38.曇天
何も無い暗い空間、俺はただ一人ポツンと立っている。何処だろう、全く分からない。そうか、夢だ。早いとこ起きるか、いや、刺されてたんだっけ?それなら起きたら傷が痛むだろうしこのままのがいいか。
おっ、明るくなった。周りが明るくなると、目の前に数え切れない人数の人相の悪い男が並んでいた。組の奴等じゃないな。彼奴らはヤクザとは思えない程のお人好しだからな。まあ、それは置いといて、本当に顔に覚えが無い奴しか居ない。
もしかして、今まで俺が手にかけた奴等ってことか?ということはここは地獄か何かってことかい?ハハハ、悪い方に転んだもんだねえ。
無理もないか、今までこいつらを殺してきておいて俺が天国なんざ行ける訳が無い。潔くボコられますか。諦めと言うより納得に近いこの気持ちは今まで背負っていた物から漸く解放されたことから来るのだろう。思ってたより疲れてたんだな。俺は静かにそこに座り、目を閉じた。
胸に感じた痛みから不意に目が開く。それは先程とは違う景色だった。暗く、独特な空気の空間。病院の一室か。
まだ残る痛みのする方を向くと、そこに覆い被さるように一人の女が寝ていた。
どうやらまだ生きてるらしい。
「和泉さん、起きて、起きて。」
力み無く出せる程の声でそう語りかけると、ゆっくりと体を起こす和泉。瞼を擦り、意識がはっきりしてくると俺が起きたことに気付いた様で、飛び掛かってきた。
イッテー!怪我人に容赦ないな。しばらくして俺が悶絶していたことに気付いた和泉はそっと離れてくれた。
「よかった、よかったです。」
涙を流しながら、俺が目を覚ましたことを喜ぶ姿に、俺もまだ捨てたものじゃないと思えてくる。
「ありがとう。それに心配かけた様でごめんね。」
それから和泉に俺が寝ている間のことを聞いた。俺が病院に搬送されてから十四時間くらい経っているらしい。出血は多かったものの輸血が間に合い、助かった様だ。それから幸いなことに俺が倒れたという情報は組の奴等には伝わっていないらしい。彼奴らが来ると面倒だもんな。
それはそれとして、孔の行方はまだ分かって無いらしい。それだけが気掛かりだ。まさか仕留め損ねていたとは、詰めが甘かったな、本当情けないねえ。
明日にでも真壁に伝えておこう。今日はもういいよな。
「和泉さん、そろそろ帰った方がいいよ。今日ずっと見ててくれたんでしょ?体壊してもダメだから、ね?」
「そうですね。今日はもう帰ります。でも、絶対どこへも行かないで下さいね!」
「行かないし、行けないよ。」
ムリムリと手振りで伝えると、笑いが起きた。痛たた。笑っても痛いなんて不便だねえ。
和泉は帰り、一人になる。ふう、休みたいとは思っていたけど何もできないとは少し残念だ。こうなったらひたすらゴロゴロしていよう。
そのまま眠りにつくと翌日の朝までぐっすりと眠れた。和泉はまたやって来たが、俺の生存確認をした後、仕事へと戻っていった。
俺はというともう暫くは入院が必要らしく、それまでの間、真壁に組を任せると電話をした。その時、病院については何も話していない。他の患者が驚くといけないからな。
テレビでも見てゆっくりと過ごそうと思ってはいたが、昼間の番組は興味をそそられるものはなく。本を買いに行こうにも外出は禁止。こりゃ寝るしかないな。
そう思っていたら、和泉ではない見舞いが来た。
「災難だったな。これは見舞いの品だ。」
果物の入ったバスケットを片手に、喜一がやって来た。
「ありがとう。いや、今回ばかりは死んだと思った。それでもこうして生きてるから逆についてると思わないかい?」
「お前らしいな。さて、お前に二つ話がある。」
そう言って始めた喜一の話の一つが孔のことだった。孔はあの後、右京によって仕留められたらしい。危険な橋を渡ったことにヒヤリとしたが、無事にやり切ったことは嬉しく思う。また飯でも行きたいねえ。当分先の話だけど。
もう一つの話は聞いた瞬間目を見開くほど驚いたが、すぐに飲み込んだ。
簡単に話を終えると病室を後にする喜一。一人になった後、深く息をついた。そうか、俺は・・・。
窓から見える外の景色は雲一つ無い空であり、その風景を何故か雲で覆いたくなった。




