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リセットウォーズ  作者: 誠也
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6.出張

 あれから一週間が過ぎた。昴からの連絡もない。平穏な日々は良いのだが、唐突に現れるそれは夕立の様に激しいものばかりだ。

 そう昼間の休憩中思っていた所に電話が鳴る。


「よお、調子はどうだい?良かったら、明日から沖縄行こうぜ。」


 これである。いきなり電話が来たと思えば、明日から沖縄。断った後の事を考える前に、どうせ断れない話だと潔く諦め了承する。すると、この事はもう親方にも伝えたから気にするなと言う彼の言葉に、ああやっぱりな、と思ってしまう。

 沖縄か、行くのは初めてだ。単に旅行で行くのであれば良いのだが、今回は何をするのやら。

 仕事に戻ると親方から五千円を渡される。土産を買ってこいとのことだ。親方のこの対応から本当に旅行なのかもしれないと思ったが、信用して良いのだろうか。ここの所、人を疑ってばかりでいけないな。これもやはりアイツのせいだろう。

 翌日朝早くに迎えの車が来る。それに乗り込み、眠そうな昴から話を聞いた。


「ああ、今回は手伝ってくれてる右京を労ってな。いや、沖縄は良い所だよ。」


 疑いの目を向けると、彼は直ぐにそれを訂正した。


「まあ冗談は置いといて、沖縄って米軍基地があるの知ってるか?」

「ああ。移設問題だのテレビで見た。まさか今回は米軍を相手にするってのか?」

「違う違う。問題は米軍じゃなくて、その移設を反対してる人達。」


 移設を反対する?米軍を追い出して日本の土地を取り戻すというのでは無いのか?疑問符が多く浮かぶ。


「移設を反対する人達の横断幕見たことあるかい?あの中にハングル文字で書かれたのが掲げられてんのさ。」


 つまりは朝鮮からの工作員が、米軍基地を追い出そうとしているらしい。それは何故か、答えは簡単だ。米軍が居ない方が攻め易いからである。


「成る程な、話は分かったが、これもヤクザの仕事なのか?」


 要はその工作員をどうにかするのが仕事なのだろうが、思っていたヤクザの仕事と方向が違う。


「まあ、気にせず付いて来いよ。」


 その言葉に思わず呆れ、諦め、矛を収める。

 空港に着くと、組の者の姿は無かった。遅れているのかと尋ねると今日は二人だけだと言う。二人でできることなのだろうか?それに何で俺なのだろう、もっと慣れた人が居ると思うが。

 疑問を抱えたまま飛行機に乗る。零戦と違いこの旅客機は格段に乗り心地が良い。まあ、元々の用途が違うか。快適な空の旅はおよそ三時間。特にすることも無く、ただ寝て過ごす。

 着いた空港にはこちらを待っていた一人の男が居た。日に焼けた健康的な印象を受けるその男は比嘉と言うらしい。仲良さそうに話しているが、彼もヤクザなのだろうか?それにしては整った身なりに爽やかな感じだ。取り敢えず握手を交わした。


「どうも初めまして、防衛省の比嘉です。」


 防衛省?一瞬思考が止まる。防衛省と言えばあの防衛省しかない。それ以外に考えられないが、ヤクザと防衛省どう結び付くのだろう?取り敢えず、ややこしくならぬ様に言葉を選んで挨拶した。

 空港の外に出るとじめじめとした暑さを感じる。そこからまた比嘉の車で移動するのだが、見える海の青さに目を奪われ、本当に休養だったらとただただ思う。

 気付けば何処かの喫茶店の前に着いていた。『珈琲琉球』と書かれた看板に古風な外観。しかし、カーテンは閉まっており、まだ準備中の札が掛かっている。店は開いてない様だが、比嘉はそれを気にせず、扉を開けた。中も外観に合った古風で落ち着く空間であり、営業時間前だと言うのに店主が迎え入れてくれる。店内奥の席に案内され腰を下ろす。


「秋川さん、早速来て頂いてありがとうございます。」

「いやいや、全然大丈夫さ。それより状況を教えてくれるかい?」


 比嘉の説明はこうだ。今、米軍基地を退去させる動きが活発化しているらしい。その切欠は先日の米朝首脳会談。北朝鮮に対するアメリカの仲が好転しつつあり、基地について北朝鮮から直接アメリカへ投げ掛けるのでは無いかとも考えられる。そうなれば日本の脅威となっている北朝鮮からの核ミサイル。現在は海上への着弾に留まっているが、米軍が退去した瞬間に、とも考えられる。それを阻止すべく米軍基地の反対派を沈静化させて欲しいということだ。

 話は分かった。だが、二人でできる策が思い付かない。

 すると少しして店の扉を開ける音がした。入ってきたのはくだけた格好をした壮年の背が高い男。もう開店の時間になったのかと思ったがそうではなく、男はこちらにやって来た。


(パク)さん遅かったじゃないか。」


 昴は親しげにそう言う。朴ということは向こうの人なのか?


「少しやることがあってね。おや、見ない顔だ。秋川の連れか?」

「桂右京と言います。昴とはまあ友人みたいなものです。」

「ふむ、友人か。」


 朴さんは昴の方をちらりと向く。昴はそれをにっこりと笑って返す。


「私は朴容国(パクヨングク)と言う。名前から分かると思うが、向こうの出身だ。」


 朴さんは比嘉の隣の席に着き話を続けた。


「まずは素性を明かそうか。私は北朝鮮の政治家だったんだが、今の国の主導者から殺されそうになってね。日本に逃げて来たという所だ。だが国に残してきたものが多く、どうにか戻れないかと思っていてね。そこで君達がやろうとしている工作員への対応に協力して、今の主導者を失脚させることができないかと思っている所だ。」


 成る程。詳しく聞くと、朴さん以外にも何人か同じ境遇の人がいるらしく、人員もそこそこになりそうだ。


「さて、今回の作戦だが、右京。お前に囮になってもらう。」

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