表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青春ゲーマー  作者: 伊藤 啓
プロローグ
1/16

Ready, Go!

 我々の世界は、時代の進化と共に、様々な分野を開拓・進化してきた。そして、今までの非常識が常識になり、常識が非常識になっていった。


 時は202X年。世界では、ゲームを使ったスポーツ、「eスポーツ」が人気を博していた。日本では、かつてeスポーツをスポーツとは認めていなかったが、様々な人の尽力もあり、現在では、スポーツとして認められている。しかし、海外の国々に比べると、まだレベルは低く、選手の育成が必要な状況であった。

 そこで、日本全国のeスポーツ界を束ねる公益財団法人日本eスポーツ連盟は、5年前から選手の人材発掘及び、育成スカウト目的で、eスポーツによる高校生大会、「eスポ甲子園」が開催された。eスポ甲子園とは、様々なゲームの部門があり、一つの部門にエントリーして、出場する。尚、部門を掛け持ちをすることは出来ない。全国の高校から、代表チームが出場し、それぞれバトルを行なった。特に、「格ゲー部門」は、eスポ甲子園の中で、一番の人気を誇っており、野球の甲子園に匹敵する、伝統文化となっていった。ここで、高い成績を残した高校生は、eスポーツ日本代表に選ばれる可能性がある。

全国の高校では、eスポ甲子園を目指す為の部活、「eスポーツ部」が設立され、高校選びの一つの指標にもなっていた。

 東京都に所在する私立昴高校は、偏差値68の学校で、古き伝統を守る事で知られる。長年eスポーツ部の設立を行なっていなかったが、それが仇となってか、年々入学者数が減っていった。その影響もあって、私立昴高校では、今年から「eスポーツ部」を設立した。



 遠藤 大地は、昴高校に入学したばかりだ。仲良くなった友達からは、「ダイチ」と呼ばれていた。ダイチは、小学校から勉強漬けで生活していた為、知能は良かった。部活も帰宅部で、スポーツもしなかった。もちろん、ゲームとは全くと言っていいほど無縁だった。


 ある日のホームルームで、部活一覧表が配布されていた。そろそろ、部活の入部を決める時期に来ていた。明日の午後の授業で、部活紹介を行うらしい。

ダイチは、部活一覧表を見て、どの部活に所属するか決めかねていた。部活一覧表は、スポーツ系の部活がずらりと書かれてあり、裏面には文化系の部活が書かれている。ダイチは、スポーツ系の部活の一覧を見たが、中学まで勉強以外、何もしてなかった自分がいきなりスポーツ系とかに入るのは、周りについてこれなさそうな感じがして、入部する気は起きなかった。裏面の文化系の部活を見てみた。

 軽音部、ボランティア部、アート部など、結構地味な部活が多かったが、一覧の最後に書かれてある「eスポーツ部」という部活に目を引いた。活動内容の欄には、


「今年に設立された新しい部!今、流行りのeスポーツに興味がある方は是非!」


 と書かれている。毎週火曜日、木曜日、土曜日、日曜日に、PCルームで活動しているらしい。eスポーツ自体は聞いたことがあったが、ゲームと無縁の生活をしていた自分が、eスポーツなど以ての外だろう。

そう思ったダイチは、部活一覧表をバッグにしまった。



 翌日、体育館で部活紹介が行われた。eスポーツ部は、設立仕立てということもあってか、アンカーだ。様々な部活が紹介されていく中で、いよいよeスポーツ部の番だ。

 男子生徒2人が空手部でも無いのに、空手道着を来て、恐らくダンボールで作った"巨大なゲームコントローラー"をそれぞれ担ぎながら、壇上に出てきた。2人とも細身の体型のせいで、全然似合ってない。

 巨大なコントローラーを前に置いて、空手の構えをする。


「3年A組 木場 賢治!」

「2年B組 林 翔吾!」

「僕たちの、ゲーム道!!」


 そう言って、2人は"巨大なゲームコントローラー"をボコボコを殴った。よく見ると、コントローラーのボタンの所を殴っている。彼らは、"巨大なコントローラー"のボタンを殴りながら、


