24.激闘
右京が喜一と公安の仕事をしている頃、俺は東帝会本部へと来ていた。
鈴川と春田との三つ巴の決闘。組同士での抗争とか、被害が大きいのよりは良いんだけど、正直分が悪い。鈴川相手だと、たとえ春田と手を組んだとしても勝ち目が薄すぎるんだよな。会長は鈴川を跡目にしたいらしいし、決闘は俺と春田を黙らせる為のもので、してやられた感じだよ全く。まあ弱音はこの辺にして、やってやるしかない訳だ。
本部の中庭、その広い空間に俺と春田そして鈴川が向かい合う。周りは直系の組の人間が囲み、高座から会長が目を光らせている。これだけ舞台が整っていればこの前の様な横槍は無いだろう。
「春田と秋川、結局貴様らは二人掛かりで来るんか?」
「ああ、そのつもりだ。」
「カッカッカ、よかろう。」
動きやすい様に服を脱ぎ上半身を晒す。鈴川ははち切れないばかりの筋肉を持っているがそれよりも至る所にある深い傷に目が行く。それが伝説の証か。
春田はインテリヤクザというイメージが強いが、それでも直系の組の組長。腕が立たない訳が無い。服の上からは隠されていたアスリートのような無駄無く鍛え上げられた体。俺と同じでボクシングを囓ってるって所か。
「準備ができたなら何時でも良いぞ、かかって来い。」
何時でも良い、か。じゃあ先手はもらっておこう。俺は鈴川の右側から、春田は左側から攻める。両側から鋭い拳が突き出されているのだが、鈴川は難無くそれを手で受け止めた。今の攻撃を簡単に見切るのか。それよりも突き出した拳の感触が堅い。安藤はただのデブでポヨンポヨンした感触だったが、鈴川は正に鋼の体という感じだ。少し間合いを取りながら右足を狙いつつ、顎を突けるタイミングを待つ。
崩さなければいけないが、有効打が出ない。もたついている内に鈴川の反撃が始まる。二対一のこの状況は煩わしいとまず一人を片付けようとしているのか、鈴川は俺の方を向く。一人ずつ片付けるのであれば、まず弱い方からというのがセオリー。なめられているのだろう。ふん、俺は春田より格下ってことかよ。
狩る標的と認識した鈴川、そのプレッシャーは圧倒的で、集中が自然と高まっていく。来る!
鈴川の繰り出す右拳。それは急所ではなく、的の広い場所に向けられている。躱すに躱しきれないその一撃は受けるに容易いが止めるには至らない。受けた両腕の骨は軋み、両足の踏ん張りも空しく地面に跡を残していく。一撃必殺の攻撃では無いと思うその何気ない右拳の威力は凄まじい。あと三発受ければ確実に骨が折れる。これは想像以上に厳しいな。
鈴川を形容する言葉にこういうものがある。その男背に鬼を宿し、振るう拳は絶望を生む。ハハッ、聞いた通りだ。でもそう絶望してはいられない、俺が見ているビジョンはこれを乗り越えた先にあるんだからな。
地を強く蹴り出し、飛び込む。勢い任せだが、脳が発する警鐘を払拭するには効果的だった。ワンツー。胴を捉えた攻撃は快音を鳴らす。鈴川を挟んで反対には春田も居る。前後からの攻撃はいくら体が強くとも効いている筈だ。そう信じて攻め込む。
しかし、春田のことを気にも掛けず俺をロックオンする鈴川。ちょっとは意識が分散してくれれば助かるんだけどな。
鈴川の繰り出す拳は俺の体を外さない。躱そうとするのだが、拳半分は必ず当たり、その度俺の体は悲鳴を上げる。あまり長くは持たないな。春田の攻撃もあまり効いていないみたいだし、一か八だがやるしかない。
鈴川の右拳が飛んでくる中、クロスカウンターを仕掛ける。くらいやがれ・・・!
「・・・ってとこまでが俺が覚えてる所。感触はあったけどそこで俺は意識を失ったのさ。それで結局春田も負けて鈴川が次の跡目になったんだ。」
そうか、昴は負けたのか。
「いや~、あれ程だとはね見積もりが甘すぎたかな。これで当分は次の会長にはなれない、次の手を考えないと。まあ暫くは体を休めたいけどな、見てくれよこの体。もう腫れまくっててさ、痛いのなんの。」
あまり顔には見せていないが悔しいのだろうな。昴の肩に手を置くと「イテッ!」と言って顔をしかめた。おっとこれは悪い。
「悪い、そこまでとは思わなくてな。」
「大丈夫、大丈夫、気にすんな。」
昴は煙草を取り出し火をつける。そして大きく煙を吐き出しこう言った。
「右京、お前政治家とかなってみねえか?」
「どうしたんだ急に?」
「いやな、次の手を考えた時に裏社会でデカイ行動を起こすには今詰んだ状況だなと。それなら表社会、政治家なら色々できないかなって思ってさ。まあ右京は議員になれる年齢じゃないからその時まで準備はしてもらうけど。どうだい?」
政治家か、何か突拍子も無い話で想像も付かない。そもそも政治家って簡単になれるものなのか?俺を知る人間もあまりいないこの時代で認めてもらい、政治家となるのはかなり困難なものだと思う。
「その話どこまで本気なんだ?」
「割と本気かな?七八割ぐらい?あとは右京次第って所だ。」
昴がそこまで言うなら勝算はあるんだろうな。失う物も無いんだ、国の為に戦うのであれば政治家という道は寧ろ真っ当な所でもある。数分考えた後、俺はその話を受けることにした。
「右京なら受けてくれると思った。」
と笑う昴。
「とは言っても俺は何も分かってないからな。頼むぞ相棒。」
俺達は拳をコツンと突き合わせた。




