27.開票
事務所の中、俺達は置いてあるテレビやスマートフォンをじっと見つめていた。正直、まだ五分の状況で心臓を強く叩く音が静かな空間に響いている様に感じる。隣に居る京子から「大丈夫?顔色悪いよ。」と心配されながら俺はじっとその時を待った。
まだかまだかとキリキリする胃を押さえていると部屋の奥より不意に歓喜の声が上がる。画面を良く見てみると、そこには赤い「当」の文字が確かにあった。
経験したことの無い量の喜びが込み上げ、溢れ出す。それは俺だけでは無く、周りも一緒だ。伝播するそれは止まることを知らず、事務所に入りきれず、外で待つ人達にも及んだ。
落ち着きを取り戻した後は、もう夜遅いことを思い出し、当選の挨拶や万歳三唱をしてその場を閉めた。
ここまで順調に来れるとは正直思わなかった。身寄りも学も無い俺がここまで来れたのも昴や京子のお陰だろう。だが、ここからがスタートだ。
「桂くんおめでとう。」
声のする方には頭の薄い壮年の男が立っていた。
「二階堂さん。ありがとうございます。」
「いやいや、これから君にはもっと頑張って貰わなくちゃいけないんだ。よろしく頼むよ。」
そう言いながら肩に手を置かれる。
この二階堂は現職十一期目の当選を果たした与党第一党、自由国民党の幹事長だ。俺も自由国民党から出馬をした為、幾分かお世話になっている。まあ、その世話というのも自分の手駒を増やしたいだけなんだろうけど。
二階堂清。齢七十三にして日本の政治を全て牛耳る黒幕である。総理大臣も傀儡の様に指示するその様子から、自由国民党内の現職の議員は畏怖を込めて先生と呼ぶ。以前対峙した成瀬もそうだったが、老体とは思えないその凄みのあるオーラは並の者なら直ぐに気後れするだろう。
話すだけ話をして満足した二階堂はこの場に残る人々に軽く挨拶をしながら帰って行った。
「右京くん、お疲れ様。」
こちらが落ち着いたタイミングで京子がまだ缶コーヒーを持ってきてくれた。口にする温かく、甘いそのコーヒーは疲れた体に染み渡る。「帰ろっか。」と耳に伝わる安らぐ声に従い、俺達は帰路についた。
それから数日後、俺は初めて国会の場に向かった。目の前には国会議事堂。この中に今日から足を踏み入れる。ここにはヤクザや海外マフィアとは違う魔物達が多く、苦戦をすることだろう。しかし、俺はやる。そう決めたのだから。
「何や、ぼーっと突っ立って、冷やかしか?」
後ろから聞こえるその声の主は若く、俺と同じくらいの歳だろうか。胸に付けたその記章からその男も議員なのだと分かる。
「あんたも議員か。俺と同じくらいの奴がおるとは思わんかった。」
話してみるとずんぐりとした容姿からは想像もできない程強気で、野心もある。「お前には負けんぞ。」と言い残し、中へと入っていった。面白そうな奴だ。また声をかけてみるか。
国会議事堂の中に入り、他の議員に挨拶をして回った。その中で分かったことがある。腐った者の方が多いが、燻ってはいるがいずれ火をつけてやるという意思をもった者も少なからずいるということが。
その着火源となるものがあれば国を変える為に一波起こせるかもしれない。しかし、人数や時期の問題もある。取り敢えずは保留だな。
さて、国会の場は主に憲法改正の話を進めている。隣国からの脅威に備え、自衛隊はあるものの、常に後出しで対応しているが現状だ。その為、突然核ミサイルを放たれ、何も出来ないまま日本が壊滅するという事態も想像に難しく無い。
勿論これは今に始まったことでは無く、ずっと前から言われ続けてきたことだ。蹂躙されるのは嫌だ、戦争をやるのも嫌だと与党と世論が常に平行線のまま続いている。
平和が一番なのは間違いない。そう願おうとも、それをただ自分のために打ち砕こうとする奴が居る。その本当の敵は強大であり、姿を現さない。その敵を引き摺り出し、倒すのが俺の使命。その為なら、二階堂すら踏み台にしてやる。
おっと、顔に出してはいけない今は国会中だ。今はただ汚れの無い実績を積み上げ、上に立つ。それだけだ。




