32.画策
事務所は使えないとなると拠点を移さないといけない。今、他に所有してるのは港の倉庫か雑居ビルのワンフロア。どっちも使い勝手が悪いな。港は遠いし、ビルは他の会社が入ってるから迷惑がかかる。やっぱり敵を早々に潰して事務所に戻るしかないな。
それにしてもこの和泉をどうにかしないことには動けない。
「なあ和泉さん、例えば俺が今襲われている訳だけど、その相手を倒しておくのは正当防衛だよね。」
「そうなるのかな?実際に危険な目に遭ってるわけですし、適用されるかもですね。」
「じゃあ、言質は取ったからやるよ?」
「ちょっと待って下さい、過剰防衛は駄目ですからね!」
和泉を軽くあしらい、奴等を押さえる手を考える。
まずは敵の本体の把握からだな。春田が言うには他の直系の仕業らしいがどうもバックに何かいるような気がしてならない。
情報と言えばあいつだ。だけど和泉を連れてまたややこしくなる。
「和泉さん、今日はもう自宅に帰ろうと思うけどあんたも取り敢えず送ろうか?」
「さっきの襲撃からしてもお家の方も危ないんじゃないですか?やっぱり近くの警察署に。」
簡単に丸め込めると思ったけど、気付いちゃったか。
「警察は無しだって。まあ取り敢えず飯でも食うかい?お腹空いてるだろ?」
自分のお腹を触りながらコクコクと頷く和泉。腹ぺこさんだねえ、全く。
ビルの表から出て辺りを見渡す。敵は居ない。和泉に店を選ばせると悩み出したので、近くにあったうどんのチェーン店を勧めると、そこで良いと返ってきた。
注文したうどんを受け取り会計を済ませ、空いた席に座る。つるつるとうどんを満足げに食べる和泉を他所に、先に食べ終わった俺はトイレへと入った。
ここは会計を先に行う店。今このトイレから外に出ても和泉には迷惑はかけないと言う訳だ。それじゃゆっくりね和泉さん。
トイレの小さな窓から外を確認し、誰も居ないとゆっくり外へ出る。さて、行きますか。
近くの地下鉄からあの男の居る最寄りの駅まで行った。
相変わらず面倒な場所に居るもんだ。まあ、この位しないと誰でも来れてしまうか。
「神崎、居るか?」
「おお組長。久し振りだな。今日はどうした?」
こいつ分かってるくせに。
「今、面倒なことに組織内で狙われててね、その黒幕を知りたいのさ。」
「黒幕か、分かった教えよう。直系の組長達はまあ知っての通り小者だ。そいつらを脅して言うこと聞かせてる奴はあんたも良く知ってるあの黒虎さ。」
黒虎か。まあ予想はしてたけど面倒な敵だねえ。大方五年前の復讐といった所だろう。
「黒虎の総帥になった孔が、あんたとあんたの居る東帝会を潰そうとしてるのさ。直接組織としてぶつかって来ないのはあんたら猛者を倒した後、東帝会をそのまま乗っ取ろうとしてるって話だ。」
「それで今奴は何処に居る?」
「新宿の中心部にある中華料理店「とらや」だ。まあ気をつけな。」
神崎に礼を伝え、そこを後にした。黒虎とやりあうにどうするかねえ。
暗がりを抜け外へと出ると湿りのある生温い風が吹いていた。雨か。早いとこ帰るかねえ。いや、自宅に帰ると和泉がやって来そうだな。右京の所はダメだし、真壁に聞いてみるか。
「もしもし、真壁?秋川だ。今良いか?」
「オヤジ無事でしたか!」
「まあな。それより悪いんだけど今日お前の家に泊めてくれないか?」
「俺の家ですか?構いませんけど?」
「ならよろしく頼む。今から行くけど大丈夫か?」
「大丈夫です。」
「じゃあ、また後で。」
