25.出馬
「右京くん、ネクタイ曲がってるよ。」
部屋の玄関、事務所に向かおうとすると京子にそう言われ引き止められる。振り返り、手を伸ばす彼女に直してもらった。
「これで良し!じゃあ頑張ってね、私も後で応援に行くから!」
見送りを受けながら俺は事務所へと出発した。
あの跡目争いから五年が経ち、二十六歳となった俺は新たな衆議院議員選挙の告示により、選挙活動をしている。
ここまでの五年間を振り返ると、ほとんどが勉強であった。
昴の構想として、まず高卒認定試験に合格し、その後国家公務員試験に合格。安定した職を得ることで、選挙の際の信頼感を上げ、また仕事をすることで繋がりを増やし知名度を上げていくという流れであった。
数年ぶりに行った勉強は、とても新鮮だった。しかし、覚えるのはまた別の話で、たたき込む勢いの勉強はうなりと頭痛の種となる。それでも一度決めたことと忍耐強く取り組んでいった。
その成果として、各試験には無事合格。晴れて国家公務員となった俺はコツコツと仕事に励み、今に至る。
春の陽気に心地良さを覚えながら、事務所となっている西新宿に構えるビルへ向かい、自転車を走らせた。車の免許は取ったものの、この東京では自転車で移動するスタイルの方が楽に感じる。このままでは乗らぬ間にゴールド免許になりそうだ。
西新宿の大きな通りに面する四階建てのビル。その一二階のフロアが俺の選挙事務所だ。昴の伝をフルに使い、後援会も約七万人と中々の規模となっている。今の選挙区での当選ラインは十万票前後、あと一息だ。
事務所に入ると挨拶を受け、直ぐに車に乗り街宣活動へと向かう。今日は駅の近くで演説を行う予定だ。着いた先には俺の演説を聞きに来てくれた人が多くいた。見渡してみると二十代、三十代が多い。それから街宣車の上に上がり、マイクを取った。
「私は衆議院議員選挙立候補者の桂右京です。この場に居る演説を聞きに来てくれた方に感謝致します。この度私が衆議院議員へ立候補したのは今の日本を変えたいと感じたのがきっかけであります。現在テレビで流れる国会中継では、やる気の無い議員、批判ばかりの議員、おおよそ国を背負っているとは言い難い方が多く見受けられます。では何故そんな方々が議員となり、あの場にいられるのか?それは選挙の場にあります。今の日本投票に行こうと考えているのはお年を召された方々が大半、選挙権を得られたばかりの若い方達は依然として積極的ではありません。その為、年金や社会保障等聞こえの良い言葉を並べ、当選をしようと画策しています。このままでは、やる気の無い議員がほんの少し年配の方に媚びた働きをした後、社会のためにならない発言をするだけで、若い我々には生き辛くなる一方です。しかし、それを知ってもただテレビ越しに思うだけでは何も変えられません。だからこそ今の日本を変えたいと立候補しました。未来を担うのは今上の立場で椅子に座っている人ではありません。若い皆さんです。そんな若い皆さんが未来の日本の為、生き生きとしていられる様に私は活動していきたいと考えています。その為に私が当選した暁には次ことを考えています。それは、全ての職業において法的整備を行います。今の日本は精神疾患にかかり、職を失う方が多くいます。仕事の量、人間関係等理由は多くあると思いますが、誰しも自分で選んで入った道であり、辞めたいと思って仕事を始めた訳では無いと思います。そこで働く人々の負荷を抑えるべく法的整備を行います。具体的にはクレーム等の匿名性、秘匿性の排除と、パワハラやセクハラの見直しになります。まずはクレーム等の匿名性、秘匿性を排除することで働く人々の負荷を減らします。お叱りの声は重要ではありますが、匿名という最強の鎧に守られ、あること無いことを伝える方も多くいます。それを無くす為にも全て公表すべきだと考えています。またパワハラやセクハラの見直し。これは職場に活気を与えるための策です。上の職位だからとふんぞり返り、仕事をせず、下へ負担ばかりをかけるという話しを耳にすることがあります。勿論、上の職位に就くにはそれなりの努力と研鑽が必要で、苦労された方ばかりだと思います。上に就くと責任を負う分、厳しくなるのも分かります。しかし、行き過ぎてしまえば、深く心に残ってしまうものです。その為、パワハラやセクハラの罪の重さを今一度見直し、全ての働く人が相手を思い遣る心を育み、職場の風通しと活気を良くできたらと考えています。今お伝えした私の意志も当選しなければ成し得ることはできません。どうかこの場に居る皆さんのお力をこの若造にお貸しして下さい。どうぞよろしくお願いします。」
マイクを下ろし、深く一礼をする。周りからは拍手が上がり、俺の胸が熱くなる。
街宣車の上から降り、今度は応援してくれる方達と握手を交わす。皆「頑張れ。」や「あんたに託す。」といった激励の言葉を添えてくれる。その一つ一つに俺は答えたい、確かな実績を作って。
一通り終えたのを見て、応援に来てくれた京子が歩み寄ってきた。笑顔を見せる彼女を見るとホッとする。
「右京くん、お疲れ様。格好良かったよ。」
そう言いながら缶コーヒーを渡してくれた。
「ありがとう。」
「どういたしまして。本当右京くんがさっき演説した様に楽しく仕事ができる様になったら良いなって皆思ってるよ。だから大丈夫、右京くんの声は皆に届いてるよ。」
「そうだな、そうだと良いな。」
彼女の言葉にまた勇気付けられながら、渇いた喉にコーヒーを流し込む。当選するんだ、そして絶対に日本を変える。




