表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リセットウォーズ  作者: 誠也
35/39

35.直球

 意識がはっきりしてくると頭に強い痛みを感じた。真っ暗で何も見えない。ここは何処だ?何か動いてるも感じがする。広さと騒音の感じからして車のトランクだろうか。何でこうなった?少し前の記憶を思い返す。

 ・・・電車の中、背後に感じた不穏な気配に振り返ろうとするとそれを制止するように背中に硬いものが突き付けられた。確認はしてないが、拳銃だろう。そっと前を向き直し語りかける。


「お前は誰だ?こんなことされる覚えは無いんだが?」

「いえいえ、あなたは大変なことをされてますよ。自覚が無いのがなお悪い。さて、すみませんがこのまま少々付き合ってもらいます。」


 逃げ出すか?いや、こいつはかなりの手練れだ。前線を離れている俺には厳しい。それに周りの人達に被害が及ぶ恐れの方が大きい。機会が来るまで待つんだ。

 次の駅で下車し、男に言われるまま駅の先の街へと移動する。そして暗い路地裏で俺は後頭部を強く叩かれ意識を失った。

 ・・・そうだ、それでこんな所に。どのくらい時間がたっただろうか。外の様子も分からない。トランクを内側から開けるか?いや、走行中に飛び降りるのは危険だ、それに降りた先逃げ切れる保証は無い。どうする・・・。

 それから十数分程たった後、車が止まる。何処かに駐車した様で、車の前方からドアを開けた音が聞こえた。

 よし、次にトランクが開く瞬間、犯人に飛び掛かってやる。そう意気込み、その時を待った。

 トランクのドアから音がし、外からの明かりが漏れ込む。今だ!外からトランクに掛かる手を掴むと同時に、その手の主へ殴りかかった。しかし、あえなくその右拳は掴まれ、攻撃は阻まれ。くそ!そう思った次の瞬間、目の前に居る男を見て唖然となった。


「何でお前が・・・。」


 目の前に居たのは喜一だった。喜一、まさか裏切ったのか・・・。俺の表情から何か感じ取ったらしい喜一はいつも通り話しかける。


「何でと言われても、お前を助けてやったんだ。ここはお前のマンションの前だろ。」


 落ち着いて辺りを見渡す。確かにいつも見るマンションの光景だ。落ち着いた俺を見てため息交じりに喜一は経緯を話してくれた。

 まず、俺を襲ったのは二階堂の手が及んだ者で、襲われたのは恐らく俺を制御するために脅しをかけるのが目的であったらしい。携帯の位置情報から不穏な状況だと気付いた喜一が駆け付け、犯人を制圧。犯人の車のトランクに乗っていた俺を引き摺りながら動かすのは面倒とのことでそのまま送ってくれたとのことだ。


「そうとは知らず、悪かった。」

「全くな。では俺は帰るが、また襲われるかも分からん、気を付けろよ。」


 礼を伝えると、喜一は帰って行く。その車を見送り、自宅に戻った。帰るのはいつもより少し遅いくらいで、出迎える京子は普段通りだ。俺が襲われたことは知らなくて良い。そう、彼女には明るいいつも通りの姿でいてほしいのだ。

 さて、今回の黒幕ははっきりしている所だが、どうするか。長引くと更に手の込んだことをされかねない。いっそのこと腹を割って話すべきか?襲ってきた奴からしても二階堂は俺のことは大方調べた所だろう。だからこそ正面から行くしかない。そう覚悟し、眠りについた。

 翌日の通常国会、会が始まる直前に二階堂を見かけた。その際、国会の後に話があると伝えると、二階堂はにっこりと笑みを浮かべ首を縦に振った。

 この野郎さすがに余裕があるな。面白いじゃないか。

 国会は終わり、自由国民党の本部の一室へと案内された。部屋には俺と二階堂の二人だけである。


「さて話とは何かね?」


 第一声は二階堂から。昨日のことを問い詰めてもどうせ何のことだかとはぐらかされ、話にならぬであろう。だから、


「二階堂さんはこの今の日本をどう思いますか?」

「この日本をか、また漠然とした話だ。」

「はい、私はこのままでは日本の未来は暗いものになると感じています。」


 ほうっと、二階堂は顎に手を当てる。


「今の日本は他国から徐々に侵略されつつあります。それは国民の殆どが周知のことです。しかし、何もできません。それは力が無いと思っているからでしょう。だが、私達議員にならできる。その力がある。でも今の議員は、野党は何ですか。他国の甘言に誑かされ、己だけ満ち足りた生活を送るため国を売っている。それが我慢ならない。」