電話を切り、真壁の家を目指す。途中コンビニに寄り酒とつまみを買って。真壁の家は神田川近くのマンションだ。奥さんと娘さんの三人家族だが、何度かお邪魔したこともあり、顔も知ってる。突然だが許してくれるだろう。
インターホンで真壁の部屋と繋ぎマンションに入る。内心奥さんに申し訳なく思いつつ真壁の部屋を訪ねた。
「秋川さんいらっしゃい。」
真壁の奥さんの朋美さん。すらっとした髪の長い美人で、穏やかな人だ。
「すみません朋美さん。突然押し掛けてしまって。」
「いえいえ、主人がお世話になってますし、私達も家族みたいに思ってますから遠慮せずに来て下さい。」
嬉しい話だが社交辞令だよな。程々にしないと。
リビングに行くと夕食が終わった後らしく、家族でテレビを見て寛いでいた様子が窺えた。
「昴さんいらっしゃい!」
「こんばんは瑞希ちゃん。」
真壁の娘の瑞希ちゃん。中学三年生の活発な女の子だ。
「昴さんお願い、勉強教えて!」
瑞希ちゃんは今年高校受験の年になると勉強をしているみたいだが、なかなか捗らないらしい。それに瑞希ちゃんが希望する都内の美術科のある高校は毎年それなりの倍率で、頑張らないといけないそうだ。
泊まらせてもらうし、酒を飲むばかりではいけないな。手伝ってあげよう。買ってきた物の入るレジ袋を真壁に渡し、瑞希ちゃんの座るテーブルの隣に座った。
数学か、懐かしいもんだな当分こんな計算してないや。公式の使い方を覚えてもらうしかないかな。
「オヤジすんません。」
「いいよこのくらい。それより明日から暫く組の方は休みにしようと思うんだ。今日の昼間あんな事があったろ?解決できる見込みが立つまで取り敢えず副業の方を優先してほしい。」
仕方ないですねと頭をかく真壁。他の奴等にも言っとかないとな。
解決する見込みといっても正直難しい。相手をする敵の数が見えないのと、あの孔が帰ってきたってのが厄介だ。
建物に爆弾を放り込む様なテロ行為はダメだ。敵の本拠地は大衆食堂であり、一般人も利用する。そこを攻撃しようものなら、一般人を巻き込む恐れや近隣住民を怯えさせてしまう。それからテロへの国の対策が甘いと俺のバックにいる人に騒動が波及してしまう。そうなれば俺のできることも制限される。それは避けないといけない。
となれば客の居ない時間、深夜帯が狙い目。東帝会の組員ではなく、黒虎だけを押さえる。・・・ん、案外なんとかなりそうだな。こりゃ難しく考えすぎた。
それじゃまずは・・・。俺は作戦の為協力してもらう奴等に片っ端から電話を掛ける。中には面倒だと思った奴も居たが、意外とすんなり話を受けてくれた。
翌朝、東帝会の直系組長全員へ連絡が入った。二週間後の夜集会を行うと。そう、これこそが一つ目の布石。東帝会の組員を本部に集めることにより、動きを封じる。会長である鈴川から直々の話であり、断るなど普通はできない。これで当日相手するのは黒虎だけだ。
その後、続けて二本の電話が入る。一つは春田から。春田組の組員全員を動かせる準備ができたというものだ。もう一つは野口、元安藤組の頭から。今は俺の傘下である野口組の組長だが、そいつからも組員を動かせると連絡が入った。
これで戦争の準備はほぼ整った。決行は二週間後の深夜。その明け方には奴等をもう反撃できぬよう血で染めてやる。
「オヤジ何かあったんですか?」
寝ぼけ眼を擦りながら真壁が問いかけてくる。
「悪い、昨日副業を優先してくれって言ったが、思いの外早く動くことになりそうだ。一緒に準備を手伝ってくれ。」
「はい!」
そう言えば、準備もそうだが俺は取り敢えず自分の宿を探さないといけないな。




