、その後、ダイチの攻撃を受け、ダメージを食らう。この時、ダイチの五感は研ぎ澄まされていた。ファイターの動き、コントローラーのスティックに触れている感覚、ゲームから流れる音。全ての感覚が、敏感になっていく。ダイチは、ひたすらにコマンドを打った。考えていない。感じながら、戦っている。
「GAME SET」
その言葉と同時に、ダイチは、元に戻されたかのような感覚になった。
(今のは、何だったんだ?)
ダイチ自身でも分からない感覚だ。まるで、別世界にいたみたいな感覚だった。
「うわぁ〜、何だよぉ!逆転負けかよぉ〜。」とゴウがうなだれている。
ダイチは、勝った。ショウゴは、「君、凄いね!名前は?」と聞いた。
「遠藤 大地です。仲良い奴からは、ダイチって呼ばれてます。」と答えた。
すると、ケンジがダイチの所へ行き、真顔で、
「eスポーツ、やってみないか?」
とダイチに問いかけた。ケンジは、真剣な顔をしている。ダイチには、何か特別な物が隠されているかもしれない。
「君はeスポーツに行くべきなんだ!俺はそう思う。だから、やってみないか?」
ケンジの本気に、ショウゴも驚く。あのケンジが、ここまで真剣にスカウトするのは何か理由があるのだろうか?ショウゴは、
(まぁ、とりあえず人が増えれば、それでいいけど。)
と思い、特に咎めるような事はしなかった。ダイチは、一瞬悩んだが、プレイしてる時の感覚から、自分は、何者なんだろうという疑念にかられていた。
(eスポーツ、やってみるか。)
ダイチは、入部の決意をした。"本当の自分"を知る為に。
その頃、アキバ駅近くのゲーセンで音ゲーム(通称: 音ゲー)の「ジェイビート」をプレイしている若者がいた。体験入部の時に、最初にゴウと対戦していた男子生徒だ。彼は、眼鏡をかけており、とても凛々しい顔をしている。
名前は、杉浦 雅人。友達からは、「マサト」と呼ばれている。彼の音ゲースキルは、ジェイビート世界ランク1位を取っている。そんな彼だが、最近プレイ中に不思議な"違和感"が出てきてるのを感じていた。途中、画面の光の速度が、ゆっくり見えるのだ。時間が遅くなっているわけではない。これが、大体10秒間続く。だからこそ、高難易度の曲でも軽々と演奏をこなせる。
プレイが終わった後、ゲーセンを離れようとしたら、格ゲーフロアが盛り上がっていた。マサトは格ゲーフロアに行き、野次馬をする。そこには、白髪色白で、マサトと同い年ぐらいの少年が、素早いコマンド入力で格ゲーをしていた。よく見ると、目は赤い瞳をしている。
マサトは、彼のゲームプレイに"違和感"を持った。彼の意識は何処にある?まるで、ゲームに乗っ取られているかの様な雰囲気を醸し出している。この"違和感"を感じていたのは、恐らくマサトだけだったろう。いや、ケンジがいれば、マサトと同様の感覚になっていたのかもしれない。
プレイし終わった後、赤い瞳の少年は席を立ち、その場を離れた。その際、マサトとすれ違ったが、この時に赤い瞳の少年は、マサトに"何か"を感じ取った。そして、ゲーセンを出る時に、周りに聞こえない程度で言った。
「——あいつ、能力者か。」