37.決着
リビングで二人、寛いでテレビを見ていると、不穏なニュースが流れた。新宿駅近くで通り魔が現れたというものだ。。
「通り魔だって、怖いね。」
「ああ、犯人が捕まるまで京子も外出は控えてくれ。」
俺も用心はしておこう。
そんなとき電話が鳴った。喜一からだ。
「桂、悪いニュースだ。今テレビで流れた通り魔のニュース、犯人はあの孔浩然だ。外で出会すとお前も襲われかねん。だから当面の間俺が車で送り迎えする。いいか?」
「あ、ああ。」
何でまたあいつが。取り敢えずは仕方無い。
「襲われたのってもしかして組の奴らか?誰がやられたんだ。」
「秋川だ。」
なっ!昴が!
「どこだ!どこの病院に入ったんだ!」
俺は食い入る様に尋ねた。
「それは教えられん。」
「どうしてだ喜一!」
「落ち着け馬鹿者が!ナイフで刺されたものの死んではない。それに今お前が行ってどうする?今までのこと全て無駄にするつもりか!」
そうだ。俺が昴に会いに行けば確実にヤクザとつながりがあると広めるようなもの。決して行ってはいけない。
俺は「分かった。」と告げ電話を切った。くそ!
どうしたのという様にこちらを見る京子に何でもないと、心配しないように笑って見せた。
孔は新宿駅近くから逃走中・・・。
「京子すまない、ちょっと用事ができたから出てくる。」
「えっ!今から?それに通り魔がいるかもしれないんだよ!」
戸惑いを見せる京子に
「分かってる。でも、とても大切な用なんだ。」
「う、うん、分かった。でも、本当に気を付けてね。」
返事は曖昧に、俺は家を飛び出した。
新宿駅から人気の少ない場所と言えば多すぎて絞れない。路地裏、廃ビル・・・。どこだ、どこに孔は居るんだ?
そうだ、下水道だ!五年前奴と対峙したあの場所、あそこなら人目はつかず、奴の良く知る場所だろう。
あの時の記憶を頼りに下水道に侵入し、暗く臭い道を進む。気付かれてはいけないと、足音に注意しながら。
下水道に入り十数分は歩いただろうか、ある場所の前で立ち止まる。明かりなんかは漏れ出してはいないが、微かに何かの息遣いが聞こえた。
ここだ間違いない。軽く、呼吸を整え俺は飛び出した。
不意に現れた俺に一瞬だけ目を見開いた奴は、直ぐ様こちらへ向かってきた。その右手には昴を刺したであろうナイフを握って。
しかし、予想していたよりも遙かに動きの鈍い奴の腕からナイフを蹴り飛ばすのは容易であった。
「くそ!いい加減にしろ!」
そう怒りを露わにする孔は服から血がにじみ出しており、既に瀕死状態であるのがわかった。
今回の件、恐らくまた日本に攻めてきた孔を昴が対応したということなのだろう。ここまで昴は追い詰めたが、それでも孔に少し上をいかれたということか。
しかし、好機。孔を仕留められるチャンスだ。ここで孔を終わりにさせなければ、また逆襲をしてくるだろう。そうならない為にも俺がここで!
既に満身創痍な孔を気にもかけず、腕を掴み、崩し、内股をかけた。そのまま寝技に持ち込み、悶え苦しむ孔を締め付ける。
落とすだけでは済まさない。俺は一際力を入れ、孔の首から下水道に良く響く音を出した。
締めた孔から力が完全に抜けきるのを確認し、手を放した。孔が立ち上がることはもうない。
それから俺は喜一に電話をかけた。事態を知った喜一にこっぴどく叱られたが、構いやしない。駆けつけた喜一に孔を引き渡し、俺は家路についた。
この臭く汚れた格好をどう言い訳するか、それだけが気掛かりだ。




