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リセットウォーズ  作者: 誠也
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29.暗躍

 今日の通常国会が終わり、解散となった。しかし、本当の仕事はここからである。二階堂から声がかかり、飲みの席へ誘われたのだ。それも数人での飲みでは無く、俺個人とサシでの飲み。これは何かがある。

 断ることもできなくも無い。だが、二階堂の誘いを断ることは党内、いや政治家としての活動が詰むことにも繋がる。それ以前に、乗り越えるべき相手の前に逃亡なんて愚の骨頂だ。何も怖がることは無い。

 タクシーにて、飲みの場に向かう。タクシーが店に着くと同時に女将の出迎えがあった。名前を伝え、奥へと案内を受けると、歩く縁側から趣のある日本庭園が楽しめ、歴史ある料亭であると見て取れた。案内された個室には既に二階堂が座っており、俺は深い礼と挨拶をし、中へと入る。

 改めて二階堂を目の前にすると、どれ程の悪に手を染めてきたのかと思うほどに恰幅が良い。

 少しして酒と料理が届けられ、俺は二階堂の御猪口へ酒をを注いだ。


「いや、すまんね。プハー、旨い。さあ、桂くんも飲みなさい。」


 二階堂からのお酌で酒を飲む。今まで飲んだことの無い程に飲みやすく旨いその日本酒は大凡前までの俺の給料では手が出せないものだろうということがよく分かる。


「いい飲みっぷりだ。さあ、料理も冷めない内に食べようじゃないか。」


 二階堂に促されるまま食事を始める。旨い。さすがと言うべきか、二階堂くらいになるとこの料理すら当たり前なのだろう。


「それで桂くんは何で議員になったんだい。」


 唐突に質問を投げかけられる。


「それは働く若い人々を・・・。」


 そう話とすると二階堂に制止された。


「そういうことを聞きたいんじゃ無いんだよ桂くん。本音の部分を聞きたいんだ。君は今まで見てきた奴等とは違う。その目の奥に計り知れない野心を私は見たんだよ。さあ、もう一度話してくれるかい?」


 普段通りを装ってはいるが、その跳ね上がるプレッシャーは俺を押さえ付け、息苦しくさせる。こいつ俺の狙いに気付いているのか!?それとも・・・。いや、憶測はやめよう。今は取り敢えず穏便に。


「いえ、本当に私は働く若い人々の為により明るい未来を作りたい、そう思って議員になったんです。」


 嘘はついていない。ただ意味は伏せているがな。俺のその言葉にプレッシャーを抑える二階堂。興醒めしたのかどこか力を抜いている。


「そうか、それは悪かったね。じゃあ食事を続けようか。」


 その後は何事も無かったかの様に、日常会話に戻った。しかし、目を付けられていることは確か。今から話す何気ないことからいらぬ言葉を漏らさぬ様、細心の注意を払うとしよう。

 恙無く飲みの席を終え、料亭の外にて二階堂を見送る。二階堂の乗るタクシーが見えなくなるまで待った後、大きく息をつく。予想以上に疲れた。また次があるか分からないが、その時は疲れない様にもう少し上手くできるだろう。



 私は鞄の中から電話を取り出し、ある男に繋いだ。


「急にすまんな。また君に調査を頼みたい。相手はこの前の選挙で初当選した桂右京という男だ。そう私の居る党の者だ。よろしく頼むよ。」


 用件を伝え、電話を切った。あの男必ず何かがある。何をする気かはまだ分からんが、早く押さえるに越したことは無い。この私に屈さない程に面白い若造が久し振りに出てきたが、今暴れさす訳にはいかん。絶対にな。



 タクシーにて、自宅のマンションに帰る。部屋のドアを開けると中から明かりが漏れてきた。「ただいま。」の声に反応し、「お帰りなさい。」と返ってくる何気ないやり取りに、この時代でも、俺の帰ってくるべき場所ができたのだと、心が安らぐ。


「右京くん、お疲れ様。お風呂にお湯は張れてるからいつでも入れるよ。」

「ありがとう。ちょっと、書類片付けたら入るよ。」

「うん、分かった。そうだ、さっき橘さんが来たよ。三十分前くらいだったけど右京くんは偉い人と飲みに行ってるって伝えたら帰っちゃったんだ。帰り道とかで会わなかった?」


 喜一が?何だろう?取り敢えず電話しておくか。電話を掛けてみるが反応は無い。また連絡があるだろう、今日はもう休むか。風呂に入ろうと考えていると、インターホンが鳴る。喜一だろうか?モニター越しに確認すると確かに喜一が映っていた。「今出る。」と伝え、玄関のドアを開けると喜一は一枚の紙を広げ待っていた。そこには殴り書きで「会話が盗聴されている恐れがある。だが、普段通りに話せ。」と書かれている。なっ!いけない、普通に話さないと。


「こんな時間にどうしたんだ?」

「いや、近くを通ったものだから飲みに誘おうと思ってな。今から大丈夫か?」

「ああ、良いぞ。準備するからちょっと待っててくれ。」


 京子に一言伝え、俺は出かけた。喜一に従うまま、ただ後を付いていき、歩きながら話を始める。


「すまんな、こうでもしないと話ができない状況だ。」

「一体何が起こってるんだ。」

「桂、お前の弱みを握り、傀儡として操ろうとしている動きが出始めたんだ。」


 俺の弱みを・・・。それで盗聴という訳か。


「今自由国民党の中には大きく三つの派閥がある。現総理大臣の渡利派、それから対抗する久住派、そして二階堂派だ。この内二階堂派と渡利派は協力関係にあるが、渡利は二階堂の手から逃れようと画策している。久住はそれを見て二階堂に取り入り次の総理を狙っていて、二階堂の手から逃れたいが総理の座も手放したくない渡利は動くに動けない状況となっている。この拮抗している関係性を崩すために、どこの派閥にも所属していない議員を取り込もうとしているのさ。そこでお前にも白羽の矢が立ったんだ。」


 なる程俺を取り込むために弱みを握ろうと言うのか。それにしても俺にはバレてはまずい経歴が多い。大きいことは二つ。まず、ヤクザと繋がりがあったこと、次にこの時代の人間では無く、偽造した戸籍謄本を使用していることだ。絶対にバレてはいけない。俺が選挙に出馬するに当たり、昴と喜一の手を使ってその辺りの情報は全て抹消した筈だが、絶対では無い。今のヤクザ、それも東帝会の人間は俺のことを知っている。そこから漏れてしまう恐れがあるのだ。


「取り敢えず俺から秋川にもこのことは伝えている。奴も無闇に連絡を取ろうとはしないだろう。だが、どこでいつ情報が漏れるかも分からない、慎重に行動してくれ。」


 俺が頷き、そこで話が終わった。それから出掛けた仮の目的である飲みの為、居酒屋に寄り軽く飲んだ。帰ったら京子にも伝えないといけないな。

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