「確かにそうだ。君の言う通りだよ桂くん。それで君はどうしたいんだい?このまま何もしないのでは他の議員と同じだ。」


 俺はその言葉にしっかりと頷き、こう答えた。


「いや、私はこのままでは終わらない。私はこの国に革命を起こします。」


 その言葉に思わず二階堂は吹き出し、笑った。


「いや、すまんね。続けてくれたまえ。」

「高木さんを立てた今の総裁選。そこで高木さんを勝たせ、次の総理にします。今高木さんと話をして考えているのは国会議員の定数を減らすこと、給与水準を下げることくらいですが、それでも、国に負をもたらす輩は減るでしょう。議員が減れば、公安による調査も行き届き、より悪を摘発できる。それに給与が減れば本当に望む者しか議員にはならないでしょう。私は何より今のこのズタズタにされた日本が悔しくて仕方が無い。だからこそ膿を出したいのです。」

「成る程、成る程、立派、立派。その言葉に嘘はないかね、桂くん?」


 真っ直ぐに「ありません。」と答える。


「そうか、では君の生まれについて聞いてもいいかね?私の調べによると君がこの国に現れたのは約五年前だ。確かにそれより以前に生を受け、日本で暮らしたとされる紙切れはある。だが、それは偽造されたものだ。さあ、君の本当の生まれはどこだい?君こそ他国のスパイではないのかい?」


 まあそうだよな。俺がこの時代に来たのが五年前、それ以前の出来事は全て偽造。昴ができたことだ、二階堂にもそれを探ることができても何らおかしくはない。


「私が生まれたのはこの日本。それは変わりありません。」

「嘘をつかずとも・・・。」

「いえ、日本です。ただ私は過去から来たのです。」


 二階堂が話すのを遮るようにそう言うと、二階堂は滑稽だと言わんばかりの笑い声を上げた。


「過去からとは、その回答は考えてなかったよ。一体いつの時代から来たのかね?」

「千九百四十四年、第二次世界大戦中の日本からです。私は特攻隊で敵の艦隊に突撃したところ気付けばこの時代にいました。」


 ニヤニヤしながら目を閉じうんうんと相槌を打つ二階堂。しかし、突然ハッと気付いたように俺の名前を呟いた。そして「いや、まさか、そんなことは。」と首を傾げだした。

 何だ?まさかその時代の俺を知ってたのか?二階堂、歳は七十三だったか、それであれば俺がこちらに来る前に生まれてはいない筈だ。それに二階堂の名は聞いたことは無い。

 こちらも考えていると、二階堂は震えるようにこう言った。


「桂くん、君がその時代の桂右京さんであれば、君の実家の近所に君の歳と近いある女性がいた筈だ。その方の名前は分かるかい?」


 近所で歳の近い女性・・・。もしかして、貴乃のことか?


「二階堂さんがおっしゃるのは、貴乃、町田貴乃のことですか?」

「まさか、本当に・・・。」


 それから当時のことを深く二階堂は聞いてきた。貴乃のこと、俺のこと等しっかりと確かめるように。そして漸く納得すると、


「君が話に聞いた人だったとは、いや、縁とは面白い。」

「何のことですか?」

「その町田貴乃さんは私の叔母だ。もう亡くなってはいるがな。そしてその貴乃さんは桂くん、君に深く感謝しておったよ。親族が集まったときに貴乃さんは君の話を良くしていた。貴乃さんと結婚した私の叔父が当時、赤紙を受け取ったのを、君が代わりになって赴いたと。そのお陰であの戦争を叔父は生き延びられたと。お前もそれぐらいの男になれと言われながらな。」


 まさかそんなことになっているとはな。少々話がうますぎるが、これで真面に話ができる。

 それからは俺の想いを受け取ってくれたのか、二階堂も腹を割って話してくれた。

 二階堂としても水面下であれこれと動いていた様だ。現在の国会議員、その中に潜む他国の間者を排除すること、またそれらを持ち上げ、こちらを落とそうとする敵の息のかかったメディアとの戦い。どちらにせよ政治家とは世論に左右されるもの、楽ではなかった様だ。そして俺については不穏な動きを見せており敵だと思っていたらしい。


「すまんかったな桂くん。君こそ一番今の日本を許せないだろうに。」

「いえ、分かってくれただけでもありがたいです。」

「そうか。では高木くんの件だが、私も力添えをしようじゃないか。私も元々彼を次の総理にとは考えてはいたんだ。」


 二階堂の話によると高木さんを総理に考えていたと言うのはもう少し先のことだったらしい。メディアは総理を降ろそうとする。そこで今の渡利さんが危なくなるまで耐えて、ダメだと感じたときに高木さんを立てるつもりだったとのことだ。

 成る程な、下手にちょっかいを出してしまったか。いや、高木さんは早くに総理になるべきだ。

 話は終わり、退出する。その際の「気をつけて帰りなさい。」との二階堂の言葉は何の含みも無く、穏やかなものだった。

 今日も電車に揺られ家路につく。そこに力みは無い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