「ゲーム道を極める事は、己の道を極める事!」

「ゲーム道を極めるには、eスポーツ!」

「ゲームをして、己の道を切り開け!」


 と部活紹介をする。正直、ほとんど部活紹介になっていない。この滑稽な展開に、2年と3年は抱腹絶倒して大笑いしていたが、1年は引いていた。ダイチも、とても入部する気持ちにはなれなかった。部活紹介が終わった後、2人は緊張が解放されたせいか、息が上がっている。


「・・・・・やったぞ、ショウゴ。」

「・・・・・あぁ、ケンジ。やり切ったぜ・・。」


 少し説明すると、eスポーツ部は、「先輩禁止」というルールがある。あくまでも仲間という意識を持つために、先輩であっても、敬語は使わず、呼び捨てだ。

 その後、体験入部期間の紹介があり、部活紹介の時間は終わった。

 ダイチは、悩んでいた。今まで触れたことのない「ゲーム」をしてみたい気持ちはあった。だが、eスポーツをやれる自信はない。


(体験入部でも、行ってみるか。)


ダイチは、軽い気持ちでeスポーツ部に行く事を決意した。



 木曜日の放課後、ダイチは、PCルームに行ってみた。PCルームから、音が聞こえてくる。教室を覗くと、1年生らしき男子達がゲームをやっていた。ショウゴとケンジは、PCディスプレイを眺めていて、ゲーム観戦していた。PCディスプレイには、格闘ゲームらしき映像が写っていた。何のゲームなのかは、ダイチには分からなかった。1年生らしき男子は相当ゲームをやっているのか、黙々とゲームをプレイしていた。


「GAME SET」


 スピーカーから音声が流れたと同時に、プレイしていた生徒達の顔が緩んだ。


「あ〜、もうちょっとで倒せそうだったのにー。」


 とゲームで負けた生徒が、うな垂れた表情で言った。彼の名は、斎藤 剛。名前は「つよし」と読むが、クラスメイトからは、「ゴウ」と呼ばれている。ゴウは、


「もう一回!俺にラストチャンスを下さい!」


 と、対戦相手の子に言ったが、彼は、


「・・・・・ごめん。僕は格ゲー好きじゃないんだ。」


 と、ぼそっと言った。

 彼は辺りを見回して、席を離れた。ショウゴは、

「eスポーツ部、興味持ってくれた?」と話しかけたが、


「・・・すみません。僕は、格ゲー好きじゃないので。」


 と言って、PCルームから出て行った。様子を見ていたダイチは、入りづらい空気を感じてか、ドアのそばで、もぞもぞしていた。

 ケンジは、ドアの前にいたダイチを見つけて、


「あれ?君も体験入部に来た?」と声をかけてきた。ケンジは続けて、


「もし良かったら、"バーニングファイターV(ビクトリー)"やってみない?」


 とダイチに話した。ダイチには、初耳な言葉であった。


「頼む!相手してくれないか!」


 とゴウも頼み込んだ。ダイチは不本意ながらも、初めて格闘ゲームをする事になった。

 その後、ダイチは事情を話し、ケンジからゲームの詳しい説明を聞いた。

「バーニングファイターV(ビクトリー)」とは、人気格闘ゲームで、eスポ甲子園格ゲー部門の公式ゲームでもある。必殺コマンドを入力する事で、必殺技を放つ。EXゲージを貯めた状態で、特殊コマンドを入力すると、特殊技を発動する。特殊技を受けたキャラクターはかなりのダメージを負うが、さらに大ダメージを負えるクリティカル・アタックというのがある。こちらは、EXゲージを全消費して発動する、いわゆる奥義技だ。相手の体力を0にさせると、勝利する。

 まずは、トレーニングモードでコマンドの確認をした。ダイチは「涼」というキャラクターを選択し、全コマンドを確認した。その後、ゴウと対戦することになった。

 ゴウは、ボスキャラっぽい「ライゴウ」というキャラクターを選択した。ダイチは、トレーニングモードに続いて、「涼」を選択した。そして、


「Ready....」

「Go!」


この、ゲームスタートの音と共に、ダイチの「プロゲーマー」としての人生が始まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